三人で一人
ユキには他の魔法のコツも教えてみた。結果はさっぱり。
さっぱりと言ってもメイリアほどじゃない。少しだけ効果を持って現れる。
『ウィズさま……』
「落ち込むのはまだ早い、メイリアみたいなタイプも居る」
メイリアは珍しく肯定的にユキを励ます立場を買ってくれた。
「ええ、魔法と呼ぶにはあまりにも残酷ですから」
「魔法というより、剣技の類じゃないか」
「剣技ですって?」
魔法の発動は人によって様々。俺みたいにすぐ出せる奴とすぐ出せない奴。
「特定のステップを踏まないとろくに魔法が使えない奴を皮肉って剣技とか黙祷術とか言うんだ」
メイリアの剣を決まった方向に振り上げて下ろす動作や鞘にわざわざ戻すのはステップを踏んでいると言える。
威力が変わるわけでもない。その武器がなかったら発動もままならない。皮肉られて当然。
「そうなの……?」
「よく罵られないで生きてこれたな」
そんな奴に比べたら可能性しかないとユキを励ます。
「継続していこう、正しく扱えるようになったらこんなこともできる」
指を鳴らして魔法の合図。
「つ、つめふぁいですっ」
ユキの口の中に半透明の丸い魔法。慣れてきたのかコロコロ転がし始める。
「私にもくださいまし……」
「そんなに美味しくない」
メイリアにも発動すると驚いた様子。
「新鮮な感じがなかなか」
途中で飽きたのかメイリアはペッと氷を吐いた。
「そんなことよりも、剣技について詳しく。フェニックスを取り戻したいですわ」
「いつもの動きをしていたんじゃないのか?」
「してましたとも」
「問題があるとすれば、メイリア自身なんじゃないか」
本当に真剣なのか返事はない。
「気の持ちよう、戦況に左右される奴もいる。勇者はまさにそうだった」
「じゃあどうすれば良いと言うの?」
「ただ強くなればいい」
「そんなむちゃなこと」
「俺達は三人じゃない、一人だ」
振り返って氷を楽しむユキを指す。
「ユキが魔法使いならお前は片手の剣。俺は杖にも鞘にもなってやる」
「何を言って……」
『フェニックスは、鞘の中で火がつくんじゃないか』
俺が腰元に指で示すとメイリアは鞘から剣を抜いた。真っ赤に焼け付いた刃は空気を吸って燃え盛る。
「本当に、あの時はウィズが」
「さあな」
熱源から離れてユキに近づく。
「ユキ、手を貸してくれ」
「……あ、はい! なんですか!」
ユキの両手を握って冷やす力を求める。メイリアから距離を取った。
「もっと冷やせないか、頼む」
「が、がんばります……」
ゴウゴウ燃える剣の熱風に煽られ、髪が汗で張り付く。
「ちょっと熱くしすぎたな」
「ウィズさま、首ならもっと冷えますよ」
ユキの手を握って首元へ近づける。確かに涼しくなっていった。
「……ウィズ? 戻してくださらない? ちょっと、今までの態度謝りますから!」
俺はダメだと首を振って謝る。
『熱くしすぎて、水をかけたら爆発する』




