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5-4:雨の国 ラズリズ

白と青の布を身体に巻き付けて腰帯で留めた格好に、肩まで布を垂らした帽子をかぶった人たちがラクダを引いていく。

代表らしき人以外は口元まで布で覆っている上、手には槍を持っているので、護衛なのだろう。

初体験のラクダにワクワクしていたキーラだが、キーラが乗ろうとするとハルがラクダに噛み付かんばかりに怒り出したので、泣く泣く見送ることになってしまった。

どうやら浮気は許してくれないらしい。ちなみにハルはメスである。

要塞に水泳帽を被せたような形をした宮殿に案内され、通されたのは謁見の間だった。

青い絨毯が敷かれた先、石造りの玉座にどっかりと座っているのは、傲岸不遜を絵に描いたような容姿の男だった。


若くハリのある褐色の肌に、鎖骨にかかる亜麻色の髪、つり上がった鳶色の瞳。耳には青い雫のピアス。

豪奢な布を重ねた衣装には、金の装飾がふんだんに付けられている。衣装から覗く腕や脚はほどよく筋肉が付いており、ゆったりした衣装の上でも引き締まっているのがわかる。


皇帝ルーシャン。

この大陸の若き支配者だ。


促されるまま横に並ぶと、ルーシャンはおもむろに立ち上がって階段を降りてきた。

周りにいた高官らしき人たちが同時に腰を折る。


キーラたちが所在なく立ち尽くしたままでいると、大股で近付いて来たルーシャンがウォーレスの顔を覗き込んだ。

距離が近いためにウォーレスは若干仰け反っている。


興味しんしんといった様子でまじまじと眺めたあと、その視線が聖剣に移動し、またウォーレスに戻り、ルーシャンはパッと破顔した。

精悍な顔立ちに似合わず、少年のような笑顔だった。


「やあやあ、礼を言うぞ、聖剣の主よ!

いやしかし、こんなガキとは思わなかったぞ。あっちもこっちもガキじゃないか!

むっ? そこの金髪の男はなにやら見たことがあるな」


サミュエルは一瞬驚いた顔をしたが、腕を背中に回して目礼した。

ルーシャンが今度はサミュエルをジロジロと眺め回し、難しい顔をしていたかと思うと、おおっ、と手を叩いた。


「思い出した!

余の即位式のとき、トパース王の名代の護衛をしていただろう。どうだ?」

「はっ……ご明察恐れ入ります」


ルーシャンは得意げに笑った。

たった一度だけ見た、しかも普通視界に入れることもない護衛の容姿を覚えていたのだ。腹の立つドヤ顔をされようとも、すごいと認めざるを得ない。


ナタリアはルーシャンと目が合うと一瞬嫌そうな顔をして、ギッと睨み付けていた。

ルーシャンは面白そうな顔をしてナタリアを上から下まで見、隣に立つウォーレスを見た。


「これは其方の女か?」

「はぁ、幼なじみですけど……」


ナタリアが今度はウォーレスを睨んだ。

空気を読めと言うことに違いない。ウォーレスはおっかなそうな顔をしているが、よくわかっていない反応をしている。

ルーシャンは唇に指を充てると、鼻で笑った。


「お似合いだな」

「どういう意味よ?」

「ナタリア、敬語……」


ふたりのやりとりに、サミュエルがやれやれと首を振った。

最後にキーラに目を向けたルーシャンは、うんうんと頷いていた。


「其方のことはあやつから聞いたぞ。

無彩色、たしかに珍しい色合いだ。連れている魔物も上等。

しかし……おなごと聞いていたが?」

「……」

「まぁよい。

それでだ、青くさき聖剣の主よ!

此度のことで我が国は深く抉られはしたが、其方の働きにより首の皮一枚繋がった。時間はかかるだろうが必ず元どおりにしてみせよう。そのためには今、他の国を落とされるわけにはいかぬのだ」


ゴルド大陸の国々は、そのほとんどがラズリズの従属国だ。

物資を流して物を作らせ、それを買い取ることで経済を回している。根を持つ地域は特に大きなものを扱っているため、復興で手が回らない状況でそこまで潰されてしまっては、いたずらに損失が増えるだけだ。


「こちらもあまり余裕はないが、其方らの旅路に必要なものは手配する。協力できることがあれば手を貸そう。

その代わり必ず守り通せ! よいな」


反論を許さない口調に圧されたように、ウォーレスが頷く。


「では余は戻る。ひとときも無駄にできぬのでな。

用向きは執事に言い付けるといい。其方らには借りがあるでな、多少の無茶も聞くぞ!」


ルーシャンは金属音を立てて衣装を翻すと、すたすたと出ていってしまった。

ゲームのまんまな人だなぁと感心しているキーラはともかく、3人は呆気にとられたまま、執事に応接間に案内された。そこには先客がいた。


「あ、昨日の……」


嫌味なほど優雅に紅茶を飲んでいるユーインだった。

ユーインはカップをソーサーに戻すと、向かいのソファを手で示した。


「どうぞ、座って。

あ、キースはこっちだよ」


ソファは三人用がふたつと一人用のものひとつがあった。

サミュエルは立つつもりのようなのでキーラも向かいに座れるのだが、大人しくユーインの隣に座った。

ウォーレスとナタリアは並んで向かい側に、ハルはキーラの足元に寝そべった。


「昨日はありがとうございました。

皇族の関係者だったんですね」

「ふふっ、違うよ。ルーとは友人でね」

「ルー?」

「ああ、ルーシャンだよ。今会ってきたのだろう?

