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3-2:地の国 サイフォン

サイフォンは大地の瞳を持つ聖獣にあやかって地の国と呼ばれている。

せり出した丘の上に建っているため、階段や斜面が多い印象だ。メルヘンチックな赤い煉瓦造りの家が並ぶ通りは、庶民的で可愛らしい雰囲気だが、街はどこか浮き足立ったような空気に包まれていた。


「なぁ、これもあいつらが仕組んだことだと思う?」


ウォーレスが小声でナタリアに聞くと、ナタリアは悩むそぶりを見せた。


「どうかしらね。確かにタイミングが良すぎると思うけど、だったらどうやって聖獣を連れ出したって言うの?

いなくなったってことは、自分の意思で抜け出したんでしょ? なにか魔物を誘き出す術でも持ってるのかしら」

「そうだよなぁ」


肩を寄せ合うふたりを見て、サミュエルがキーラに顔を寄せてきた。


「あのふたりは恋仲なのか?」

「いえ、まだだと思います」


サミュエルは爽やかに笑って頷いた。


「なるほどな。仲がいいのは結構なことだ」

「サミュエル、中でやつらを待ち構える計画なんだよな?」

「はい、外の魔物はこの国の兵に任せて、我々はやつらがやってきたところを襲撃します。

捕らえられれば重畳ですが、最低でも追い返すことが目標です」


ウォーレスが頷き、全員で動力施設内に入る。

この日はなにも起こらないかと思われたが、陽もすっかり落ちて街が寝静まった頃、にわかに外がざわめき始めた。


「なんだ?」


ウォーレスとサミュエルが窓際に駆け寄っていく。

キーラは寝ていたナタリアを揺すって起こした。


闇に目を凝らしていたサミュエルが呟く。


「魔物の姿はないようですな。

様子を見てきますので、ここでお待ちください」


サミュエルが素早く踵を返して施設を出て行った。


しばらくして戻ってきたサミュエルは難しい顔をしていた。


「どうだった?」

「それが……聖獣が見つかったと。ただし、額の宝石部分のみだそうですが」

「宝石だけ?」

「なにそれ? 宝石だけで聖獣のものって決めつけちゃったの?」


ナタリアが呆れて言った。

ウォーレスも納得いかなそうな顔をしている。


「聖獣の持つ宝石は特別な輝きを持ちます。

この国の聖獣シムヴァが持つ大地の瞳は、その名の通り瞳のような瞳孔と虹彩に似た複雑な模様が走っており、闇の中でも淡い光を放つと言われております。実際に目にすることはできませんでしたが、兵達は間違いないと」

「だとしたら聖獣はどうなっちゃったのかしら? 宝石って外しても何も起こらないの?」

「かつて、とある国の王が、聖獣の持つ宝石のあまりの美しさに目が眩み、その宝石を抜き取ったことがあると言います。

すると聖獣は怒り狂い、国が跡形もなくなるまで暴れ続けたと……」

「なにそれ!? 大変じゃない!」


──きゅららららっ!


その時、警笛のような高い音が夜空を引き裂いた。

全員が咄嗟に窓際に駆け寄っていく。


「あ、あれは……!?」

「嘘でしょ……あれってまさか聖獣!?」


土色の毛並みをした大きな魔物だった。

その見た目は狐に似ているが、顔ほどのサイズもある耳に、生き物のように蠢く4本の太い尻尾。そして狂気に染まった赤い瞳、口元から覗く鋭い牙は、魔物と呼ぶに相応しい姿だった。

