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4-2:東の海 ルーガンド

まだ日が昇る前の薄暗い時間に起き出し、キーラたちは船に乗り込んだ。

ロマン漂う(キャラック)船にわくわくしながら、船乗りたちの掛け声が飛び交う中を歩く。


「ふわあ、意外と揺れるんですね」

「これでも改良を重ねて安定性は高くなったほうだ。怖いなら私に捕まっているといい」


素直にサミュエルの袖を掴みながら、準備をしている船員の邪魔にならないように甲板の隅に避ける。

海峡とはいえ向こうの大陸までは遠く、目前には水平線が広がっていた。濃紺の大地から炎が上がるように、朱がゆっくりと空を染めていた。

キーラはなんとなく、羽織った外套をたぐり寄せた。もうすぐ、日が昇る。



航海は順調だ。気持ちいい風が楽しげに頰を叩く。

すっかり船の揺れにも慣れたキーラは、あちこち走り回っては海を覗きこんだりと忙しい。


透き通った海面からは、色鮮やかな魚が泳いでいるのが見えた。

ハルが隣で目をギラギラさせている。ハルはトパースで魚料理をはじめて食べてからすっかり魚にハマっていた。

昨夜宿で出された新鮮な魚がよっぽど美味しかったのか、食事を終えた後も、何度も高い声で鳴いてねだってくるので、海に行ってとってらっしゃいと言いたいくらいだった。

本当に行きかねないので、さすがに控えたが。


「ハル、落ちちゃうから、あんまり前に出たらだめだよ」

「グルル……」

「もう、ハル! お魚なら向こうでも食べられるでしょ〜!」


己の体長ほどもある魔物をキーラが一生懸命引っ張っているのがおかしいらしく、地上とは反対にキーラは船乗りたちによくからかわれた。もちろん悪意のあるものじゃなくて、面白い子どもに構いたくて仕方がないといった感じのからかいかただ。

大きな手で豪快に撫でてもらえるのはキーラを少年と思っていることもあると思うので、このままキースのままでもいいかなぁなどとキーラはなかば諦めてきている。



楽しい船旅とはいえ、さすがに2日3日と経ってくると一面の海に飽きてきてしまう。それはキーラだけでなくみんなも同じで、自然と会話することが増えていた。

思えばずっとバタバタしていて、ゆっくり話す暇もなかったのだ。話はなかなか尽きなかった。


「あたしの両親は薬売りなのよ。

一応あたしも薬師免許は持っているから、回復薬くらいなら作れるわ」

「俺、よくナタリアにパシられてたんだ」

「当たり前でしょ。か弱い女の子が断崖絶壁にしか生えない花とか、魔物がうようよいる洞窟の奥の苔なんて採りに行けるわけないじゃない。

それに、ウォーレスが軍に入れたのもそれで鍛えられたからでしょ? むしろあたしに感謝してほしいくらいだわ」

「あはは……

でもナタリアがこうじゃなかったら、俺今でもひとりだったのかなって思うし、まぁ軍のこともさ。なんだかんだ助けられてるんだよな」


ウォーレスは幼いころに両親を亡くし、親同士が知り合いだったことがきっかけでナタリアの家に引き取られた。

塞ぎ込みがちだったウォーレスを無理矢理光の下に引っ張り出したのが、ナタリアだった。


『うじうじウォーレス、そんなんじゃ頭からキノコが生えちゃうわよ! それーっ!』

『!?』

『うふふっ! これは笑いキノコっていって、ふふっ、胞子を吸うと……ふふっ、わ、笑いが、あはっ、あはははっ!』

『おま、自分が引っかかって……くっ、あははは……!

