謝罪の言葉
酒場に向かっている途中で酔いに酔った男とぶつかる。
『いでーー!!』
ぶつけられた側のウィズにとって特に思う感情はなかった。
『謝れい!』
首を傾げているとユキがウィズの背中を押す。
「謝っておいた方が良いです」
「謝るってなに?」
「えっ?」
「良く、分からない」
男の言葉が強くなる。メイリアが代わりに謝ることで穏便に済んだ。
「ウィズさま、悪いことをしたら謝らないといけないんですよ」
「いいことを、する?」
「そうです、悪いことをしたら」
ユキの話に割り込むメイリア。
『そうそう、こう言うのよ、アイムソーリーヒゲソーリーってね』
「な、何言ってるんですか!」
ウィズはフムフムと頷く。
「ダメですウィズさま! ごめんなさいって言うんです!」
「メイリアを信じたい」
「そんな!?」
「先に言った方を信じる」
言葉を復唱するウィズ。ユキはメイリアを貫く勢いで見やる。
「い、言ってみるものね、ほんとに、アイムソーリーヒゲソーリ〜って」
半音を上げて歌うようにメイリアは茶化す。クツクツ笑って陰湿。
「さいてーです」
酒場に入るとウィズに気づいたニーナが優先的に空いた席へ案内する。
『ウィズ、大丈夫だった?』
「残念だけど記憶失ってるから……」
「そうなの?」
席で注文を聞くニーナ。
「ウィズは何が食べたい?」
何食わぬ顔で食べたいものをウィズから聞く。
「…………」
答えられないウィズの為にニーナは口パクで答えを誘導する。
「 、 、 、 」
唇が横に空いて歯がウィズを覗く。それから三回、形を変えて唇がすぼむ。
『い、つ、も、の』
「それそれ! いつも通りの普段通り! 騙された!」
「そうでもない……」
今のウィズにニーナのテンションは苦手のようで。
「これとこれとこれね」
感じ取ったメイリアはさっと助け舟をだす。
「ウィズー? 好きな人だれー?」
じっと見るニーナの肩が微かに揺れる。
「あ、明日を祝って軽くお酒でも! 酒場ですからね!」
ウィズとニーナを遮るようにユキが身を乗り出した。
『ユキが好き』
時が戻るようにユキは座る。気まずそうにニーナから目を逸らす。
「ふーん……ほんっとうに記憶ないんだね」
口元によせたメモ帳の裏でニーナの右頬が微かに膨らむ。
「ウィズさま、このようなたぶらかす人は無視した方が良いですっ」
「たぶらかしてないもん」
ニーナは逃げるように仕事に戻っていった。
「私の注文は?」
「一品だけ、わけてあげるわ」
「お酒も欲しかったんですが」
申し訳なさそうにウィズが言う。
『アイムソーリーヒゲソーリー』
「……メイリアのばか!!」
ユキの平手は赤い髪を見事に叩いた。