宝石が収まっていたであろう額からは、茶色のもやのようなものが溢れ出していた。


聖獣シムヴァは、もう一度高く鳴くと、尻尾を振り回して乗っていた民家の屋根を叩いた。

瓦の屋根がガラガラと崩れ落ちていく。

太い4本の足で跳躍し、シムヴァは立て続けに民家を破壊していく。


「……っ!」


呆然と見ていたウォーレスが弾かれたように施設を飛び出していった。


「あー、もう、やるしかないのね!」


ナタリアもその後を追う。サミュエルがわずかに目を眇めるのを、キーラは見た。


「君は行かないのか?」


サミュエルがキーラを見下ろす。

キーラは、はっきりと縦に頷いた。


サミュエルは意外そうな顔をした。


「なるほど、君の方が余程冷静に状況を見ているようだな。

どうやら私は君に対する評価を改めなければならないようだ」

「……サミュエルさんは街の人達を守らなくていいんですか?」


答えはわかっていたが、キーラは敢えて尋ねた。この人の本心をちゃんと本人の口から聞いておきたかった。


「私の任務は、世界樹の根を()()こと。

そして──平和をおびやかす赤目の民どもを一掃することだ」


そう、キーラは、サミュエルを止めなければならないのだ。

この人はキーラが守るべき赤目の民を、ためらいもなく殺せる男なのだから。



サイフォンでの戦いは、聖剣を手にしたウォーレスにとってはじめての試練だ。


魔物との戦闘に続く、聖獣シムヴァとの戦い。

ナタリアとふたりでの戦闘にはなるが、兵士達が引きつけや回復等でサポートしてくれるので、難易度は低めだ。

気絶した聖獣の額に宝石を戻すことで戦闘終了となる。


正気に戻った聖獣はその後召喚獣として制限時間付きで召喚可能になる。

キーラとしてもシムヴァとは長い付き合いなので、今後一緒に戦えるのが楽しみだ。


さて、聖獣戦を終えた後、ウォーレス達が動力施設に戻ると、赤目の民と交戦中のサミュエルを発見する。

そしてサミュエルに追い付いた時点で赤目の民が斬り殺されるという、衝撃的な場面(シーン)に出くわしてしまうのだ。


というわけで、キーラは少しでも時間稼ぎをする必要があった。

ウォーレス達が追い付いてくれば、劣勢を悟った赤目の民は引いてくれるはず。


「ハル、頑張ろうね」


キーラは自分に言い聞かせるようにハルの首に触れた。


「……来たようだな」


サミュエルが大剣を抜いた。

現在は施設の前。守るようにサミュエルとキーラが立っている。


キーラにはわからなかったが、サミュエルはなにかを感じ取ったようだ。

身構えた直後、民家の影から一斉に精霊術が放たれた。


「<光の盾(ライト・シールド)>!」


サミュエルの剣が鋭く輝き、光で描かれた盾がふたりの周囲に展開する。

精霊術を弾く高い音に紛れて魔物の足音が聞こえた。


サミュエルはキーラを気にかけなければならない分、動きづらいはずだ。

それを利用しない手はない。


キーラは、魔物の群れと、色とりどりの精霊術が飛び交う中を走り出した。


「少年!」

「闇の精霊術師がどこかにいるはずです! ぼくが止めます!」

「危険だ! 待ちなさい!」


黒い色彩のキーラは狙われにくいはず。

それでも飛んでくる精霊術はハルが逸らしてくれた。


キーラは全力で走りながら半泣きになっていた。


(し、死ぬ〜〜〜!)


本気で落としに来ていることは明白だった。数が違いすぎる!

おそらく赤目の民自体は数人だろうが、魔物の数が半端じゃないのだ。


ハルには自分の身を優先して、最悪キーラは見捨てて欲しいが、ハルはそうしないだろう。

キーラはハルのためにも足を止めるわけにいかなかった。


「はいはい、ストップ!」

「!?」


突然目の前に人が降って来た。

勢いを殺せずに突っ込んだキーラをするりと避けて、襟ぐりを掴んだ。


「うぐっ」

「だめだろぉ、ガキがこんなところで遊んでちゃあ。

まぁ、死にてぇってんなら別だがな! ヒャハハッ!」

「……!」


(クズマ!)


キーラは心の中で絶叫した。

クズマ、もといクジマは、壊すことが大好きな変態だ。

レフでも手に負えない問題児で、うっかり民間人を殺しておきながらヘラヘラ笑っているところからネットでもクズマなどと呼ばれていた。


「は、離して〜!」

「うおっと、なんだお前、こいつの連れか?

おいおい、いい相棒じゃねぇか、主人を守ろうとするなんてよぉ!」

「ハル……!」


キーラの襟を掴んだままクジマがハルを躱す。

キーラは咄嗟に手に羽根を出すが、首に手を打ち込まれて、気付くと膝をついていた。


「……っ」


衝撃に一瞬意識が飛んだらしい。

全身が痺れるような嫌な感覚がした。


ドッと汗が吹き出し、頭が恐怖で埋め尽くされる。

怖い。殺される。逃げなきゃ。早く、早く! 立ち上がれないキーラを庇うように間に立ったハルが、クジマに牙を剥いて唸った。

焦燥感が胸にせり上がってくる。ハルが殺される! 咄嗟に身体を反転して、大きな身体を抱き締めた。


クジマの赤い目が、獲物を狙う獣のように闇に光る。

無造作に跳ねた蜜柑色の髪、赤茶の獣耳、三日月を描く口元から覗くギザギザの牙は、キーラが好きなキャラデザインそのものだった。その瞬間、キーラの脳が現実から逃げるように、ゲーム画面を眼前に展開した。


──そうだ、わたしは知ってるじゃないか。赤目の民という人達のことを。この男のことを。


キーラはゴクリと唾を飲み込み、そっと口を開いた。

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