女騎士メイリア
店を出た俺は不愉快な現場を目撃する。
『乱暴されたくないなら物を寄越せ!』
『誰ですかあなた達は!』
見たことのない綺麗なドレスを纏う端麗な貴族とたまに見かける盗賊。
裏でコソコソしているわけでもなく人が行き交う広い場所で言い争いをしていた。
『知らねえのか、盗賊団くさりかたびらを』
『知りません! こんなことをしてどうな』
四人の男が短剣を一斉に向ける。
「どうなると思えなくなったか」
仕方ない、手助けを。
『ええい! 油断も隙もありゃしませんこと!』
どこからかやってきた女騎士が貴族を庇った。
護衛がいるならまあいいかと無視する。
「やれ!」
「ちょ、ちょっと! サシでやりなさい! 魔法も使える盗賊なんておかしいわ! きゃあーー」
俺は振り返って女騎士の剣に炎を灯す。
ゴウゴウと燃え立つ熱源は飛んできた氷を溶かした。
「わ、な、なにこれ!」
「お前が火をつけたんだろ……」
「あつ! あっつ! あづちぁぁあ!!」
「なんだその声は!?」
「はっ! な、なん、なんてね!!」
状況に乗じて駆けた女騎士に飛んでくる短剣や石ころ。
風で弾いて一押し。
『悪を食らいなさい! フェニックスオーダー!』
女騎士の期待に答えて水平の一撃と同時に赤い鳥っぽい炎を前方に展開する。悪以外を喰らわないようにその炎を上空へ逃がした。
「ぐわああ」
黒焦げになった盗賊団はそのうち檻に入れられることだろう。
「ウィズ様がやったに違いない!」
そんな声をかき消すように俺はパチパチと拍手しながら女騎士に近づく。
「見事な技だった」
後々聞かれても面倒なので勲功を譲ることにした。
こういうことはよくある。大抵の場合は謙遜される、こちらとしては認めて欲しいものだ。
「メイリア、観光の続きを」
貴族はどうでも良さそうに女騎士の手を引く。
『それほどでもありませんこと、本当にそれほどでもありませんわ』
当然の対応かと俺は頭を抱える。
『これほどの盗賊に魔法なんて使っていませんの。皆さんから見れば最上級魔術師の魔法に見えるでしょうけれど、私にとっては息をするより、いや、立っていることよりも簡単なことですから、魔法なんて言葉軽々しく使えませんわ』
長い赤髪を背中に打ち上げてオホホと笑い飛ばす女騎士。
こんなに堂々としてないことをしたって言えるやつ居るのか!
「やっぱりまほお……そよ風と共に走る方が効率的ね、大賢者アライゼの記した技法書の通り〜」
しかも頼んでもないのにうんちくまで!
まるで勇者みたいだ!
「め、メイリア……」
貴族が嘘でしょって目で見ている。この人とは気が合うな。
「しー! お、オホン、あなた名前は?」
ウィズだと答えた。
『ウィズ、明日を守る同志としてアドバイスしてあげる。戦いの基本は相手を知ることよ』




