勇者に負けないように
『活躍するならいい』
俺は大食いなメイリアに結果を求める。
「当然ですわ、あなたと違って剣を使えますから」
「魔法が使えないやつに言われたくない」
「ふ、不発しただけですもの!」
メイリアが嘘を言っているとは思ってない。
初めて会った時の魔法を使いこなす雰囲気。あれは本物。
「頑張ってくれ」
「もちろんですわよ!」
期待を込めて全部譲るとユキが俺を見る。
「私もウィズさまに譲ります」
「ユキはしっかり食べて頑張れ」
「頑張っても役立てる自信がまだ……」
「自信つくまで師匠が教えてやる」
食べ終えた俺達は店を出る。途中で勇者達を見つける。
話しかけることはしない、する気があってもできない。
『ふっ、ふっ、ふっ、ふっ』
三人は腕を垂直に立てて何度も伏せてトレーニングに励んでいた。人は変わる、良い意味でも悪い意味でも。
俺達も負けないように準備しなくてはならない。
「二日三日ほど、練習を挟もう」
俺の提案をユキは受け入れる。メイリアは受け入れない。
「正気か?」
『正気ですとも、わざわざ待つ身にもなっていただきたい』
メイリアは余裕ぶった表情で髪を後ろにかきあげる。
「ついてきて欲しいって言ったのはメイリアじゃないか」
「私の住む家をご存知でないのかしら?」
「知るわけがない」
「少し前のボヤ騒ぎで私の家が朽ちたことも分からずその発言……心外でございます」
火の手は確かに上がっていたが、直ぐに消えたはず。
「どんな家に住んでいたんだ?」
「あの家ほどの」
メイリアが示す先は俺よりは広い家だった。
「あんな家が短時間で住めなくなるほど燃えるか?」
「お恥ずかしながら、小腹を満たそうと室内でマッチを数本擦ってしまいました」
メイリアはあまり言いたくないのかそこで話を切った。
「追い出されたのか」
「……哀れな人ですわね」
「それはこっちのセリフだ」
しかし、それなりの確認もせずダンジョン行きますとはできない。
「その間だけ、俺の家に来るか」
『だ、ダメですよウィズさま』
何も言わなかったユキが急に横槍を入れてきた。
「まさか、ユキも来るつもりなのか」
「この変な人は良くて、私はだめなんですか……?」
答えない間にユキの瞳は段々キラついて溢れそうになっていく。
「お、お待ちなさい! 変な人ってどういう」
『変な人は、変な人です!!』
確かに俺は変な人を認めてユキを認めない変なやつだということになる。
「ユキも来ていい」
それはなんとなく嫌だった。




