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6-3:砂の街 カーネリア

男はガイと名乗った。

ガイからカーネリアの動力施設がすでに消えてしまっていることを聞かされたサミュエルは、そうか、とため息のような音で呟いた。


「あちらはウォーレス様方に任せるしかないな。

私ひとりなら今からでも追えるが、キーラは慣れない砂漠の旅で疲れているだろう。カーネリアで休んでから南西へ向かうことにしよう」


暑さと乾き、冷え込む夜の野営、度重なる魔物や巨大サソリとの戦闘。

正直へとへとだったので、余裕を持って構えているサミュエルにキーラはホッとした。


「ウォーレスさんたちならきっと大丈夫ですよ!」

「私もそう思うぞ、キーラ」


そう言ってサミュエルは優しく微笑う。

こんなにもあたたかい人が、ゲームでは冷徹に振る舞わなければならなかったなんてひどい話だ。

任務とわかっていても、サミュエル自身なにも思わなかったはずがない。危ういほどまっすぐで正義感にあふれたウォーレスを守りたい気持ちもあったのだろう。

敵を殺すことは、ウォーレスが守りたいものを守り抜くためにも必要なことだった。


そうしていつもみんなの盾となり剣となっていたサミュエルが、ウォーレスたちに剣を託したのだ。

それは、仲間として彼らを信頼している証左に他ならなかった。


「もしかして、あんたらが聖剣の英雄のご一行様なのか?」


ガイが驚いたように言った。


「そうだ、知っているのか?」

「風のうわさが届いてるぜ。

アーガンティアで聖剣の英雄が再来し、世界を救う旅をしているってよ。

大陸の向こうの話のように聞いていたが、建国以来盤石だったラズリズが半壊しちまったうえに、カーネリアの動力施設まで消されちまったとくれば、焦らずにはいらねぇってもんだ」


一国を崩すことのできる赤目の民に関しての警告やうわさ話が届いていたとしても、それまで生命の水(マナ・コア)に頼っていた生活を捨てて安全な国や街へ移ろうと思う住民は少ないだろう。

危険は目の前に迫らない限り実感することはできない。


魔物を倒しながらガイの案内でカーネリアを目指す。

サソリを街から遠ざけているうちにかなり離れてしまったらしいが、ガイは方向感覚を失わないのだろうか。


「目印があるからな」

「目印?」

「俺は長年ゴルドでトレジャーハンターをやっていてな、日々変わっていく砂漠の景色も含めて、この辺りの地形はだいたい把握済みなんだぜ」


地形と言ったってどこもかしこも砂しかないが、歩きがてら解説してもらったところ、どうやら大きめの砂丘を目印にしているらしい。

砂丘なんてたくさんあるうえ、見る方向によっても形は変わるだろうに、どうやって見分けているのかと聞けば、自信満々に勘だと言う。生命の危機がある状況下において、確かに勘は大事なんである。キーラは神妙に頷きながらも、早々に砂丘を見分けることを諦めた。


日もだんだんと落ちてきた頃、盛り上がった砂丘を登った先に、鮮やかな緑が見えた。

中央には立派なヤシの木に囲われた青々とした湖が広がり、その外側にたくさんの建物が、木々に埋もれるようにして密集していた。


一面ベージュの大地に突如として現れた憩いの地(オアシス)

