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氷に染まって死んでゆけ




 ユキのほんのり暖かい人差し指をメイリアは握った。


『何か、食べましょ』


 返事を待たずにユキを引き上げて外へ連れ出す。


「……」


「エネルギーを取らないと、灯るものも灯らない!」


「いつも食べているモノはエネルギーじゃないですか?」


「ぐむむっ」


 食べているメイリアも火付かず飛ばずの状態。


 痛いところを突かれてじっと睨んで誤魔化した。


「でも食べたいです」


「そう、食べることに理由なんていりませんのよ……」


 赤い髪を掬って背中に上げたメイリアはさっきと真逆のことを述べた。


 二人は外に出て曇り空を見上げる。ユキは手を伸ばして引く。


『晴れが一番、好きなんですが』


「それがどうかした?」


「……なんでもないです」


 いつもの酒場に付くとメイリアはニーナを呼びつけた。



「あなた! 今度こそは注文を聞きなさい」


「は、はい!」


「これとこれとこれとこれとこれとこれ!」


「そ、そんなに……?」


 ニーナは素早い指の指定にメモを走らせることはできなかった。


「分からないならもう一度やってあげましょう」


 一つ目のこれ。美味しそうな肉料理。


 二つ目のこれは空白。三つ目も四つ目も。


「これとこれ」


 最後の二つだけ肉。


「はあ……」


 ニーナはめんどくさい人だと思った。



「物事は効率的に! テキパキと!」


 どの面下げて言っているのか。



「分かりました……」


 下がっていくニーナを見ながら指を振るメイリア。


「三つ頼んだのはウィズ様の分ですか?」


「そんなわけないでしょ、私がそんなに優しい人に見える?」


 髪をかきあげ我が道を往く女。


「全然、これっぽっちも思いませんでした」


 ユキは何度も首を横に振った。


「そ、そう? そうなのね」


「はい」


「ふうん……」


 料理の待ち時間。ユキは周りを見たりして過ごす。



 嬉しくないことに勇者達も食事を取っている。



 朝から酒と一緒に塩気を流している。



 ウィズ様は居ないのに。こびり付く不快感にユキは目を背けた。


「おまたせしました〜」


「なかなか早いじゃない?」


「いえいえ、ところでウィズは」


「家宝を取り戻しに行ってるわ、自慢するわけじゃないけど、ウィズのことを信頼してる三人の側近の一人の家宝をね」


 ニーナは何も言わずにユキを見た。


「実は今知ったので、よく分からないです」


「残念」


 ニーナが下がっていくとメイリアは料理に手を合わせ始めた。



「それでは頂きましょ」


「さっきの話、本当なんですか?」


「ええ、本当よ、信頼してる私にだけ教えてくれたわ」


「そこじゃなくて……」


『家宝の話も本当、冷めないうちに』


 メイリアは丁寧に一皿を空いた席に置いて得物を取った。


『頂きましょうか』



「待たないんですか?」


「待つわけがありませんわ」


 優しく思えたメイリアは優しくなく。ユキは静かに食べ進めた。


 食べ終えたメイリアが広げた手のひらの指を折っていく。


 ユキは手が吊ったんだと思いながら見つめる。


「十数えたら、これも食べてしまおうかしら」


 視線の疑問に答えて皿を引き寄せた。



「そうですか……」


「来るかも分からないのに、冷めたらもったいないもの」


 そう言って肉を口に運ぶ。湯気もまとめて消えていった。


「では行きましょう」


 口元のソースを拭ってメイリアは席を立つ。


 勇者達はもう居なくなっていた。


「早く外へ」


「払わないんですか?」


「もう小遣いがないの! はやくはやく!」


「だ、だったら……」


「さっさとして!」


 メイリアに手を引かれて酒場を後にするユキ。




『グレイ、くさりかたびらの財宝達はどうした』


 外では男達の喧嘩。それもウィズとグレイ。




「盗み屋から盗むなんて真似、勇者にはできない、勇者じゃないウィズの方が怪しさ満点としかいえネイー」


「ふざけてるのか」


 ウィズの手がグレイの首を掴む。


「そもそも、証拠はどこにある?」


「鉄を突破するには熱がいる」


「それができる魔法使いはお前だけ」


「鉄を切り裂くには熱を宿した武器がいる」



 ウィズは言葉を返す。


『それができるのも、グレイじゃないか』



「剣技は認めよう、ただ、そんな使い手は他にもいる」


「生半可な温度ではできない」


「だったらなんでも通っちまうな、もうそういうことでいい、この話はおしまい」


 グレイは話を切ろうと手を解こうとする。


「だったら財宝をここに置いていけ」


「できない、売ったからだ」


「売った? どこに」


 グレイはウィズにだけ分かるようにニヤついた。


『くさりかたびらに、売り返してやった。捕まえてやってもいいんだぞって脅したら色つけてくれたよ』


『それでも勇者か!』


「現役の、勇者ですが何か?」



「していい事と悪いことがある!!」



 グレイを突き飛ばしたウィズは拳を握ってストレートを放った。



 戦闘経験豊富なグレイは容易く防いで突っぱねた。



「正当防衛って通ると思うか?」


 グレイは後ろの二人に問う。


「通る」


「通ると思う」


 メサイアとマオは淡々と答えた。



「俺も一発で済ませてやる。腹立ってたんだ」


 剣を抜こうとしてグレイは抜けないことを知る。


「だったら、抜かなくていい」


 鞘ごと持った剣をウィズに向ける。


 しばらくして蒸気と共に鞘から水滴が零れる。


「溶けて火が吹くやも……それで充分、殺せる」




 ウィズも対抗するように鞘先に右手を向けて指を開く。




 段々と右目が白濁していく。その度に鞘が霜に塗り変わる。




『こんな勇者、居ない方がマシだ。』




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