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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第二節 約束の騎士
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第九十五話 欠けて、変わりつつ

帝歴403年10月5日


 いつも通り、学院に通ったこの日。

 しつこい程に絡んでくる銀髪の彼女の姿はない。

 最初は寝坊辺りで遅刻かと思ったが、1時間目の授業を終えても姿はない為、何らかの理由で休んだものと思われる。


 「今日は休みか……」


 溜め息を吐きながら、そんな事を私は呟く。

 体調管理が出来ていないのか……、いやそもそも体調を崩した事が私の知る限りで一度もないはず。

 あるいはシトラのように、何らかの衝動で引きこもりにでもなったか……。

 まぁそんな事になろうとも、同室のシンがサボりを許可するとは思えない。


 憶測が脳裏を幾つも過ぎるが、幾ら考えたところで私には特に関係ない事だ。

 明日、あるいは数日経てば勝手にいつもの彼女が私の前に現れるのだろう。

 

 何らかの体調不良以外にも、アレの身分はこの学院でもかなり特殊な様子。

 何らかの用事で授業を外れる事もそれなりにある。

 その際は私に対して授業の内容を代わりにまとめておいて欲しいと事前に何かを言ってくるくらいだ。


 つまり、体調不良や遅刻の可能性以上に彼女自身の抱えている何らかの用事や仕事が影響している可能性の方が遥かに高い。

 むしろ、それ以外はあり得ないだろう。

 あのような人知を逸した存在が風邪で病欠等、普通あり得ない。


 突発的に休んだのは今回が初めてだが……。

 

 そんな事を思いながら一日は過ぎていく。

 そして私は、本日の授業内容をまとめたノートを渡す為に、同室であるシンを放課後に呼び出していた。


 待ち合わせ場所は学院の入場門を指定。

 そこで彼女との待ち合わせをする。


 しばらくすると、急ぎ足気味でシンが私の方へと駆け足で向かって来る。


 「遅れてしまい申し訳ありません、ラウ様。

 担任教師に教材運びの手伝いを頼まれてしまい断れなかった次第で……」


 「別に構わない、大した用でもないからな」


 「そうでしたか。

 あの、それで私に何の御用が?

 前回送られた資料の解析はまだ完了しておりません。  

 もう少々時間を貰いたいところなのですが……」


 「その件に関しては急がなくていい。

 祭典の運営が落ち着き次第報告を頼む。

 今回呼び出したのは、コレを私の代わりに頼みたい」

 

 そして私は鞄の中から一冊のノートを取り出し、彼女に差し出した。


 「あの……これは?」


 「君の同室であるシファ・ラーニルが本日欠席をしていただろう?

 私の代わりにコレを渡して貰いたい。

 本日の授業内容が全てまとめてある」


 「…………」


 シンはノートを前に立ち尽くし受け取る気配がない。

 何か、こちらに不備でもあったのだろうか?


 「シン、何故受け取らない?」


 「あ、いえ……その……、ラウ様が他人をそこまで気に掛けている事に少々驚いたので……」


 「私の行動に対して、何か問題があったと?」


 「いえ、そういう訳ではありません。

 とても素晴らしい心遣いだと思います……。

 でも、どうして突然そのような事を?」


 「そこまで珍しくない。

 立場上、席を外す事が多い彼女の方から代わりにまとめて欲しいと頼まれる事も以前に何度かあったからな。

 今回はその指示が無かったが、日を改めて隣で写しを懇願されても面倒な事に変わりない」


 「そうですか……」


 「何故奴は休んだ?」


 「えっ……。」


 「何故、シファが休んだのか聞いている」


 「えっと、その……。

 本日シファ様は、お身体には特に問題ありませんでしたが、何処か気分があまり優れていないようでしたので……。

 いつもは朝食ですらおかわりを何度かする程なのですが、本日はほとんど手を付けず様子も何処かおかしい次第でしたので………。

 私の方から学院へ連絡し、本日休ませた次第です」


 「気分が優れていないだと?」


 「はい、そうです。

 昨日帰宅した辺りから暗い顔で、翌日の朝も昨日と変わらないどころか一睡もしていないような様子でしたので……」


 「なるほど……」


 「念の為彼女に直接何があったのか聞いてみましたが、特に何かを答える事はありませんでした……。

 問い詰めたところではぐらかされるだけでしたので」


 「………、昨日は確か……。

 巨大な魔力同士の衝突があったはずだったが……」


 「そうでしたね。

 場所は、ここから離れた西の荒野と呼ばれる場所。

 私の持つグリモワール・デコイの観測結果ではヘリオスの神器の力を観測しました。

 しかし、観測した時間帯において、現在のヘリオスの契約者であるシラフ様は学院付近かつ私のすぐ横に居りましたから、距離の大きく離れたかの場所から彼と同じ力を観測出来るはずはありません」


 「契約者とは離れた場所で観測をしたか……」


 「仰る通りです。

 そして、かの場所に恐らくシファ様もいただろうと私は推測しています。

 彼女の気分が悪い原因として、昨日の魔力の衝突……改め交戦をした事が原因でしょう」


 「デコイに欠陥があったのでは無いのか?

