才能は才能で継がなければならない
練習を眺めているとメイリアが帰ってきた。
特に何かを言うわけでもなく、大賢者アライゼの本をくつろぎながら読み込む。
ユキにだけ付きっきりで教えるのはフェアではない。
俺は時計を眺めていた。
陽が落ちる時間。本をパタンと閉じる音。
『そろそろ、何かを食べにいきましょう』
「食べたんじゃないのか」
「食べましたとも」
メイリアは当然のように立ち上がる。
「ユキも休憩する時間だ」
「はい」
あまり成果は得られなかったのか、ハキハキしていない。
「まだ時間はある」
「まあなんというお世辞ですこと、そんなに時間は」
「あのメイリアより若いんだ、諦めるな」
「おっほっほっほ……」
酒場に来た俺達は手頃な席を見つけて座る。よく見るとグレイ達が既に肉を頬張っていた。勇者感は完全に消えている。
『はいこれ』
急にカタンと置かれた紙と羽根ペン。気づいた時にはニーナはもう近くには居なかった。
「あの子、看板娘じゃないの? こんなぶっきらぼうでいいのかしら」
メイリアは頬杖を突きつつ紙に文字を書き込む。やたら綺麗に書かれていたのは料理名。
「め、メイリアさまっ」
「さまなんて要らないから。どうしたの?」
「夜も頑張れるご飯を教えてください!」
「まさか……止めはしないけれど」
そして増えるメニュー。
「ウィズは?」
「手始めに水」
「要らないってことね、はいはい」
「そういうことだ」
「正気?」
手持ちがないなんて言えるわけがない。
「もういいか? いいなら持ってく」
「ええ、まあ……」
俺は紙を持って席を立つ。
ニーナが表にいないということは裏で休憩しているのかもしれない。
最近の振る舞いが気になっていた俺はニーナが居そうなエリアに入ってみた。
ドアの先にはニーナが椅子に座っていた。俺に気づいて立ち上がる。
「これ、どうすればいい?」
「……料理人に見せるから」
そう言って手のひらを見せるニーナに近づく。
「他の人にも、こんな風に持ってきて貰ってるのか」
それはないよって首を振る。
「なら、いいか」
紙を渡せる距離で手を伸ばす。
その手を避けたニーナが潜るように近づく。気がついたら抱きしめられていた。
『よく、ないよ』
顔を埋めるニーナの声が服を振動させる。
「ウィズと付き合ってるって思ったのに」
「そういうことは、考えてこなかった」
ニーナの締める腕がグッと強まる。
「付き合ったら伝説の魔法使いの何かになる、ニーナにはニーナとして居て欲しい」
俺は話す。ニーナを離す。身勝手なことを言ってるのは分かってる。
「……あの子と付き合うくせに」
「俺は、付き合えるとも思ってない」
ユキがどれほどなのか、俺にはまだ分からない。
「父次第で却下も有り得る、そういう立場なんだ」
伝説の魔法使いと付き合ったのが大賢者だったように。
才能は才能で継がなければならない。
『押し通せばいいのに、意気地無し』
ニーナは俺から離れてクルリと背中を向ける。
『でも、優しいね……』




