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記憶に残る前科者



 父はそうかそうかと言う。


『人付き合いを否定するつもりは毛頭ない』


「ということは」


「自由にせい」


 ユキの握る手が一層強くなる。このまま痺れてもおかしくない。


「……それだけ?」


 俺は今までこの話を伸ばしに伸ばして会わないように過ごしてきた。これだけの理由で店の時間を止めるような人じゃない。


「単刀直入にダンジョンの掃討を頼みたい」


 渡された地図にはバツ印。今度こそ、少し遠い。


「勇者と共に行くまでもない。三人で突破せよ」



『あなたの息子様と剣を合わせた私にお任せ下さいスペル様、このメイリアがバッタバッタと全てを薙ぎ倒してご覧にみせます』


 ユキが不満そうにメイリアを見る。俺も同じ気持ちだ。



「おお、少し遠いのでな。メイリアよ、一人で頼んだぞ」


「えっ」


「邪魔して悪かった」


 父は申し訳なさそうに店を出ていった。


「メイリア、頼んだ」


「つ、ついてきてくださいまし……」


 一人で頼まれるとは思ってなかったのか、涙を浮かべている。


「因果応報です!」


「ユキの言う通り」


 ついにポロリと一雫落ちる。


「スペル様の記憶に残りたかっただけなのでございます……」


 気持ちは分からなくもない。単純に前科が多い。


「ウィズさま、騙されてはいけません」


「騙されるところだった」



 程なくしてメイリアの頼んだ物をニーナが運んでくる。


『…………』


 何も言わずに引っ込んでいく。注文すら聞かれていないのに。


 手持ちは確かにないが、あんまりだ。



「料理を譲りますのでお慈悲を! 座る席も献上いたします!」


 メイリアは丸椅子から降りてどうぞどうぞってしてくれる。


 断る理由はなくなった。ダンジョンを受けよう。


「一緒に座ってくれませんか」


 ユキは丸椅子にチョコンと座ってスペースを作る。


「狭いから無理だ」


「残念です」


 そう言って料理を食べ始める。また別の料理が流れるとそれは俺に。


「メイリアはそんなに頼んでいたのか」


「よ、四品ほど、おほほほ……」


 正確には五品だった。



「あまり、見ないでくだふぁい」


 ユキを見ていると肉を刺したフォークを咥えて止まった。逸らすとフォークだけがスルリと抜ける。


 その動きは小指の先までしとやかに動く。見ていて飽きない。



 それに比べてメイリアは……ユキよりも美しく食べていた。


 ユキが綺麗なら、メイリアはルールに沿った合理的な美しさ。


 テキパキ食べ進んでいく姿は物語。


 ついさっきまで非合理的なことをしていた人には到底見えない。


 根は良い奴なのかもしれない。



『ごちそうさまでした』



 メイリアがふっと息をつく。グルグル腹が鳴る。



『一口、いや半分ほど料理を譲る気はありませんこと?』



 腹を鳴らした犯人は当然のように俺の隣にやってきた。




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