ユキの練習成果
「ユキのことを頼んでもいいか?」
剣を収めたメイリアが俺を見る。
「何か用事?」
「家宝とやらを取り戻しにいく」
「そう、帰ってこなくても良くてよ」
「それも悪くない」
家を出て目的の場所へ歩く。酒場ではなく、くさりかたびらのアジトへ。
場所を知っていても今までは見て見ぬ振りだった。見ても仕方ない、塞いでも仕方ない。
ダンジョンのように塞いでもどこかでまたアジトができる。
それなら、知らないフリをして知られないように物を拝借して持ち主に返せばいい。
廃屋にも見えるボロボロの建物に近づく。中はとても埃臭く、服で鼻元を隠す。
少し進んで床に取り付けられた四角い扉を開こうとして気づく。
既に扉は開かれていた。乱雑にぶっ壊すように。
誰かがやってきた? くさりかたびら同士の争い?
物音はしない。入ってみるか。
暗い底に足を入れて飛び込む。ピチャリと水の音。
足を上げようとしてクチクチ吸い付く何か。
指先に火をつけて気づく真っ赤な空間。周りに転がる物は過去で言う人と定義される者達。
血生臭い。
吐き気を堪えて進む。どこ見ても赤くて目のやり場に困る。
彼らの宝物庫は鍵ではなく、物理的に突破されていた。
いくら盗賊といえど、鉄を使ってしっかり施錠している上でこの強行突破。
『…………』
魔法にしかできない。それも高温にさせる魔法。もしくは剣技で強引に鉄壁を融解させたとしか思えない。
まさか、夜のうちに?
『フェニックス・オーダー』
ブオンと振り落ちる剣を鞘に戻してメイリアはグルグル鳴る腹に手を置いた。
眠りこけるユキを見てウンと頷くと。近づいてユキを強く揺さぶる。
「起きなさい」
『ウィズさまー』
「巻き付かないでくださらない?」
メイリアは寝ぼけた腕を払ってユキを起こす。
「ウィズさ……あ、おはようございます」
「起きなかったら置いていくところでしたわ!」
「ウィズさまは?」
「もうお行きになられましたわ?」
ニヤリと笑ってみせるメイリア。
「そんな……」
「あなた、いや『ユキ』には才能が一欠片もござらないって分かったんじゃない?」
赤い髪をかきあげて不安を煽る。
『ですよね』
ユキは唇を噛んでその場で膝を抱く。
『まだ、指先に火をつけることもできませんから』
うつむき加減で口元を腕に寄せる。
「じょ、冗談よ! 真に受けるなんて馬鹿なんじゃないかしら!」
ドウドウと手の平を見せておどけるメイリア。おほほと乾いた笑い。
「……な、なにができないのかしら? 言ってみなさい? ウィズはある程度できてるって言ってたじゃない?」
「ウィズさまの前ではつくんですが、一人で練習しても火はつきませんでした」
「きっと練習のし過ぎですこと、今しましょう」
メイリアはユキの後ろに回って背中に手を置く。
「ほらやってみなさい」
それでもユキは人差し指を立てるだけ。
「なにしてるの、やらないというのはできないと何も変わりませんのよ?」
『これが私の、精一杯なんです』
ユキの人差し指はプルプル震えていた。




