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20/21

サヨナラ。ヨクルトの町

 冒険者ギルドの騒動の後、マスターは僕たちに成功報酬を渡した。その額はダイスの目がギンギラギンに輝くほどの額だ。

 成功報酬っていうよりも、多分口止め料。

 オルカブツ討伐の裏に隠された過去についての。ボブは「手紙の買取も受け付けているよ」って言うと、マスターはさらに金を重ねた。

 本当はこの町でもう一泊したかったんだけど、マスターの闇討ちが怖くてすぐにこの場所を出発することを決めた。


 そして、たくさんの馬車が並んでいる馬車ターミナルに到着する。

 係員に「リッテ行きは?」って尋ねると、彼はすげぇかわいそうな目で僕たちを見た。

 なんだよ。リッテに行くっていうだけでそんなに憐れまなければならないのか? やめろよ。照れるだろう。

 係員が連れてきた場所を見て、僕は彼がどうしてあんな顔をしたのか意味が分かった。


「これはひどい」


 馬車を見るや否や、ボブとタカチーは「買い物行ってくる」と言って町の中に消えていった。

 いやぁ、そう言いたくなる気持ちはわかる。

 これから僕たちは18時間をかけて港湾都市リッテに向かう。そんな長時間移動を前に、僕の足はガタガタ震えていた。

 だって仕方ないじゃないか! 普通はさ、長時間移動する車でも椅子は用意されている。トイレだって用意されているはずだ。にもかかわらず、だ。この馬車は、客が乗る場所は荷台だし、申し訳程度雨除けのフードがかかっているだけなんだぜ。

 フカフカな椅子? んなもんねぇよ。この馬車には客を木の板に座らせるんだ。言っておくけどな、僕ぁ痔持ちなんだ。わかる? この辛さ。尻から「こんにちは!」している相方が僕の体力とクソ硬い板に押し付けられて「ンナアアアアア」って叫んでいるんだ。痛いんだ! すげぇ痛いんだよ。二十歳を超えても痛みで泣くことはあるんだ。それぐらいに痛いんだぜ。痔っていうのは。


「これって、馬車っていうより奴隷船に近くないか?」


 僕の隣に立つミヤは苦笑いしながら言った。

 奴隷船ねぇ。うまい事を言う。奴隷船よりも僕ぁドナドナに近いと思うけどな。


「それよりもさ、ミヤ」

「なんだい?」


 僕はこの町を出る前に、この男に尋ねてみた。


「お前、なんで冒険者ギルドの時来なかったんだよ」


 僕が冒険者ギルドのマスターを問い詰めている時、ミヤはあの場所にいなかった。僕たちの知らないうちに姿を消して知らないうちに戻ってきた。

 

「あぁ、あれね」


 ミヤは僕の問いに逃げなかった。頭をポリポリとかいて、ズボンにねじ込んでいたタバコの箱を取り出した。


「女のトコに行ってた」

「女って?」

「ハルトんとこの金庫番」


 僕が驚く様子にミヤは口の端でタバコを噛みながら笑った。


「意外。お前、使い捨てた女に情を残すんだな」

「アフターケアって言えよ。それに、きっとその役目は俺じゃないとできなかったはずだ」


 ミヤはタバコに火をつけて僕に一本差し出した。もちろん、このタバコは僕たちの労働の対価だ。当然、もらう権利はある。


「オルカブツ討伐から帰った後、ハルトは文字通りすさまじかった。エルフの姉ちゃんに暴言を吐いたり、あの金庫番を殴ったり。感情の赴くままって感じだったらしい。理性を失くしたハルトをなだめるのは大変だったみたいでな。あの子にあった時、彼女の顔には青あざがあった」

「DV野郎かよ。手がつけられねぇなぁ」

「クッシー、あれはDVじゃない。ただの暴力。DVとか変な名前を付けるから本質が見えなくなるんだよ。あぁ言うのは暴力でまとめるのが形が良いんだって」


 そういうもんかねぇ。まぁ、僕達は変わり者って大学で有名だけど自慢できることがあるとすれば暴力は振らない。いや、暴力はふれない。振ったところで返り討ちにあう。そんなわかったことに手を突っ込む奴が馬鹿なんだよ。

