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5-8:雨の国 ラズリズ

「しかし、あれがなぜ今目覚めたのか、それがわからぬ。

おまえ、もしやわかっているのではないのか?」


ルーシャンの鳶色の目がまっすぐにキーラを見据える。

キーラは宿に置いてきた封筒を思い出していた。あの中には、古代文字で書かれた短いメモと、錆び付いた小さな鍵が収められていた。

しかし、あれを渡してしまっては次のサブイベントへ進むことができなくなってしまう。

キーラはうーんと考えるふりをしながら口を開いた。


「そう言われても、なにかお宝があるかもって探検してたら、突然現れたので……あ、そういえば、酒場に置いてあった樽を動かしたら、いっせいに子蜘蛛の魔物が落ちてきたんですよ!

あの樽か床とかになにかあったんですかね?」


とはいえ、あの酒場は大蜘蛛がバキバキに破壊してしまったし、調査したところで目的のものはキーラの手元にある。

だますようで気が引けるが、ここは譲ってもらおう。


ルーシャンはしばらく疑わしげにキーラを見つめていたが、やがて興味を無くしたように息を吐いた。


「まぁよい。それが、我が国に災いをもたらす兆しでないことを祈ろう。

さて、だいぶ時間を無駄にした。とっとと本題に移るとしよう」


ルーシャンが手を叩いて合図する。

すると、進み出た従者がバインダーをキーラに差し出してきた。そこには一枚の羊皮紙が挟まれていた。

なにやら目が滑りそうな筆記文字の羅列の下に、ルーシャンのサインと御璽が捺されている。


「この魔結晶の鑑定書だ。

一番下に空欄があるな? おまえはそこに署名をする。金を受け取る。以上!」

「えっ」


キーラは助けを求めるようにユーインを見上げた。

彼は素早く鑑定書に目を走らせると、困ったように肩を竦めた。


「僕は専門家じゃないし、そもそもこんな大きな魔結晶は見たこともないからね。相場もなにもないけれどさ」

「なんだ、不満か?」

「不満かだって? ルー、本気で言っているのかい?

キーラのために金庫を用意するつもりがないのなら、こんな大金渡されても迷惑なだけだよ」


キーラはもう一度鑑定書に目を通した。

000……0がお米の粒のようにたくさん並んでいる。数えようとすると、拒絶反応か手と視界が震え出したので、キーラはすぐに数えることを諦めた。

そしてスッとユーインにバインダーを差し出した。


「ユーイン、これで超万能薬(ハイ・エリクシール)買える?」

「キーラ……! それは、もちろん買えるけれども」


買えちゃうのか……キーラが一生かかっても稼げない金額のものが……

キーラはユーインの胸にバインダーを押し付けた。


「そもそもあの大蜘蛛にとどめをさしたのはユーインとナタリアさんだよ。だから、わたし……受け取れないよ!」

「ああキーラ、なんていい笑顔なんだ……今まで見た中で今が一番、君が輝いて見えるよ」


ユーインが微苦笑する。

こんなもの押し付けられて苦笑いで済むのだから、ユーインの金銭感覚もなかなかのものだと思う。


「誰が署名しようと構わぬが、とにかくこの魔結晶はうちで買い取らせてもらうからな。さっさと決めろ」

「はぁ、わかった、とりあえず僕が受取人になるよ。手続きとか色々面倒なこともあるし、キーラにはまだ難しいからね。

でも、実際のところはキーラとナターシャと僕、ひいては僕たち全員の旅の資金として今後活用していくこととする。ウォーリーたちには事後報告になっちゃうけど、それで妥協してもらえないだろうか、キーラ?」


