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僕が死んだら




 メイリアにとって剣は犠牲。少なくとも剣より先に持ち主がくたばってはならない。


 くたばらないように犠牲にして先に進む必要がある。


『おっと』


 もっとも、剣を失ったまま前に進むのは愚か。


「なにしてるんですか?」


 剣を振っただけで前のめりに体制を崩すメイリアを見たユキは不思議そうに首を傾げる。


「剣が重いだけ」


「調子が良くない、とか?」


「そうかも」


 メイリアの剣はショートと名乗るには長く、ロングと名乗るには短い代物。


 両手から切り替えるように片手で振った時に体がブレた。


「言っておきますが、風の魔法は未だに使えませんからね」


「そ、それがなに?」


「助けてあげませんってことです」


 つんっとユキはそっぽを向いて小さな魔法を両手に含ませる。



「頼んだりしませんわ! 逆に感謝しまくりなさい!」



 上から斜めに振り下ろされた一撃がドスンと地面を抉る。



 キィイン。そのまま根元が鉄の欠片を散らした。



「えっ?」


 埋もれたまま垂直に立つ刃。軽くなった持ち手をメイリアは見つめる。


「は、はああ!?」


 目を大きく開いて嘆くメイリア。


「どんまいです」


「あ、り、え、な、い、わ!」


「買い替えてなかったんじゃないですか」


「本ほど古いわけじゃないのよ……?」


 ユキは少しだけ考えて原因を見つける。


「ウィズさまが剣を熱くしすぎた時がありましたね」


「くっ、あのウィズ……最悪」


 かと言って今のウィズはそんなことを知らない。八つ当たりでしかない。


「よかったじゃないですか、実践で壊れたわけじゃなくて」


「この剣は指定して作ってもらったの、これじゃあまたフェニックスから遠ざかるわ」


 僅かに残った刃先を手のひらに乗せてドングリを測るように長さを確かめる。



 どう測っても使いようがないと理解したメイリアは鞘に収めて近くに刺さった剣を引き抜いた。



「あら軽い」



 マオがウィズの家を尋ねた時に捨てていった直剣。



 それは日差しでキラリと光る。使ってくれと光る。



 簡単に振って汚れを落とす。風を切る心地よい音。



「ユキ、お願い聞いてくれる?」


「なんですか?」


「一人で練習させて、慣れないといけないから」


「良いですよ」


『ありがとう』


 ユキはその場をメイリアに譲って部屋の中で魔法を育てる。


「……ユキ様」


 来たことに気づいたウィズは紙を畳み始める。


「何を書いてたんですか?」


「遺書を少し」


「遺書?」


『て、手紙だった! 遺書は縁起が悪いとメイリア様から聞いたばかりなのに』


 スッと手紙が差し出される。


「読んでいいですか」


「や、やめてほしい。ユキ様に向けて書いたわけじゃない、でも受け取って欲しい」


「知らない人だったら渡せませんよ」


「ユキ様も知ってる有名人だから、安心して欲しい」



 親指と人差し指に紙の擦れた熱が残る。ウィズの手がタランと降りる。



『僕が死んだら、』





 言葉を詰まらせたウィズは右手を胸に当てて口先だけを頼りに熱を込めた風を吹かせる。





『俺に渡して欲しい。』





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