12.デイヤマ奪還
「ところで、戦闘は任せてくれないのに、こういう汚れ仕事だけは任せてくれるんですね。ありがとうございます」
「うぐっ...いや、確かにそうだな。コイツらどんな病気を持っているか分からないし、稲井ちゃんは触れない方がいいか...」
皮肉たっぷりにボクが言えば、木山さんは言葉に詰まったかのような呻き声を漏らします。どうやら、ボクを危険から遠ざけることだけに意識を置きすぎて、女子であるボクと汚物との関わりが頭から抜けていたようです。
ゴブリン達の外見は、一言で言い表すと"醜悪"です。なんか臭いし、汚い印象しかもてません。それでいてドロップアイテムも無いのですから、嫌なモンスターですよね。
まぁ、そんな汚物の塊、ゴブリンをボクに片付けさせようとしている訳ですから、嫌味ごとの一つや二つ。ポロッとしてもいいですよね。別に、闘わせてくれなかった鬱憤晴らしではありませんよ。
「いいえ、やります。やりますよ?ですから、次の戦闘ではちゃんと戦わせてください。ボクだって、お荷物は嫌なんです」
「ははは、余裕があったらな」
それは、ボクを守る余裕、ということでしょうか?何故か皆さん、ボクを守るように動こうとしてくれますが、少しくらい信用してくれたって、いいじゃないですか。ボク、これでも"プレイヤー"なんですよ?...『超ハードモード』とかいう、巫山戯たモードですけど。
それから2人でゴブリンの死体を持ち、デイヤマの外へと運びます。これが結構重たくてですね。〈身体能力上昇〉しているというのに、ボクは1体が限界でした。頑張れば2体もいけるのですが、重量以外に問題がありましてねぇ。その持ち方をすると、どうしてもゴブリンが顔の近くに来てしまいまして。とても臭いんです。鼻は曲がった。(2回目)
木山さんが両脇に1体ずつ担ぎ、ボクが1体を両手で持っています。いやはや。流石ですね、木山さん。ひょいと担いでいましたから。ボクが無闇矢鱈に特攻しようとしたら、あんな風に担ぎあげられそうですねぇ。捕縛とも言いますが。
「木山さん、稲井ちゃん!無事でしたか!」
と、デイヤマから出てきたボク達を見て、フクさんが寄ってきました。
ボクらの手にあるゴブリンの醜悪さを見て、顔を顰めたことは見逃してあげましょう。
「あぁ。何とかなって良かった...が、ちと店内を汚し過ぎた。それに、まだ2体だけ死骸が転がっているから、それを片付けなきゃな」
「なるほど。とにかくお疲れ様でした。私達も片付けに参加しましょう」
「あぁ、頼む」
フクさんと松田さんが、ボク達と入れ替わるようにデイヤマに入っていきました。
それを見てから、ボクと木山さんはゴブリンの処理を考え始めます。普通に捨てる、ということが出来ませんからね。置いておいたら腐ってさらに臭くなりそうですし。まったく、生きて害悪、死して害悪とは。何とも現実世界では強敵なもんですね、ゴブリンとは。
「燃やしてみるのはどうだろうか」
「あぁ、良いですね。燃やして骨だけにしてしまえば、埋めるのも簡単そうですし。チャッカマンを探してきますね」
ボクがゴブリンの死骸を下ろし、デイヤマからチャッカマンを取ってこようとした時、木山さんがボクの腕を掴んだ。
「その必要はない。フクさん達に言うタイミングを考えていたんだが...先に稲井ちゃんに見せた方がいいと思ってな」
「え、なんです?」
何か気になるセリフですね。何を見せてくれるのでしょうか。
木山さんは両手に着けていた軍手を外し、手をボクに見せるように出します。
「えぇっと...《火系》の1番」
と、木山さんが詠唱のようなものを呟くと、立てた指先から煌々とした炎が上がりました。大きさはチャッカマンより少し大きいくらい。攻撃に使うにはやや火力不足ですが、それでもこれは。これは!
「魔法ですか...!!」
夢にまで見た魔法です!ファンタジーの醍醐味じゃないですか!うぅっ、ボクは感動しています!
「〈魔法技能〉から魔法の習得が出来てな。これを使うには、流石に説明が必要だろ?」
「そうですね。必要だと思います...」
知らない人が見れば、何かタネや仕掛けのある手品に映るでしょう。説明したとしても、意味が分からんと一蹴されるのが目に見えます。これは、どう説明しましょうか。と言うか、ボクも使えるようになりたいです。目指すは剣に魔法を付与して、魔法を放ちながら剣を振り回す"魔剣士"ですね。最高です。夢があります。
「わぁっ、魔法です!魔法です!」
「おうおう。凄い食いつきっぷりだな。もしかして、魔法少女に憧れてた口か?」
「......殴りますよ」