キーラは頷いた。

キーラはもらえるものはもらうタイプだが、お金はだめだ。

限られた金額を少しずつやりくりするのは好きなのだが、少しでも手持ちが増えると、どうにかして使わないといけないという強迫観念に駆られて無駄に散財してしまうのだ。

ユーインが財布の紐を握ってくれるというなら安心できる。


気の抜けた笑みを浮かべるキーラに、ユーインは複雑そうな顔をした。


「キーラ、自分で言うのもなんだけど、僕って結構怪しい人間だと思うのだよ。

さらに経験から言わせてもらうと、親切で人当たりのいい人間ほどうさんくさいものはない。

つまり……君のような純朴で心根の美しい子にこんなことを言うのはとても心苦しいのだが、そんなに簡単に人を信用しないほうがいい」


そういえば、ユーインとは昨日出会ったばかりのほぼ赤の他人である。

ゲームのキャラクターとしてのユーインを知っているキーラはすっかり気を許してしまっていたが、ユーインの言うことはもっともだった。

まぁ、もともと自分のものとも思っていない金を持ち逃げされたところで、という気持ちもあるのだが。


「でも、ユーイン、わたしになんのためらいもなく超万能薬を使ってくれて、そのうえ対価も求めなかった人が、そんな理に背くようなことするかな?」

「うん、それで信用させてということもあるからね」

「あのときのわたしは、あなたにとって価値のあるものをなにも持っていなかったよ。

ユーインが言いたいことはわかるけど、わたしだってあなたのこと簡単に信用したわけじゃないもん」


ユーインは典型的な自己犠牲の人だ。

困ってる人はほっとけない、自分より弱い人を守りたい。そうやって何度だまされても懲りずに助けてしまう。

幼少期の境遇から自然と空気を読むことに長けていった彼は、いつも自分の感情は後回しにして、他人を優先している。

そうと感じさせない言動だって、相手に気を遣わせないためだ。そしてそんな自分を彼自身は誇っているのだから、むしろ生き生きと犠牲になりにいく。まぁ、正直、ちょっと頭のおかしい人だとは思う。


「ユーインこそ、出会ったばかりの人にあんまり優しくしちゃだめだよ。

心って有限だから。本当に大事なときのために、ちゃんと取っておかなきゃ」


人に優しくされると、自分も人に優しくしたくなる。

一方通行だといつか枯れてしまうから。キーラはむしろ自己中な人間だが、その分、本当に大事にしたいと思える相手に出会えたなら、めいっぱい優しくしたいのだ。


「つくづく、とぼけたガキだな、おまえは!」


目をパチクリさせているユーインに代わって、ルーシャンが可笑しそうに言った。



夜、みんなで今後の確認のために集まった。

次の行き先はラズリズから東か、南か。


「聖剣は東……砂の街カーネリアのほうを気にしてるみたいなんだ。でも、次はここが危ないというよりも、こっちに行かなきゃいけないって急かされてるような感じなんだよ」

「なによそれ。根が狙われてるわけじゃないかもしれないってこと?

聖剣だって世界樹があいつらの味方なら、完全に信用するべきじゃないとあたしは思うわ。

一歩間違えば、やつらに先を越されちゃうわよ?」

「うーん……」

「ユーイン殿はカーネリアに訪れたことは?」

「ああ、もちろんあるよ!

カーネリアはまさに砂漠の楽園と呼ぶにふさわしい、緑と水が豊かなオアシスに包まれた癒しの地だね。

砂漠の奥の遺跡探索に向かうトレジャーハンターたちにとっては、大切な憩いの場となっているようだよ。

そういったこともあって皆魔物への対処には慣れているから、敵がそれを知っているのだとしたら敢えて魔物をけしかけることはせず、コラルのときのように夜中に奇襲をかける可能性が高いのではないかな」


四方を砂漠に囲まれたカーネリアにとって、生命の水(マナ・コア)は貴重なエネルギー源だ。ただ、住民たちは過酷な環境に慣れているため、オアシスを荒らされさえしなければ人的被害は最小限で済むだろう。


「カーネリアの根の保護は諦め、それ以外の根を確実に守るためにこのまま南下するのが私は最善かと判じます」

「あたしもそれがいいと思うわ」

「ウォーリー、カーネリアはラズリズの庇護下にはないから、もし落とされてもルーは怒らないと思うよ」

「そうか……キースはどう思う?」


キーラは一瞬言葉に詰まった。

おおまかな道筋(シナリオ)が変わってしまうと対策ができなくなるため、必要なとき以外は敢えて口を挟まないようにしていたのだが。

みんなの視線がキーラに集まる。キーラはこのときはじめて、自分も主人公(ウォーレス)たちと一緒に戦う仲間なのだということをふわふわと実感した。


「ぼくは……聖剣のお願いを叶えてあげたいと思います」

「キース、寄り道してる間に、他国の根が奪われちゃうかもしれないのよ?」

「じゃあ、ふたてに分かれるのはどうですか?

聖剣の目的が守人たちを止めることじゃないなら、ぼくとハルとで様子を見てくるだけでも……」

「おいキース、ひとりで危険なところへ行くなって言ったのをもう忘れたのか!?

砂漠には砂中に潜んで人間を狙う魔物も多いんだ。そもそもたったひとりで広大な砂漠に挑むなんて無謀が過ぎる。頼むからそうやってハラハラさせることを言うのはよしてくれよ」

「ご、ごめんなさい」


また怒られてしまった。

勢いで村を飛び出したのもそうだが、ひとりでなんとかしようとするのはキーラの悪いクセだ。

しゅんと下がったキーラの頭に、サミュエルがぽんと手を置いた。

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