雪に埋もれたリンゴは目立つ
しばらくしてメイリアが出てきた。乾かせと無言の圧力。
暖かそうな温風がメイリアを撫でる。
「ずっとこのままでいいわ!」
「だめです」
ウィズの視界をユキの手が覆う。
「ダンジョンも、どうせ楽勝」
「だといいんですが」
メイリアは満足したのかテキパキと装備を着込んでいく。
「女なら、綺麗に生きないとね」
ユキを横切るメイリア。
「女なので、恥ずかしくないように生きます」
赤い髪が止まった一瞬。気がつくとメイリアは肩を寄せてユキを壁際に押していた。
『臭うけれど』
「……」
「なんてね」
それだけ言って立ち去っていく。
残されたユキはウィズを見た。ぼんやりとしたウィズは借りてきた猫のよう。
「私も入ります」
ユキは一息に服を脱いで濡れた床を進む。
「見ていいですからね、ウィズさま」
特に返事がくるわけでもなく。ただひたすらの湯水が答え。
目を閉じてユキはクルリとウィズの方を向く。
湯気と一緒にゆらむ肌は雪のように白く、魅力を吸って照れる。
「なにか、言ってくれませんか」
「言えない」
「……綺麗じゃないから?」
「ちがう」
水滴に逆らってうっすらとユキは目を開ける。
「見て、いいんですよ……」
目を閉じたままのウィズにポツリとつぶやく。
「見て欲しくない、そんな顔をしていた」
「そんな顔してません」
「赤い顔をしていた」
ユキの顔は湯に当てられたような赤さで。胸元に腕を這わせて忍んでいた。
「…………」
「ちがう?」
「違います。でも、違ってません」
もういいです。ユキは言う。
「良くない」
「もう満足したってことです」
雨が止めば風が吹く。
「……浸からない?」
「浸かるのは好きじゃないんです」
乾くとユキはウィズの隣で服を着直した。
「服、着ました」
パチパチとウィズは瞬いて反応する。
「乾ききっていない」
そう言って手を伸ばしてユキの髪に触れる。
「だ、大丈夫ですっ」
「大丈夫、気にしない」
髪の隙間から糸を通すように風と熱で水滴を撃った。
「……ありがとう、ございます」
「嬉しくなさそうな顔をしている」
「う、嬉しいですよ、本当です……」
ウィズを置いてユキは足早に去っていった。
メイリアは忙しない様子のユキを見てフッと笑い、それは大きくなっていく。
『おっほっほっほ』
手の甲に声を乗せて高らかに響かせる。
「なんですか!」
「バカ正直は、損よ」
コンコンと家のドアをノックする音が聞こえる。
「私は出ませんから!」
「そう」
メイリアはドアを開けて後ずさる。
「どうやって出てきたのかしら? 言っておくけれど、敵の仲間は敵」
腰の剣に手を添えて敵意を抜く。
『ご、ごめんなさい! でも死ぬのは嫌!』
『どうかご慈悲を!』
お尋ね者のメサイアとマオだった。
「帰ってください! あなた達のせいでウィズさまが……」
声に気づいて横槍を挟んだユキの口をメイリアは塞ぐ。
「帰ってちょうだい」
「そ、そっちのリーダーはウィズ! ウィズを出して!」
「今は居ないわ」
足音に振り返るとウィズが出てきていた。
「ほらいる!」
「やっぱり!」
マオ達は嬉しそうに声を揃える。
苦虫を噛み潰したような、メイリアの苦い顔。
「ウィズ! 脱獄してきたんだけど、無罪にしてくれないかな! 戻されたら斬首なんだよぉ……」
しくしくと泣き真似をするメサイアは演技派だった。
「僕の一言で何かが変わるなら、手を貸そう」
「さっすがウィズ!」
口車に載せられ、手も引かれ。メイリアは深いため息をついた。
「あのままなら、そうなりますよ」
ユキはウィズの状態を言うつもりだったようで。今からでも遅くないと言う。
『バカ正直に言っても、損するだけ』
後を追ってメイリアも外に出る。
『ウィズの記憶を戻してあげたらいいだけ』