なん、これっ、はははっ、とまんな……っあははははは!!』


お転婆で男勝りなナタリアは、ウォーレスを弟のように可愛がった。

どこへ行くにも連れ回し、日が暮れるまで遊んで、同じ布団で眠った。

幼なじみという関係よりも、義姉弟に近い。そんなナタリアがいたからこそ、ウォーレスは穏やかで優しい子に育ったのだろう。


「だからそれほど仲がいいのですな」

「可愛い弟だったのに、男の子ってどんどんおっきくなっちゃうから嫌よね。

くわえて聖剣の英雄だなんて……生意気だわ!」

「俺だってまさか選ばれるとは思わなかったよ」

「神子姫様は、ウォーレス様の英雄たる資質を見抜かれていたと聞きましたが」

「あの時は驚いたよな。ってナタリアは見てなかったか。キースは見てたよな?」

「たしかに、確信してたみたいでした。

ウォーレスさんが聖剣を抜くところ、とってもかっこよかったんですよ!」


ウォーレスは跪かれたときのことを思い出したのか、ちょっとしぶい顔をした。


「あれから、なんやかんやでキースともここまで来ちゃったけどさ、嫌になったらやめてもいいんだからな。

俺の使命というかしたいことって、まだ、宙ぶらりんなんだよ。みんなを守るためにはあいつらをとめるしかない。でも、世界を守るためには、ちゃんと世界樹に根を返さないといけないんだと思う。

今みたいにただ目先の敵を追いかけてるだけじゃ、俺は、きっとなにも変えられない」


レフたち赤目の民は、直接誰かを殺したわけじゃない。

でも、キーラのような辺境育ちの人間ならともかく、文明に慣れた人間が突然それを失ったとき、どれだけの人が生き残れるだろうか。


「英雄権限で、おとなしく根を差し出しなさいって言ってまわったらどうかしら?」

「それ脅迫だろ……第一、英雄なんておとぎ話だぞ?

トパースは英雄信仰があったからあんな感じだったけど、一国をひれ伏せるほどの権限なんてないと思う」

「だったら武力で」

「それじゃあ守人たちと変わらないって」

「なら説得してまわったらいいじゃない。

このまま世界樹の根を使い続けたら世界が滅びるかもしれないので、動力施設を停止してくれませんかってね。

そしたらなんて言われるかしら? 国民の生活がかかっているのにそんなことできない、とか、創世から大地を支え続けた世界樹が滅びるなんて有り得ない、とか?」

「ナタリア……」

「なによ」

「まあまあ、おふたりとも。

落ち着いて、ほら、海でも眺めてみなさい」


ナタリアは完全にそっぽを向いてしまったが、ウォーレスは少し気まずそうだ。

サミュエルはやれやれと息を吐くと、ふたりの頭にぽんぽんと手を置いた。


「神子姫様もおっしゃったように、あなたがそこまで気負うことはありません。

それにそういったことは我々おとなの役目です。アーガンティアではすでに数人の外交官が各国の説得にまわっています」

「えっ」


突然のこども扱いに固まっていたウォーレスは、その言葉に目を丸くした。


「じゃあ、なら、トパースは?」

「現在我が国でも、かつて使用していた石炭や石油の開発の計画を進めています。

さすがに今すぐとはいきませんが、根を返すにしろ奪われるにしろ、国民が路頭に迷うことのないように手は尽くしているつもりです」


そこまで聞くと、ウォーレスはへなへなと肩を落とした。

それは落ち込むというよりも、背中に乗っていたものがまとめて払い落とされて、急激に力が抜けたような感じだった。


「それは……もっとはやく教えてほしかったなぁ……」

「申し訳ございません。

大変失礼な言い方になってしまいますが、私もウォーレス様がそこまで考えてくださっているとは思っていなかったので、大変驚いているのです。ウォーレス様やナタリア嬢も、キースも、私が思っているよりもずっとおとなびた考えかたをする。己を恥じるばかりです」


キーラは蚊帳の外ながら、心臓が飛び出しそうになっていた。

このふたりとサミュエルが打ち解けることはこの先ないと思っていたからだ。


ゲームでは……サイフォンでの戦闘でイサイを殺したサミュエルに、ウォーレスは複雑な感情を持ったまま旅を続けることになる。

それを察しているサミュエルも踏み込むことなく、ふたりの間には埋めがたい溝が広がっていってしまうのだ。

そして、この先に起こるある出来事から、ふたりは決裂。つまり、サミュエルはトパースに戻ってしまう。


だけど、とキーラは思った。


未来は変わっている。そしてこの先も変わっていく。


波紋を広げ続けて、次に静寂が訪れた時、そこにはどんな未来があるのだろう。


キーラはまだ見えぬ遠い海の先に、視線を投げかけた。

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