普通すぎて異常な家
『どこが変なのか教えなさいよ』
『教えてあげません』
「あなたなんかに聞いてないわ」
「あなた、じゃなくてユキです!」
俺は二人に家の前に来たことを告げる。
「これがウィズさまの家?」
「本当に、スペル様と血が繋がってるの?」
変な人より小さな家に住んでいるという事実は二度と覆せない。
「その分花壇の練習場とかそういうのが色々と……」
人数が増えると手狭になる。そう思うと広いとは思えなくなってきた。
「あれが練習場って……」
メイリアの言いたいことは分かってる。だから言わせない。
「とにかく試せる、それで十分」
家の中へ案内する。
「普通ですね」
『普通すぎて異常、ね』
最低限の物しか置いてなかった状態が役に立っている。
「こっから練習場に入れる」
指で示した正規の出口とぽっかり空いた穴。
「見りゃわかるでしょうが」
「俺はどっちから出ようか迷った」
「どう考えてもそっちでしょ!?」
俺はぽっかり空いた穴から花壇の前へ直接。
『そっち!?』
「こっちの方が近い」
ユキが興味本位でこちら側に片足を突っ込む。飛び込むように倒れて入るユキを受け止めた。
「メイリアが急かしたのか?」
「それはないです」
本当に急かされていないのか、ユキは口元を緩ませる。
「で、来ないのか」
メイリアは正規ルートから来たようだ。
「それで、なにをするのかしらね」
「まずはユキの実力を知る」
「カカシになってあげましょうか、なんて」
「メイリアもしっかり見てやってほしい」
最初にマオが捨てていった剣を拾って適当に突き立てる。ごっそり土を食い進んだ剣に魔法を当てるという内容を教える。
「ユキが好きな魔法は?」
「ウィズさまが見せてくれたあの魔法です!」
「なら、この剣を凍らせてみろ」
俺は剣の持ち手に水をかけて待つ。ユキは手を向けて静かになる。
静かな時間は風を呼ぶ。チリンチリン、どこかで鈴の音。
『ウィズさま、凍らないです』
シュンとするユキの手のひらは明らかに冷たい。凍らせるほどではなさそうだった。
「そういう時もある、すぐに全部できる方が稀なんだ」
「ウィズさまはできるんですか?」
「できる、誰よりも使えるかは置いておくとして」
凍らせることは諦めて火をレクチャー。教えるというのは難しい。
「こう、ぼーって燃やすみたいに頑張れ」
メイリアがもっと詳しくと言ってくる。ユキもよく分かってくれない。
「本当は言いたくない」
思考と原理を言葉に出すとそう思ってなくても発動してしまう。
「炎は他人事とは思えなくて」
「一度だけしか言わないからな」
俺はユキから離れて真剣にアドバイス。
『体の中心の中に秘めた熱を取り出して送って開く、この感覚が炎を展開するということ』
剣の持ち手に炎が宿る。
『心の熱を体に這わせて手のひらへ、これは展開よりもしやすい基本』
上に向けた手のひらを下げると熱がボボボと空気を焼いて消える。
「本当に魔法使いみたいですわ……」
メイリアはパチパチ拍手を送ってくれた。
「それはどうも」
真剣に挑んでいるユキの声を待つ。ようやく分かってきたのか、口を開いて肩を落とす。
『さっぱりです』




