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勇者と元勇者共




『え?』


 風が隙間を縫ったような、ユキの抜けた声。


『うぃ、ウィズさま!』


 滞った状況が流れを取り戻す。



 ユキはウィズに触れる。メイリアが剣を抜いてグレイに振る。



「おっと」


「不意打ちは卑怯よ!」


「勝てばいい、ちょうど邪魔だと思ってたところなんだ」


 グレイは手を広げて雨粒を握る。薄気味悪くニヤつく。


「ほら、来いよ。勇者様だぞ」


「私は手を出さない」


 顔の横で剣を構えて脇を締める。刃先を向けて敵意を向けるメイリアは少しも雨に怯まない。


「法に忠実な女は嫌いじゃない」


「でも、他はどうかしら?」


 グレイが周りを見る。人が国の騎士が、既に集まっていた。


『ウィズ様の役に立つのは今しかない!』


『そうだそうだ!』



 三人の騎士に混じって構える民にグレイは顔色一つ変えず剣を向ける。


『勇者は強い、勇者はなにしてもいい』



「幻想ばかり言いやがって! ウィズ様が居なかったら許してねえ!」


『勇者は、殺し方を選んでもいい』


 鞘の剣が雨に打たれてシュウシュウ鳴く。


「な、なにいってんだ!」


『この鞘は酷く凍ったままだが、愚か者が望むならこのまま戦わなければならない』


「鈍器如きに……」


「そうなると最も効率が良いのは斬ることじゃなくなる、だが効率的じゃないと俺は負けてしまう」


 グレイは剣を掲げて周りを睨む。赤熱した鉄の鞘が真っ赤な火を噴いた。




『一歩でも動いてみろ、全員焼き殺す』




 紅蓮の炎はグレイの本領。誰もが石のように固まる。


 ユキもメイリアもピタリと止まる。


「……もう、ダメかと思った」


 メサイアがポツリと呟いでグレイに近づく。


「なにしてるんだ?」


「なに、って?」


『動いていいとは言っていない』


「えっ?」


 剣を下ろしたグレイが逃げるように歩き出す。


「ま、待って」


 来るな。メサイアに向けられた剣先が言う。



「死にかけた時に助けもしないやつは女でも要らん」


「このままじゃウチら……」


 マオがイヤイヤと声を上げる。


「ちょっと、ちょっとちょっと! ウチらって私も含んでるみたいじゃんか!」


 不満げに頬を膨らませてグレイを見る。


「お前もだ」


「え、なんで」


「飽きた、女として」


 グレイが立ち去っていく。二人だけが残る。


「いや、いやいやいや……」


『捕まえろ!』


 為す術もなく二人は捕まえられ、縄でグルグルに。


 マオは武器を携行して居らず、メサイアは戦いが得意ではなかった。


「サイアク、もっと媚び売っとけばよかった」


「売ってもこうなるから!」


 メイリアの後悔にマオの反論。




『ウィズさま……』


 起きてほしそうにユキはウィズを揺さぶる。


「もしおっ死んでたら手を合わせるだけ、泣くのはまだ早い」


 剣を収めて静かに手を合わせるメイリア。



「なむなむ……」


 ――黙祷。



『ま、まだ死んでません! やめてください!』



「あら、そう? 早く言いなさい」




 メイリアは物を扱うように容易く。ウィズを両手に収めた。






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