ふてぶてしい男だが、裏表のないいいやつだよ」


ウォーレスの目が点になっている。

何者ですか? とその顔に書いてあるが、ユーインはしれっとスルーして手を叩いた。


「おっと、そういえばまだ名乗っていなかったね!

僕はユーイン。さすらいの旅人さ」

「はぁ……

俺はウォーレスです。それでこっちが……」

「ナタリアよ! よろしく」

「で、こっちがサミュエル。

キース……は知ってますよね」


ウォーレスは戸惑いっぱなしだが、キーラにも説明しようがなかった。


ユーインは本来、助っ人キャラとしてウォーレスたちとともにリェークに挑むはずだった。

そして戦闘後のゴタゴタの間にふらっといなくなり、また別の場所で再会することになるのだ。

だからそもそもこんなところにはいないはずだし、キーラに興味を持っているのも、キーラにとっては意味がわからなかった。


ユーインはフェミニストだが、ナンパ男ではない。むしろ美しい自分が大好きなナルシストだ。

そんな彼は自分より美しいと思ったものに関しては強い関心を抱く。鳥の魔物のエリーがいい例で、三日三晩大陸中を追い回してようやく下したというエピソードはゲーム内でも語られていた。

エリーは誰が見ても美しい魔物だ。

手入れの行き届いた白い羽毛はふかふかで艶があり、長い鶏冠と尾は薔薇の花弁で染めたかのように紅く、先端が芸術的な流線を描いてカールしている。

すらりとした骨格も長めの嘴も絶妙なバランスで、その立ち振る舞いにすら気品を感じさせる。


一方キーラはというと、村にいたときから天使の輪とは無縁のバサバサの黒髪に、日に焼けた肌、割れた爪。瞳孔との境目がわからないほどの真っ黒な目はたしかに珍しいかもしれないが、ユーインが褒めた髪だって伸びかけで、綺麗とは到底言えない。


なぜユーインに興味を持たれたのか、キーラはまったく理解できなかった。


「ウォーリーに、ナターシャに、サミーだね!

僕のことは気軽にユーインと呼んでくれたまえ。お互い敬語も抜きにしよう。僕は堅苦しいのが大嫌いなんだ」


ほぼ初対面でいきなり愛称呼びもどうかと思うが、場違いすぎる宮殿にすっかり気後れしていたウォーレスは、少し緊張が解けたようだった。


「よろしくな、ユーイン。

それで、君はどうしてここに?」

「そうそう、僕も、君たちの旅に同行させてもらおうと思ってね」


あっけらかんとしたユーインの言葉に、ウォーレスは目を見開いた。


「そうなのか。

俺としては心強いけど……なにか目的でもあるのか?」

「ああウォーリー、言っただろう? 僕は旅人だって。

実は僕、アーガンティアに渡ろうと思って、この港から出る商人の船に護衛として乗せてもらう予定だったのだよ。

ラズリズの海上警備隊が巡回しているとはいえ、海賊や魔物に襲われることもあるからね。

しかし港は封鎖されてしまったし、依頼人も荷を流されてしまってね。僕はお役御免というわけだ。

エリーと巡るゴルドの旅もいいものだったけど、君たちとともに行けば、また違う景色が見られるかもしれない。

なによりもこれまで僕が旅の中で目にしてきた美しい風景や人々は、先人たちが長い時間を掛けて平和を積み上げ、築いてきた大切な遺産だ。

それを……このラズリズのように蔑ろにされてしまうなんてことは、あってはならない。そうだろう?」


ゲームでは、アーガンティア大陸でユーインと再会する。

彼はたったひとりで難民の支援や復興の手助けをしていた。

それを知ったウォーレスがスカウトという形でユーインが仲間入りすることになる。

ゲーム的な都合で言えば、盾兼回復役だったサミュエルが抜けた穴埋めとして、状態異常付与兼回復役であるユーインの加入イベントが発生するわけなのだが、現時点でふたり揃っており、かつ存在しないはずのキーラもパーティーに加わっているために、ユーインが入るとかなり守備の堅いパーティーになりそうだ。


キーラとしてはうっかり事情を聞かせてしまったユーインには色々と協力してもらいたい気持ちもあったので、かなりイレギュラーな展開ではあるものの、内心ガッツポーズだった。


ただ、これによってもたらされる結果が、キーラにとっていいものとなるか、悪いものとなるかは、かなり判断に迷うところではあった。

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