 まぁ、ハルトに関しては何も言うまい。アイツはそういう感情の歯止めが利かないガキってこった。ガキだからこうやって僕の人気っぷりに嫉妬する。いやだねぇ。単細胞は。


「それで? ハルト達はこの町にいるのかよ」

「いない。もう出発している頃じゃないかな? 彼らはテイスっていう場所に行くそうだ。貿易で栄えた歴史ある赤レンガの町らしい」


 貿易で栄えた歴史ある赤レンガねぇ。


「それでな、クッシー」

「んだよ」

「ハルトはお前を殺すつもりだ」


 うん。まぁ、なんとなく察する。というか、アイツの言葉の端でそういうことを匂わせているじゃん。


「ハルトが欲しかったものを全て持っているお前が許さない。それこそ、お前を殺して全てを奪う。気持ちでいるらしい」

「なんでまたぁ」

「そうすることで、本当の意味で生まれ変われるからじゃないか?」


 なんだかなぁ。話だけを聞くと古代帝国やら暗黒大陸とかではやった呪いみたいにしか聞こえないんですけれど。ま、異世界だからか? 仕方ねぇか。

 あのクソ女からしてそうだからなぁ。殺してでも奪い取る。アイツの場合、殺すのが肉体だけじゃなくて魂までも殺しそうな気がするのは僕だけか?


「テイスの町にはそういう荒事に長けたギルドもあるらしいぜ」

「面倒なことになったなぁ」

「そうだな。俺たちがアルラトゥに会ってこの世界を脱出するのが先か。それともハルトがお前を殺すのが先か。そんな問題になりそうだなぁ」


 あーあ。考えるだけタバコがまずくなる。中途半端に吸ったタバコを捨てようかな? と思った時だった。


「まぁ、俺がもらってきたのは情報だけないぜ」


 そういうとミヤはバッグの中から袋を取り出した。その袋は宿屋で見せたあの袋と同じ。二つ目の袋だ。もちろん、その中に入っているのはこの世界の通貨だ。


「ミヤ、お前……」

「言っただろ? 俺は()()()()()()()()()()って。彼女の為だけにアフターケアするわけがないだろう? 彼女にはこれからも。あぁ、俺たちがこの世界を脱出するまで、機会があればアフターケアしてもらいたいところだネ」


 そういって笑うミヤの顔は最高にイケてる顔をしていた。


「おおおおい!」


 ボブの声だ。振り返ると隣にはタカチーもいる。


「おせぇぞ! 何してたんだよ。またうんこか?」

「違うよ。コレを買ってたんだ」


 そういうとボブは僕たちに方位磁石と色鉛筆と紙を差し出した。


「僕、気づいたんだ!」

「何がだよ」

「この世界、どこ行っても地図の形がバラバラなんだ。同じ地域でもなーんかゴチャゴチャしててね。だから、僕、地図を作ろうって思ったんだ! な、な、どうかな?」


 ボブの顔はミヤと違った意味でキラキラしている。そういや、ボブは地図がスキなんだよなぁ。世界地図だけじゃなくて道路マップに路線図、あと気象予報図まで大好きななんかニッチな人間だ。

 おまけにこう言っていたっけ? 「この世界では誰も新しい地図を作ることができないんだー」って。そりゃぁ、あんたが冒険家になって探せばいいでしょう。って突っ込んだんだけど、ボブが言いたいことはそうじゃなかったんだな。お前、伊能忠敬になりたかったんだろう? つまりはそういうことなんだろう?


「いいんじゃない?」


 僕は答えた。良いと思うぜ。お前が伊能忠敬になるんなら、僕はお前の地図に無茶苦茶な歴史を刻んでやる。この白紙の紙に僕たちが旅したことをたくさん書いて。


「どっかのラノベ作家の資料として高額で売り飛ばせばいいんじゃね?」


 おうおう。タカチー。お前本当に考えることがゲスだなぁ。

 僕たちは笑った。見も知らない場所に飛ばされて、色々なことが不安で本当は泣きそうだった。おもらししたけれど、本当はどこでもおもらしできるぐらいに怖かった。ハルトに殺されると思った時は大きいのまで漏らしそうになった。

 だけど、僕は笑っている。笑えるのは、こうしてどうしようもない親友がついているからだ。


「リッテ行きの馬車ぁぁ。乗車受付始まりまあああす」

「さ、この町から無事に脱出ね」


 ダイスは妖精の姿から一枚の紙へ姿を変える。そこにはたくさんのミミズ文字が書かれていて、隣には大きな花丸がつけられていた。


「それじゃ、次は港湾都市リッテ」

「おう」

「皆の者、討ち入りじゃあああああああああああ」


 僕の声と共にみんな拳を天に突き出した。大きな声に同乗者はびっくりしてこちらを見る。

 驚け、皆の者。僕たちはこの世界を駆け回る異世界人だ。

ヨクルト編までお付き合いいただきありがとうございます。

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