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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第二節 約束の騎士
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第九十七話 何処か遠くへと

 放課後、私達はいつものように近く公園に訪れシラフの鍛錬に付き合っていた。

 彼が私達から距離を取り剣の素振りをしている中、先程まで彼の横で剣を振っていた妹のシルビアは休憩を取り水分を補給している。

 そして、彼の鍛錬を様子を遠目から私とクレシアは見守っていた。


 「気合いが入っていますよね、シラフさん……」


 「そうだね。

 全く……これだから戦闘好きは困るんだよなぁ……。

 いつも何処かしら怪我してるからさ」


 私は呆れつつも、足をぱたぱたとさせ足元の小さな石を軽く蹴る。


 「でも、ルーシャ。

 見てる分には案外楽しそうだよね?」


 「えっ……?

 そう見えたかな?」


 「うん。

 やっぱり幼なじみだからこうして眺めている事が習慣だったりするの?」


 「あー、それはそうかもね……。

 シラフって、王都に来るとシファ様の訓練に参加して大人の兵士達に混ざって稽古をしていた時もあったくらいだからさ……。

 私、よく王宮のお稽古が嫌になって抜け出した時に、彼等の訓練の様子を見ていたんだよね」


 「確かにそうでしたね、姉様。

 私もよく姉様に付いて行って見学していましたし」


 「ふーん、じゃあシラフが槍とか斧じゃなくて敢えて剣を使う理由って、シファさんの影響だったりするの?

 ラノワさんの試合の時に、あの人は一応剣を使ってたからさ?」


 「うーんと、それは少し違かったはずだよね。

 シファ様とは別に、剣を使っていたサリアの英雄を目指してたからっていうのが主だったはずだね」


 「サリアの英雄?」


 「ハイド・アルクス。

 サリアの歴史上、最も偉大な王に仕え歴代一の十剣の一人と謳われた、サリア王国歴代最強の騎士」


 「ハイド・アルクス……」


 「私のご先祖様の中でも特に凄かったのが、第十四代女王のリースハイル・ラグド・サリアって人なの。

 その人は歴代の王の中で最も恐れられ国民から絶対的な信仰と支持を持っていた御方だった。

 サリアの歴史の礎を築き、有名な話だと400年くらい前の帝国侵攻際には、唯一帝国の武力支配から真正面から抵抗し向こうとの話し合いに直接持ちかけた程。

 他にも彼女の残した功績は大きく、後のサリアだけじゃない、他国の歴史にも大きく関わっていた程の凄い人だったんだ」


 「名前は前にもルーシャから聞いた事はあったね。

 かなり前にも硬貨の肖像として採用されてたくらいの人だったし」


 「うん、そうそう。

 本当に凄い人なんだ。

 で、その人の専属として仕えていたのが、例のハイド・アルクスって人なの。

 彼は十剣の加入間もなくして歴代の中でも指折りの実力を持っていた。

 彼の残した逸話や伝説を目標にサリアの騎士団であるヴァルキュリアを目指す人は未だに数えきれない程いるくらいだからね」


 「それじゃあシラフも、その人を目標にしている人の一人なんだ?」


 「そうかもね。

 今では本当に十剣になって私の専属の騎士になっているしさ……」


 「そうですね、シラフさんはシファ様は勿論、国の英雄であるハイド・アルクスの背中追って今に至っていますから。

 あの人の持つ神器の力は、あの英雄と同じものですし、いずれ本当にかの英雄を超える日が来るのかもしれません」


 シルビアはそう言った。

 確かに、彼の持つ神器はあの英雄が生前使っていた代物と同じだ。

 そして、彼は英雄の名前も継いでいる。

 英雄の道を辿って、本当に彼はあの伝説の騎士を超える存在になるのかもしれない。


 「そっか……。

 やっぱり、凄いんだねシラフは……」


 「凄いでしょ、シラフは?

 私の自慢出来るサリアで一番の騎士なんだからさ」


 彼が鍛錬に取り組む姿を私達は見守っていた。

 英雄の跡を追う彼の姿、いつか私達の前にその姿を示してくれる日が来るのかも知れない。

 

 そう遠くない内にきっと……



 その日の夜、私と彼はいつものように同じ卓を囲んで夕食を食べていた。


 「シラフ、調子はどうなの?」


 「あー、まぁ普段通りで特に問題ないよ。

 このままの体調を保っておけば良さそうかな」


 「ふーん、そう。

 それで、明日の対戦相手は誰に決まったの?

 もうその辺りの通知とか貴方には来るんでしょう?」



 「あー、夕食を作っている時に端末に対戦相手の情報が送られて来たよ」


 「やっぱり来てたんじゃないの?

 それで、誰だったの?」


 「オリエントの学位序列4位。

 シグレ・ヤマトって人だよ」


 「なっ……いきなり4位って……。

 シラフ、大丈夫なの?」


 「どうだろうな……。

 あの佇まいを見ただけでも、彼女の実力はかなりのモノだとは感じたが………」


 「見ただけって、その人に会った事があるの?」


 「前夜祭の時に一度話を交わした程度だけどな。

 確か、俺と同じくらいの年から剣を握っているらしいよ。

 向こうでは剣の事をカタナって呼んでるらしいが」


 「へー、そうなんだ………。

 それでそれで、どんな感じの人だったの?」


 「うーん、向こうはヤマトの王族で第三王女。

 話した限りでは礼儀正しくて、とにかく真っ直ぐで堂々とした佇まいというか………。

 いかにも、剣一筋みたいな人かな……。

 少なくとも、お互いに実利差はそこまでないかもな」


 「そう、なんだ……」


 「まあま相手の実力がどれほどだろうと、俺は俺に出来る全力で向かい打つだけだよ。

 信じられるのは己の身体に刻み込んだ剣術くらいしかないからな。

 ぶっつけ本番で神器の力を使わざるを得ない状況も考えられるが……」


 「そっか……。

 でも、シラフならきっと大丈夫だよ。

 頑張ってね、私もシルビアもクレシアも向こうから貴方を応援しているから」


 「そうだな、応えられるように頑張るよ。

 主に期待されたのなら、尚更な」

 

 他愛ない会話を私達は交わしていた。

 しかし私は何故か今こうして近くに居てくれる彼が、既に手の届かない遠くの存在になっていくような感覚を覚えた。


 いや、気のせいだろうと……。


 でも、そんな予感を僅かながらに感じていた。

 

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