楽しくないなら楽しくなるように
「俺の教え方が悪かったな……」
たまに教えてやっていた使い方のコツ講座はダメだったようだ。
「そ、そういう意味じゃないです!」
ユキはあわあわと手を揺らして訂正してくる。
「どういう意味だったんだ?」
「それは、その、もういいです! 私がバカだったんですっ」
「よく分からない」
「ウィズさまはただの師匠ってことです……」
声がボソボソ切れる。
「楽しくなかったら自由に動いていいからな」
師弟関係で他人を縛るつもりはない。
「そんなの分かってます」
俺達は昼飯の為に酒場へ。昼は盛況で座る場所がない。
こうなるから俺は昼をよく我慢している。
「一つだけ空いてる」
「空いてないですよ」
俺は隅っこのカウンターに居座る赤髪に近づいて肩を叩く。
『なにかしら? 食事中なのですけれど……まあ』
振り返った女騎士がわざとらしく驚く。
「メイリアもここが好きか」
「席を譲る気は微塵もありませんの、そこで待ってなさい、おほほ」
「……俺がおかしいのか?」
さっきの戦いはなんだったんだと思わせてくる。変わらない態度に尊敬すら目覚める。
「私が頼んだものは全部でひ、ふ、み……ウィズ、早く隣に」
「ど、どうした」
メイリアに手を引かれてカウンターに腹を引っ付ける。ユキも俺の背中にピッタリと引っ付いた。
「…………」
妙な静けさに直感が囁く。一つだけ響く足音。
『ウィズ、調子はどうだ』
バレてない、バレてない、バレてない。
ユキのおかげでバレてない。
『そこに居るのだろう? 我が息子。』
ヒュッと過ぎる風に唾を飲んで仕方なく振り返る。
「父さ……スペル様、都合がつけば紹介すると言ったじゃないですか、ここではみんな固まってしまう」
俺は平然を装って普段通りに。突然現れた父と接する。
「都合、今を好都合と呼ばずしてどうする? 紹介しなさい」
「そのとおりです、はい」
父には逆らえない。優しい人だと分かっていても、後ろの伝説が睨んでくる。
『どちらが……我が息子と付き合っておられるのだ?』
この話を早急に解決したかった俺はユキに頼むつもりで新しい服を用意させてもらった。しかし、負担が大きいとは思っていた。
ここは無難にメイリアを利用もとい、俺が父の息子だと身を持って分からせてやった方がいい!
そう思っていると誰かが手を上げる。それはユキだった。
父の前でやめとけと言うに言えない。
「ウィズ、何か言うことがあるのではなかろうか」
実はメイリアでしたと言える絶好の機会。
「実は」
不意に腕が暖かくなるのを感じる。それは暖かい魔法ではなくギュッと腕を抱いてくれたからこその温もりだった。
「……彼女はユキ様です」
コクリと味わうようにユキは頷いた。




