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変わった者と変わっていく者




 ウィズの家に戻るとユキの特訓が始まった。魔法の特訓。


『どうして広い場所でしない?』


「記憶に結びつくのは身近な物、家が一番よ」


 メイリアはウィズの隣に座って様子を気にかけている。


「へえ」


「他人事ね」


「ここ自体、他人の家としか思えない」


「私だって最初はなんてクソみたいな家なのかしらって思ったわ、でも慣れてしまえばこの通り」


「家の持ち主じゃなくて良かった、持ち主だったら手を出していた」



 ユキが驚いた様な声を出す。


『やりました!』


 振り返って嬉しそうに報告する。



「なにがやったの?」


「指に火がついたんです!」


「やるじゃない」


 メイリアに褒められたユキはむふふと分かりやすく機嫌を良くする。


「ウィズさまのおかげです!」



 そう言って練習に戻っていく。ウィズが口を開く。


「褒めるなんて珍しい、そんな気がした」



「それは正解、もしあなたが普段通りだったら何も言わなかったわ」


「強くなって欲しい理由がある?」


「そんなことも分からないなんて腹立たしい」


 メイリアは人差し指を丸めてパチンとウィズの額を弾く。


「思ったより痛くなかった」


「手加減してあげたの」


「手加減なんて、しない方がいい気がする」


 知っているかのように言うウィズ。


「そうね、してなかったらこんなことにもなってないと思うわ」


 メイリアは手を後ろについて跳ねるように立ち上がる。


「なにを?」


「なにって、ダンジョンに向けての練習」


「ダンジョン?」


「そんなことも忘れた?」


 呆れつつも説明してくれたのはメイリアの優しさだった。


「危険だけど明日には行くつもりだから、記憶を戻す努力をしてなさい」


「早すぎる」


「ダンジョンを綺麗にしてあげたらお金が手に入る、それでまた立て直す。嫌でしょ、ユキの財布に住むのは」


「メイリアにプライドがないだけ」



 今度こそ手加減抜きの平手打ちがウィズに炸裂する。



『もうちょっと考えてからモノを言って』



「では紙とペンをくれ」


「絵でも書いて食いつなぐ?」


 違うとウィズは首を振る。


『僕は生きて帰れるなんて思えない。せめて遺書を書いておきたい』


「えんぎわるっ……」


「これでも考えてモノを言った」


「本当にくたばれば良いのに」


 紙と羽のペン。メイリアは拭くものを探した時の記憶を頼りにウィズへ持っていく。


「ちょうどあったわ」


「ありがとう、メイリア様」


「おっほっほ……皮肉じゃないわよね?」


 少し間を置いてウィズは言う。




『メイリア様』




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