ウィズのイメージ
『ほんとにありえない』
ニーナは踵を返して店の事務室に入っていく。諦めかけていると戻ってきてくれた。
『ほんとに伝説の魔法使いの息子なの?』
じっと見られてたじろぐ。
「そうだ」
「はい、これ」
渡されたお札は一回り小さい。見るまでもないが念の為に数字を確認する。
「一千札だったら困るな……」
親指を滑らせてゼロと続く数字の先を細目で伺う。
五という文字にほっと胸を撫で下ろす。
「や、やめてよほんとに」
「なにがだよ」
「ウィズのイメージが、壊れてくから」
ニーナは俺を見ないようにしているのか目が合わない。
「気をつける」
弁当箱を持ってユキの背中を推す。
「それ置いていかないの? 残したから?」
少し振って何もないことを伝える。
「持っていく理由がないじゃん」
「理由はある、言ったらイメージが崩れる」
「言って」
微かに頬を膨らませるニーナ。俺は答えることにした。
「こいつとは友達になったんだ。ほら、イメージに合わない」
ニーナの頬が元に戻る。
「ふふ、ちょっと合うかも」
「……言わなきゃよかった」
店を出て、寒気が走る。外はさっきよりも寒くなっていた。これは大変だ。
そう思っていたところに人が走ってくる。
「ウィズ様! なんとかしておくれ! 寒すぎる!」
「俺もそうしたいところだが……」
隣で暖かそうなコートに身を包む魔法使いさまに目で訴えてみる。
『雪なんかどうでもいいです、私がユキですから』
「それもそうだな」
俺は片手で空を晴らして元に戻す。微かに積もった雪は直に溶けていくはずだ。
「助かりましたウィズ様!」
「元々俺がやってしまったこと、当然だ」
暖かい光を浴びながら服屋に向かって歩いていく。
二つの足音がたまに重なって一つに揃う。
「ユキも来るのか」
「ダメですか?」
「そういうわけじゃないが」
「ではついて行きます、ウィズさま」
服屋に入ると見慣れた人物が服を見ていた。
赤い髪を揺らしてあーでもない、こーでもないと鎧の上から服を当てて戻していく。
メイリアじゃないか、俺のことを知らないということは他の国から来ていたと、てっきりそう思っていた。
『この服、どこのものかしら』
『メイルですよ……』
単純に世間知らずで。
『そ、そうでしたわね、おほほ』
『この話。三回目なんですけど……』
普通に変な人だった。
ユキにこっそり動くぞって伝える。
「ウィズ様! いらっしゃいませ!」
店の人に気づかれてしまった。当然、メイリアにも気づかれた。
「さ、ま、ですって? こんな男に?」
こんな男とはなんですかと俺の代わりにキレ散らかしてくれる店の人。
『ウィズ様はかの魔法使い、スペル様の息子なんですよ!』
スペルは俺の父の名前。
そんなこと言っても、メイリアにピンとくるわけ。
『な、な、な、なんですってええ!?』
めちゃくちゃピンと来たのか、メイリアは風に仰がれたように後方へ体を持っていかれる。
「お、お客様! 服を巻き込まないでください!!」
事態の収拾にしばらくかかった。




