21.2人で見張り番 2
「はい。あ、でも、冗談ではなく〈雷系〉は有用だと思いますよ?フクさんと松田さんが頑張ってはいますけど、電気はやはり通らないと思うので、〈雷系〉を使えばどうにかなるかも知れません」
「あっ...なるほど!確かにそうだなぁ。やっぱりこの時期は夜と朝が寒いし、暖房を使えたら良いよなぁ」
ボクの建前的な理由に、木山さんも納得します。そう簡単にいくとは思いませんが、出来たら御の字、と考えてみれば良いのです。普通に〈雷系〉は戦闘で役立ちそうですから。...木山さんの武器とは相性悪いかも知れませんが。逆に通りやすくて良い、とか?うーむ、こういうことを言うと、木山さんが躊躇いそうなので黙っておきましょう。取った後に話します。
「はい。まぁ、出来るかどうかは分かりかねますが」
「やってみる価値はありそうだな。うし、なら〈雷系〉を選択」
木山さんは割とあっさりスキルを選択しました。まぁ、まだまだレベルは上がりやすいでしょうから、深く考え過ぎるまでもないでしょう。ボクの場合は、上がりにくいので考えなければいけなそうですけどね。木山さんの10倍掛かりますからねぇ。必要経験値。レベルカンストとか、途方も無さそうです。
「うしうし、使ってみるか。稲井ちゃんは離れておけよ」
「はい、了解です」
ボクが木山さんから少し距離を取るように移動します。大体10メートルくらい離れておく。なにせ雷です。どこまで効果範囲があるか分かりませんから。
「よーし、〈雷系〉の1番っと」
という木山さんの詠唱の下、手に小さな稲妻が走ります。青白い雷電が木山さんの掌の上で踊ります。木山さんが握ったり閉じたりと、色々な確認をし終えたあと、バチバチバチバチィと音を立てて弾け、木山さんの両手から霧散しました。
「おー、小さな雷でしたね」
木山さんが雷を消したことを確認したので、駆け足で近づきます。
「そうだな...うーん、火や水よりは攻撃に使えそうか?」
そうですね。スタンガンのように痺らせることくらいならできそうです。まぁ、素手でゾンビには触れたくないですけど。...ゴブリンにも触れたくないですね。あ、でも、木山さんなら軍手付けていますし、いけるかも、ですね。
と、ボクは考えながらうんうん頷きました。
「あの、バールに纏わせたり、できませんか?」
そこで、かねてより考えていた案をボクは提示します。よくある付与です。バールに纏わせる紫色の雷電。カックイイですね。流石にそこまではできないかもしれませんが、その形に近い技をやって見せて欲しいですね。
「ふむ...やってみるか」
木山さんが側に置いておいたバールを手に持ちます。ボクは言われる前に避難しました。何が起こるか分かりませんもんね。
「〈雷系〉の1番」
詠唱文句を呟くと、先程と同じく小さな雷が発生します。その雷は木山さんの手からバールへと移り、まさしくボクが考えていた通りの状態となりした。
「おおおおぉっ!!そうです、それです!」
と、ボクが歓声を上げるや否や、バールから雷が消えていきました。さっきは30秒近く続けていたのにどうしたのでしょうか?
「どうしたのですか?」
「はぁはぁ...無理だ、これ。維持するのにかなり力を使う」
あぁ、なるほど。消費する魔力(的なにか)が多いというわけですか。息切れしてますもんね。ボクも同じ症状に陥ったことがありますから分かります。
「戦闘には使えなそうですか?」
「あぁ、そうだな。手に纏わせるくらいなら暫く持つ。が、物に纏わせるとなると、ほんの一瞬しか維持できない。どちらかと言うと使えないな」
「そうですか...申し訳ありません。無駄なものを取ってしまいましたね」
「ん?いや、戦闘には使えないと分かったが、俺の当初の目的は電力としての利用だからな。そっちを試さないと」
少し俯き気味に答えたボクに、木山さんはそう返してくれました。確かに、木山さんがそのスキルを選んだ理由は電力として使えそうだから、でしたもんね。ボクとしては戦闘面に役立ってほしいものですが、流石は大人の木山さん。今後の生活を考える方が先でしたね。
「そう言えばそうでしたね。忘れてました」
「あーけど無駄に疲れた」
どうやら木山さんがもう一つ椅子を用意してきていたらしく、そこにどっかりと座りました。しっかり飲み物も用意していますね。あの「や〜いお茶」ですね。ボクはお茶なら「真名茶」ですね。よく振ってから飲むんですよ。
「では、ボクが見張りしてますんで、寝ていてくださってもいいですよ?」
ボクも木山さんの隣に椅子を運び、そこに座ります。
「安心して寝れねーっての」
「子守唄歌いましょうか?」
「...ははっ」
「えっ、今笑うとこありました?」
木山さんの休息も兼ねて、くだらない会話に花を咲かせていきました。
「ねんねーんころりーよおころーりーよー」
「お、懐かしいな」
「坊やは良い子だ。ねんねしな」
「......なんかの台詞か?」
「人を撃つ前の台詞ですよね」




