雲が晴れると気分が晴れる
オークは揺らされているような声を出して力尽きていく。
手加減していない魔法で耐えてくるやつはそうそういない。
その中で一体。全てが終わって立ち尽くすオーク。
「立ったまま死んでるのか」
『グオォ!』
「っ!」
生きていたオークはとんでもない速度で距離を詰めてくる。
早く止めないと轢き殺される!
咄嗟に手を向けて。どんな魔法を使うか考え。威力をイメージ。
実行に移すタイムラグと焦りが威力調整を難しくさせる。
この距離でこの威力は……そんなもの考えきれない! 考えるまでもない!
最悪死んでも、俺には遺書がある。ミスって死ぬのもまた一興。
向けた手を握って最速で絶命させる爆発を発動する。
バンッと胴体から弾けたオークの肉片。
俺の横を掠めてゴロッと転がる。散らばった赤に目を背けた。
判断が遅れていたら、俺の方が肉片になっていたかもしれない。
「危なかった」
危なすぎて口から出るほど。
素直に封鎖しとけば良かった。勇者に任せたらキングオークとかいう嘘のせいでこんな目にあってしまった。
父が見ていたらきっと言う。あの程度で焦るようではまだまだ、って。
ダンジョンを出た俺は魔法で土を重ねて入口を封鎖した。
帰りながら弁当を頬張る。夜なので止まっている方が危ない。
今回のおかずは甘い味付けの物が多い。好みじゃない。
でも美味しい。荒んだ体に染みる今だけの格別。
『ガガガ』
米を含んで振り返る。風で遠くに吹き飛ばしておかずを。
食べることを中断するのは作ってくれたニーナに悪い。歩いて食うのも悪い。
門の前でしっかり食べ終えて弁当を戻す。風の力で一息に超える。
周りは誰も居ない。そういう時間だ。
そう言えばニーナは言っていた。『夜は晴れにして欲しい』と。
もう晴れている空に手を伸ばしてあるかも分からない雲を退ける。
そこには小さな星が散らばるように隠れていた。大きな星は目立ち、小さいと雲で隠れてしまうようで。
綺麗すぎて目が乾いてきた。




