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7-3:火の国 ルピア

食後、キーラたちは改めて今後の予定を確認するために、男子部屋に集まった。


「今日も聖剣の声は聞こえてこない。

いま、守人たちが近くにいるのか、遠くにいるのかもわからない。

手の届かないところへ行かれてしまっていたら、なにもできずに根を奪い返されてしまったら……なんて考えるのは意味がないことだと思う。

かといって、ただ導かれるのを待つだけってのも違うよな。

……だからさ、俺たちは俺たちで、いまできる限りのことをしよう」


ウォーレスは全員の顔を見渡して、それぞれが頷くのを確かめてから卓上の地図を示した。

前よりも迷いがなくなっただろうか。歪みなく澄んだ瞳の輝きを横目に見ながらキーラは感慨深く思う。


「昨日話したとおり、俺はこのヴィラム火山って山に登ってみる」


不在だったキーラのために補足してくれた情報によると、ヴィラム火山には額に赤い宝石を持つ魔物が棲んでいるという。


「ふたりがカーネリアに行ってる時にユーインが教えてくれたんだけど、その魔物は鷲獅子(グリフォン)っていって、獣の姿なのに鳥の羽が生えてるらしいんだ。

空を飛べるなら、わざわざ辺境まで下りて大陸を渡るために山越えしなくても、海峡をひとっ飛びで渡れるだろ?」


言ってウォーレスは目をキラキラさせる。

鷲獅子に乗って空を駆けるのは、さぞや気分がいいことだろう。キーラは力強く頷いた。


「それで、宝石を持ってるなら聖剣の召喚石と共鳴できるはずだよなって話になってさ。

国を守護してくれてる聖獣と違って、人間に好意的じゃない可能性が高いのが心配だけど、会いにいく価値はあると思うんだ」

「だけどこの国をほっとくわけにもいかないから、あんたとサミュエルが戻ってくるのを待ってたってわけ」


ウォーレスの言葉をナタリアが引き継ぐ。


「じゃあ、ぼくとサミュエルさんは居残り組ですか?」

「うん、砂漠を超えてきたばかりのふたりに無理させるわけにはいかないしな。

火山には俺とユーインの二人で行く」


キーラは思わずナタリアの顔を見た。


「なによ、キース。

言っておくけどね、これは厳正なる話し合いの結果よ。そりゃあ火山なんて名前からして暑そうだし登りたくないとは思ったけど、それが理由で行かないわけじゃないわ!」


火の精霊術を扱う人間とは思えないようなことをのたまいながら、ナタリアはなんのやましいこともないというように胸を張った。


「ナタリアの言い分はともかく、人選をしぼったのは移動時間の短縮のためなんだ」


ウォーレスはルピアからヴィラム火山の位置まで指を引っ張った。


「ここからここまで歩くとなると、最低でも五日はかかる。

その間に聖剣が反応でもしたら取り返しのつかないことになるし、ぶっちゃけ無駄足で終わる可能性もあるのに、そんなに時間をかけてられないだろ?」


ここにくるまでに何度も実感したことだけど、ゲームでは時間経過がないだけでなく、ただカーソルを倒して走っているだけであっという間に目的地に着くことが当然だった。

ラズリズからカーネリアに行くのだって、たったの数分で済んでしまうのだ。


神妙に頷くキーラにウォーレスは笑って、聖剣の鞘を軽く叩いた。


「だから、シムヴァに乗っていく」


キーラは思わずぎょっとした。

戦闘でこそ輝く召喚獣をまさかの移動手段扱い……と一瞬驚いたが、そういえばこれから向かう火山も移動手段ゲットのために行くんだった。なんてこった。


「でも召喚って、出てこられる時間が限られてますよね……?」

「それがさ、聞いてくれよキース。

ここで魔物退治の依頼を受けたりしてる時に、ちょっと色々試してみたんだ。

それで分かったのが、こいつらって精霊術を使わなければ、ほとんど召喚石の生命の力(マナ)を消費しないみたいなんだよ。

走ってもらうだけなら、たぶん一日は余裕で持つんじゃないかな」

「……!?」


な、なな、なにおう!?

そんな設定ゲームには……っと若干パニックになりながらも、キーラは慌てて戦闘シーンを思い浮かべる。

「わるふろ」はグラフィックのリアルさをとことん追求しているわりには、昔ながらのターン制を取っているゲームだった。

シナリオや映像に拘ったぶん、戦闘シーンに力を入れる気がそもそもなかったのだろう。

ターン制のゲームには、キャラの待機時間がある。それは当然のように召喚獣にもあった。

たしかに強力な技を使うほど召喚時間の残りゲージの減りは早かったものの、待機中は……そうだ、待機中はまったくゲージが動いていなかった。


そういうシステムなのだと疑いもしなかったけど、ウォーレスの言うことが確かなら。


「す、すごい……!

すごいですっ、ウォーレスさん!」

「すごい!? なにが!?」

「えっ、だ、だって召喚獣を喚ぶのに制限があるのは、それだけあの子たちが強い力を持ってるからですよね!?

それを戦いじゃない場所でも、力を貸りられるってことに気付くだなんて……! もう、すごすぎるっ! 天才じゃないですか!」

「えっ……それほんと? 俺ってすごい?」

「すっっっごいです!!」


力いっぱい込めたキーラの言葉に、ウォーレスはみるみる顔を輝かせて、それはもう嬉しそうに破顔した。


「まさかキースにそこまで褒めてもらえるなんて……よくわかんないけど、めちゃくちゃ嬉しいな!」

「キース、ひとつ忠告しておくわ。

ウォーレスはね、自分を慕ってくる相手がすこぶる好きなの。特に歳下」

「えっそれっていま言うんですか!?」

「ふふふ、ご愁傷さま」

「ナタリアさん……!!」


いや、弟みたいに可愛がってもらえるのは嬉しくないわけじゃない。

ないのだが、キーラはたぶんみんなが思っているよりも子どもじゃないし、どちらかというと妹なのだが。


「ふふ、仲が良いのは美しいことだね。

さて、先ほどの話の続きなのだけど、シムヴァに乗るのなら三人以上は負担になってしまうということと、いざというときの連絡役として、エリーを連れた僕が同行すべきという結論に至ったのだよ」

「うん。それに、火と風って相性がいいからさ。

火同士だと明らかにぶつかりそうだろ?」

「あら、あたしはウォーレスが鷲獅子にうっかり水でもぶっかけて怒らせちゃわないか心配だけどね」

「や、やめろよナタリア。

肝心の自分が水ってのが、一番不安なんだから……」


あっさり返り討ちに遭うのに、なぜこの男はわざわざ挑発するようなことを言うのだろう。

まさか無自覚なんだろうか。


「とにかく、時間がもったいないし、俺とユーインは陽が高くなる前にここを発つよ。

シムヴァの脚なら、日が落ちる前には着くはずだからな」


と、話がまとまったところで解散となった。

待っている間になにをするか考えながら部屋を出たところで、後ろから軽く肩を叩かれた。

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