恋人繋ぎを知らない恋人
『じゃあどうするのよ!』
「鞘に戻すしかない」
「熱すぎて無理」
そう思ってユキの隣に避難してきた。
「想定の範疇だ」
「凍らせるとかしてくださらない!?」
「凍らせると簡単に言うが、仕組みは水と冷気の作用で凍らせるという」
「他に何かないの!?」
俺は無視してユキの手を首から頬にずらす。
「ねえ!」
聞こえない、聞かない。物事は冷静に。
「……冷静になっても冷えるわけないでしょ!」
「鞘に戻すしかないんだ、本当に」
「あつ、あっづ!」
メイリアはなんとか剣を持ち直す。火の粉を散らしながら手早く鞘に剣を戻した。それは神速の領域。
「あちちち……」
手のひらにフッと息をかけても意味を成さない。
「ユキ! 私の手を冷やしなさい!」
「ウィズさま専用です」
ユキがイタズラに両手を後ろに隠して唇を丸める。
「じゃあウィズ!」
「ああ、任せてくれ」
今回は俺が悪い部分もある。冷やしてあげよう。
「……気持ちいい」
「そうか」
『もう少し、上品に握りましょう?』
重ねた手の向きを九十度変えて編むようにメイリアの指が絡む。
「う、受け入れちゃダメです!」
間に立ったユキが手を離そうと奮闘する。
「恋人繋ぎも知らない小娘は引っ込んでなさい、おほほほ」
弄ぶようにメイリアは一歩進んで距離を詰める。
「ウィズさまはあげませんっ」
横からユキがピッタリ引っ付いて離れない。
「俺は誰のモノでもない、なるつもりもない」
「……狙ってる輩は多いです」
そう言って片頬を膨らませる。視線の先はメイリア。
「こ、こんなぱっとしない魔法使いを狙う? センスがないんじゃないの!」
心外だと言わんばかりに手を振り離され、間接的に貶される。
「なくてもいいんですっ!」
ユキはそれを擁護してくれなかった!
「見る目なし魔法なし!」
「ま、まだ、魔法は使えるほうです!」
闘争心は成長を掻き立てる。ダメ元で提案してみる。
「じゃあどっちが強いか決めたらどうだ? ユキは魔法、メイリアは剣」
望むところよと啖呵を切るメイリアを止める。
「それはまだ決めない、この練習期間を通じて自己練習に励め、結果はダンジョンで決めよう」
二人は条件を飲んでくれた。
「負けるつもりはありません! ウィズさまは私のモノです!」
「それはお譲りするわ……」
真剣なトーンでメイリアは手を見せる。
「そうなんですか? じゃあ戦わなくていいです」
勝った方の味方に着くと付け加える。
「要らないって言いましたけど?」
「絶対に勝ちます」
ユキはそれから全力で練習に取り組んでいた。
『ねえ、本当にあなたのことが好きじゃない』
誰にも聞こえないような声量でメイリアからの告白。
「どうでもいいこと、分かってちょうだい」
「……なんだって!? デートのお誘い!?」
ユキがじっとり俺達を見た。良い感じに練習が回る。
「ち、違うって!」
「仕方ない、ダンジョン次第で検討する」
「本当にいつか、痛い目みたらいいわ!!」
メイリアは呆れた様子で練習場を後にしようとした。
「おい、どこ行くんだ」
『ご飯を食べに。ついてこないよう、お願い申し上げます』
丁寧に礼までして出ていく。明確な悪意を感じた。
飯時まで、ユキの練習を眺めていよう。