砂漠超えで心身ともに乾いた多くの人々の心に癒やしをもたらしてくれる砂の街だ。

それはキーラにとっても例外ではなく、街を目にした瞬間、どこまでも続く砂地に漠然と抱いていた不安と恐怖がするりとほどけていった。


「ハル!」


キーラの声のトーンにハルはちょっと嫌そうな顔をしたが、構わずに走り出したキーラを追ってぴたりと隣についた。

走りながらその背にまたがり、オアシスへ一直線に駆ける。


「キーラ!」

「先に行ってまーす!」

「アッハッハ! 坊主は元気だなぁ!」


周辺では転がったままの魔物の死骸を片付けるために人が集まっていた。

魔物を放置しているとその血のにおいに誘われて新たな魔物がやってきてしまう。

汗だくになりながらも街を守るために奮闘しているハンターや住民たちを横目に、キーラはついにカーネリアにたどり着いた。



街の中はバタバタしていた。

偶然カーネリアに来ていたらしい隊商(キャラバン)が荷を道の脇に広げ、住民たちに遺跡探索で使用するために用意していたとみられる布や固形燃料などを売っている。

スペースバッグという便利道具のおかげで、商品は潤沢なようだ。この様子ならしばらくは飢えも寒さもしのげるだろう。

使役の首輪を付けたハルを連れてひととおり街を回り、入口に戻ってラクダを厩舎に預ける手続きをしていたサミュエルたちと合流した。

小走りで近寄るなり、キーラはサミュエルに呆れ顔をされた。


「なにが起こるかわからないのだから、あまりひとりで行動するな」

「えへへ……」

「えへへじゃない」


うっかり、反省よりも叱ってもらえて嬉しい気持ちが勝ってしまった。

聞き分けのない子どもにするように肩を掴んでこようとするサミュエルを避けながら、キーラは慌てて謝罪を口にした。


「あんたら、意外に仲がいいんだな」

「いや、どうも危なっかしくてな。放っておけないのだ」

「男なんてそんなもんだぜ、ガキの頃は。

あんたは格好はアレだがいいとこのお坊ちゃんっぽいし、わからねぇだろうけどよ。なぁ坊主?」


キーラは思わず居住まいを正した。が、今更遅いのである。

キーラはここでも女だというタイミングを逸したのだった。



ガイの案内で宿を確保したあと、夕飯を奢るというガイの申し出を断り、サミュエルの部屋にみんなで集まって鞄に入れていた食事を広げた。

資金だけは潤沢なキーラたちが、みんなで分け合っている食料を奪う訳にはいかないのだ。

逆に奢られる形となったガイは、特に遠慮を見せることもなく、缶詰のスープパスタを頬張っていた。

一方のサミュエルはというと。


「どうよ、兄ちゃん」

「そうだな、いや、いけなくもないぞ」


拾ってきたサソリの断片を焼いて身をほじくって食べていた。

その手付きが妙に様になっているのがかなりちぐはぐだ。


「魔物の肉は生命の力を含んでるのが多いからなぁ、俺もいろいろ喰ってきたが、アレを喰おうとはさすがに思わねぇよ。

固くて割るのも一苦労なうえ、身だって見た目ほどねぇし、でけぇのほど味が薄くて食べた気がしねぇからよ」

「少しばかり苦みがあるが、なかなか食べ応えはあるぞ。

君たちもどうだ?」


勧められたので食べてみたが、無味のエビの身に苦みだけを乗せたような微妙な味だった。加えてゴムのような弾力があり、なかなか噛み切れない。


──確か前世でもサソリを食べる国があったはずだけど、あれは殻ごといくんだったかなぁ?


ぐにぐにとゴム、ではなくサソリを咀嚼しながら、キーラは思わず前世に意識を飛ばすのだった。



翌朝、サミュエルがガイに付いて魔物討伐を手伝うと言うので、キーラも迷いなく参加を表明した。


「君はそう言うだろうと思った」


サミュエルはため息まじりに苦笑するが、キーラを見下ろす灰金の瞳は春の日差しのように暖かかった。

今のサミュエルは、ぴっちりした黒のタンクトップに、革の胸当てを付けたハンターのような格好だ。

ウォーレスといる時こそ、トパースの騎士としての制服を身に付ける必要があるものの、これからすることはウォーレスの旅とは関係がないことだからだろう。

もちろん、大事な制服を戦闘で汚したり破いたりしたくないということもあるだろうけど、なんの疑問もためらいもなく、この街を守るためだけに剣を持つサミュエルは、とてつもなくかっこよく見えた。



前衛で物理特化のガイを中心に三人パーティーを組むと、わりとオールマイティなサミュエルは中衛に立ち、盾や回復でサポートをしつつ余裕があれば前衛に転ずるというのが理想的な立ち回りになる。

キーラは完全に後衛で、敵の弱体や拘束などで二人のサポートをするのがいい。


とまぁ役割を決めたところで、なかなかゲームのように上手くはいかないのが実情だ。


ウォーレス達と行動を共にしているくせに、脇道を行っているせいでなんだかんだちゃんとパーティーを組んだことのなかったキーラは、ここへ来てそれを体感することとなった。


「おらおらおらァッ!

どんどん来やがれッ!!」

「困ったな、魔物よりもガイの方が危ない」

「サミュエルさん、上から鳥が来てます!

ガイさん、ちょっと挑発を抑えてッ!!」

「がははっ! すまねぇ!」


ガイの力は風だ。

声を風に乗せることで遠くの魔物を呼び寄せているらしいのだけど、移動しなくていいという利点はともかく、これでは連携もなにも取りようがない。しかもノッてくるとうっかり呼びすぎてしまうらしい。なんというトラブルメーカーか。


前に出ざるを得なくなったサミュエルに代わり、いつの間にか指揮を執ることになってしまっていたキーラだって、背中をハルに預けていなければまともに動けなかったはずだ。

拘束の精霊術を飛ばしながら、キーラはとめどなく溢れてくる汗を拭った。

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