魔法より人間を操る方が簡単
おかしい、あの日からずっと貸切オンリーで飲んでたグレイ達が普通にやってきた。
しかも空いてる席が俺の近くしかないから座ってきた!
他所を見ながらバレないように誤魔化す。
『何が食べたい? おっと、何が食べたいですか、ウィズさ、ま』
俺の注文を取りに来てくれたのはニーナ。酒場の看板娘。
早く来てくれという願いが通じたようだった。
「わざとらしい、見てたくせに」
「見てたけど、態度を変えるつもりはないよ」
「じゃあいつもの」
り。それだけ言ってニーナは姿を隠す。
「人混みの中って有り得ねえ」
グレイは不満そうに呟く。
「女の中にいつも入ってるくせにー」
チャチャを入れたのはメサイア。
「それもそうだったわ! ははは! んなわけねえだろ」
俺は聞き流しながら朝食を待つ。
「どーぞー」
ニーナはカタンと一枚の皿とコップをテーブルへ。
「助かる」
いつもの内容は軽く炙ったスライスパンと冷えた水。
シンプルイズベスト。
「お金払う暇、ないよね」
グレイ達を見たニーナが一言。
「いや、払う」
「今回はちょろまかしとくから、今度あそんで」
人差し指を立ててニッと笑うとニーナは他の注文を受けに行った。
払わなくていいなら払わないでいいな。
サクサクと齧って口の中に残ったパンクズと程よい塩気を水で流し込む。
それを五回繰り返して席を立つ。俺は難なくその場を。
『おいウィズ、お前が居なくなってからどいつもこいつも言うこと聞かないんだが、根回ししたんじゃないだろうな?』
去れなかったので振り返る。
『証拠ある?』
「はっ? あるわけ」
「証明できないってことは言いがかりと変わらない」
「根に持ってるのかよ、気色悪りい」
「千歩譲って、根回ししたとしてやってもいい」
「したのかよ」
いつでも逃げれるように心の準備。
『その程度で消え失せる勇者ってことだ』
ガタンとグレイが立ち上がる。
「なんだと……!」
気がつくとグレイに胸ぐらを掴まれていた。
これが勇者の底力か!
「これだけは言わせてくれ、何もしてない」
「そんなわけないだろうが」
周りは段々と異常な状況に気づきつつある、大事にはしたくない。
『勇者から突き放されるような役に立たない人間に従う奴が居るわけないだろう?』
グレイは一瞬だけ目を見開いて布にギリギリ言われていた手の力をゆるめる。
「それも、そうだわ、いつも俺達の隣にいて居なくなっても馬鹿みたいに金払って飯食ってやがる、こんな貧弱一般人につくやつ居るわけねえっての」
「いや、今回は払わなくて済んだ」
「なんでお前だけ優遇されてるんだよ!」
「色んな人と仲良いから」
「やっぱり気に食わねえ!」
マオが落ち着いてとグレイを座らせる。
俺は酒場を出ながら少し大きな声を出す。
『そういえば、近くに小さなダンジョンができてて封鎖を頼まれてるんだった』