 私も同様に力を観測したが、ヘリオスの力だと断定は非常に難しい。

 直接、奴の力を観測したことがあるのは君だ」


 「それも可能性にいれましたが、あり得ません。

 確かにあの力はヘリオスの力だと思われます。

 そして、その力の観測を可能にする証拠も一つだけ心当たりがありますし……」


 「……、例の第三王女の存在か。

 彼女の存在と同じように、同じ時代へ流れてきたヘリオスの契約者だとでも?」


 「その可能性は非常に高いと……。

 彼等の目的は私もよくは分かりませんが……」


 「なるほど、ヘリオスの契約者か……。

 シラフ・ラーニル……。

 いや、本名は確かハイド・カルフだったか……」


 「ハイド・カルフ?」 


 「奴の素性に関して私で独自に調査していたんだ。

 彼女が何の理由もなく、得体の知れぬ子供を引き取る事は非常に考えにくい。

 長期休暇の辺りに、奴に関する情報が含まれたと思われるサリアに関する書物の多くが除外されていた。

 ラークの中央区に存在する大図書館に趣き、整理されたと思われる同様の書物を手当たり次第に調べ上げ、ある程度の憶測は掴むに至った。

 彼女が奴を何故引き取ったのか、その理由を突き止める為にな………」


 「シファ様がシラフ様を引き取った理由が分かったのですか?」


 「ある憶測にはたどり着いた。

 しかし、まだ証拠が足りないのが事実……。

 事実であるなら、あの女のやろうとしている事は常識的に考えても常軌を逸した行動ではあろうが……」


 「………」


 「それに、事は少々面倒になっているようだ」


 「それは一体?」


 「私の推測だが、奴は何らかの事情で己の素性を知らずに学院に来ていると思われる。

 シファ、あるいは国の者が彼に対して何らかの情報を伏せるあるいは、何らかの魔術を用いて過去に関しての何らかの情報を隠蔽されているのだろう。

 本人あるいは、彼等にとって不都合な何かを彼は知っている可能性が高い。

 そして、奴の近くには隠された素性を探り、ある程度の答えにたどり着いた者がいると思われる」


 「つまり、彼と過去に関わった、あるいは何らかの真相にたどり着いた人物が今彼の近くにいると?」


 「そうなるな。

 2ヶ月程前に、最もその疑いが強いと思われる人物はサリアの第二王女と共に行動していたのを見かけた。

 図書館で私と同じく、奴の過去を詮索していたのだろうとは思ったが……」


 「サリアの……。

 あの、まさかその人は……」  


 「彼女を知っているのか?」


 「ええ、勿論です。

 確か、クレシア・ノワールという方ですね。

 第二王女の親しい友人と聞いています」


 「クレシア・ノワール……か」


 「彼女について、他に何か気掛かりが?」


 「そこまで大したものでは無いがな。

 例の彼女は何故か献身の呪いに掛かっていた」


 「なんですか?

 その、献身の呪いとは?」


 「単的に説明するなら、他人の怪我や病気を肩代わりできる古い魔術の一種だ。

 しかし、その呪いで肩代わりした物は治癒は非常に困難を極める。

 主な用途としては、刑罰の一つとして用いたり、教会に存在するという聖女と呼ばれる存在の何人かに付与されていた記録が幾つか残っている程度だ。

 今現在使用される事は、まずほぼない稀な代物。

 直接この目で確認出来たのが不思議な程、古い魔術の一種なのだがな……」


 「そのようなモノが、あの方に……。

 私には分かりませんでした」


 「………本来なら、かの魔術の影響で対象の皮膚上に魔術の術式が幾つか浮かびあがるのだが、何らかの薬を服用、あるいは何らかの魔術を施し見えなくしている。

 私にはグリモワールの本体があるからその効力の影響を受けなかったのだろう……。

 ノエルの生み出したデコイの偽物程度ではアレの可視化は出来ないとなれば、薬品や魔術の開発に携わった存在はかなりの実力を持っているに違いないが……」


 「それで、何故彼女が気掛かりなのです?」


 「あの呪いが不完全であり、彼女の先天性の物である事だ。

 私の見た所、彼女が生まれた時既にその呪いは体埋め込まれていた。

 いや、あるいは母体から引き継いだ可能性、それ以外はにも何らかの外的要因で体内に呪いを背負ったと思われるが、少なくとも昨日今日になって受けたモノではないことは事実だ。

 それも不完全な状態で、呪いを受けている」


 「不完全な呪い……それでは呪いの効力が本来のように発揮されずに終わるだけでは?」


 「いや、だがしかし呪いは確かに発動していた。

 そして、辺りの人間からとても微々たる物だが病気や怪我を肩代わりしている。

 呪い及び魔術としての効力は間違いなく働いていた。

 魔力の微弱な流れが彼女に集まる事を観測したのだから、間違いない。

 かなり珍しい症例、治療をわざと遅れさせ経過観察をしているのか、治療そのものが現段階も目処が立っていないかは知らないが……」


 「それでは、このまま進んだ場合は……。」


 「確実に死ぬだろう。

 あのまま放置すれば、あと2年保てば良いところだ」

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