8.初戦闘
ちょっとだけ残酷な描写があります。ちょっとだけ
「すまない。あなた達が生き残ることを祈ってるよ」
「あぁ、お互いに今を生きよう」
木山さんと門番さんは鼓舞し合いました。カッコイイですね。ボクも言ってみたいです。...コミュ障が治れば今にでも言いたいです。
そして、やはり木山さんを先頭にボク達は進みます。
「行くとしたら、何処にする?」
「市民会館も、人が多くいそうですね」
「スーパーとかは、どうでしょう?」
「確かに良いかもしれない...が、歩きだと少し遠いな」
避難場所を決める上で重要なことの一つは、食料だと思います。安全面は言うまでもなく。4人が最低でも1週間や2週間は食っていける食料が無ければ、安心して避難とはいかないでしょう。そうするとやはり、出てくる案はスーパーかコンビニ。...と、なると
「...デイヤマ...はどうでしょう?ここからなら、スーパーダムカワより近いと思います」
と、提案するボク。デイヤマとは、正式名称"デイリーヤマウチ"。ボクらのボロアパートから近く、その上あまり人が入らないコンビニです。ボクはしょっちゅう行きますが、ここらに住む北高生でさえその存在自体を知らない人が大半。まぁ、かなりマイナーなコンビニな訳です。よく潰れないなと思いますが、おじいちゃん、おばあちゃんに人気なんですよね。
「確かに、そこがいいかもしれないな。よし、そうしよう」
ここからの距離と、デイヤマが持っているであろう食料を考慮して、避難場所足り得ると判断されたようです。木山さんの言葉に従い、ボクらの目的地はデイヤマに決定しました。
デイヤマまでの距離は、大体700メートルと言ったところです。実を言うと、もっと近くにコンビニはあります。しかし、そのコンビニは皆も良く知る所ですし、北高に避難してきた人達があてにする食料だと思います。ですから、マイナーかつ近いデイヤマに決まったわけですね。提案者は他人に気配りの出来る有徳者ですね!むふん。
「またゾンビだ。さっきみたいに、後ろに逸れるかもしれない。一応構えておいてくれ」
木山さんの声に前を向きます。すると、両手を伸ばしてふらふらと歩くゾンビが居ました。このお方、臓腑を垂れ流していらっしゃるんですが。やばいです。見ていて気持ち悪く──
「おぇぇぇっ」
──なりますね。なっても仕方ないと思いますよ。ボクはパンデミックな世界観を題材にしたゲームをやった事があります。その画面の中でみるゾンビですら、ちょっとキツかったと言うのに、現実世界のゾンビが無理である事は自明の理ってやつです。今までのゾンビはまだ、ギリちょんでセーフだったんですよ。だって、遠目からだと分からないくらいですもん。
因みに嗚咽を洩らしたのはボクの後ろにいる松田さんです。
「くっ...!」
流石の木山さんも、このゾンビの視覚的に生々しい死体と、花を挿す酷い腐臭に後ずさりしてしまいます。
「...っそぉっ!」
それでも木山さんは踏みとどまり、まるで木山さんを目指していないゾンビを、横から殴りつけました。ぐちゅり、とゾンビの頭にバールがめり込み、そこから血肉が溢れ出ます。
「うっ...!」
「おぅぇぇぇぇっ!」
その光景にフクさんが呻き、松田さんは更に嗚咽を...いや、振り向いていないのでわかりませんが、吐いてますね。我慢ならなかったのでしょう。何となく、気弱そうなイメージがありましたから。
「稲井ちゃん!」
しくった、という顔をした木山さんが、ボクに向けて叫びます。
えぇえぇ、分かっています。分かっていますとも。このゾンビがまだくたばっていないことも、このゾンビがボクをターゲットにしている事も。漸く思い出しました。ボクは『超ハードモード』です。今の現象を説明する文面が、あの中にありました。
── "プレイヤー"は"敵対生命体"にとって最上位の優先度となる。
ボクは奴らにとって、最優先で倒すべき敵という存在なのです。もし、木山さんが"プレイヤー"であったとしても、恐らく選んだ難易度は『イージー』〜『ハード』。奴らにとっちゃ優先順位はボクの方が上って訳です。...でもさ、ボクがターゲティングされたとしても、木山さんが攻撃入れてるんだし、木山さんにタゲ移しても良くないですか?...まぁ、モンスターに何言っても無駄ですよね。知ってます。
ボクは木剣を構えます。そう、ボクは剣士。ボク剣士。木剣士。なんつって。
これだけ余裕かましているなら、何だって出来ますよね。たかがゾンビの一体や二体。どうってことないですよ。
木山さんの追撃が間に合うより早く、ゾンビはボクの攻撃範囲に侵入しました。もう、覚悟は決めています。木山さんだけに戦闘を任せるということにも、ボクは気が引けていましたから。
ボクにだって!死にかけのゾンビを、黄泉の世界へと送ることくらい出来るんだッ!
「やあぁぁぁっ!!」
全力で、ボクは木刀を迫るゾンビの顔面に突き刺します。突き立てた瞬間は、それこそ鋼鉄に打ち込んだかのように感じました。こんなもの、木山さんはよく殴っていますねぇ。と感心しつつ、そのまま力を込めるとぐちょ、という骨を断ち肉を抉りような不快な感触が木刀越しに伝わります。なんか、入るとすっごく柔らかくなったのは何故でしょうね。気色悪いですねぇ。
今すぐに離れたいところですが、ボクは辞めません。ゾンビの手から逃げるように後ろに下がりつつも、木刀を捻じりながら絶命(?)を待ちます。
あー。剣道なんてやった事ありませんが、反則を取られる突きでしたね。ま、どうでもいいですけど。
そうボクが考えていると、遂にゾンビは動かなくなり、糸が切れたように横へと倒れました。
漸くか、と思いましたが、実際はそこまで経っていなそうです。アレですね、時間経過を勘違いするほどに超集中していたんですね。さすぼく。
「はぁはぁはぁ...やってやりました...」
元々、木山さんの一撃を貰っていたゾンビでしたから、体力は少なかったのでしょう。それでも、この武器とは言えない木刀でモンスターを殺ったんですよ。少し、気分は悪いですけど、それ以上に達成感で満ち満ちています。
そして、そんなボクを祝福するかのように──
《レベルが上がりました》
──レベルが、上がりました。
「ボクが木製の剣を使う剣士となりました。木剣士。なーんてねっ」




