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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第二節 約束の騎士
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第九十四話 道は分かたれて

 私は彼に向かって刃を振るっていた。


 当然表情は驚いている様子。

 無理もないが、反応した。


 反応して、私の攻撃を防いだのだ。


 紙一重も良いところで男はその異型の剣で反射的に防いでいたのだ。

 お互いの刃が交錯する中、瓜二つのソレがお互いの視界に入り込む。

 

 「っ………?!」


 「シラフ……?

 その力でどれだけ自分を犠牲にしたの?

 その力でどれだけ回りに犠牲を払ったの?

 この力を貴方がどうして使っているの?」


 「こうするしかなかった………。

 俺には、俺達にはこうするしか無かったんだよ!!」


 感情に任せた彼の一撃で私の身体が僅かに跳ね退く。

 

 「このっ!!」


 そこからは激しい攻防戦が幾度となく続いた。

 明らかに人間の限界を超えた領域での戦い。

 私自身にも負荷が高く、長時間の維持は難しい。

 

 剣が飛ぶ、刃が飛び散る。

 手足が破裂し、間もなくして元通り。

 

 二手三手どころか、何十手先も視えている。

 数秒前に空を切ったはずの攻撃の座標、ソレが能力を通じて残り続けると今になって外した攻撃がお互いの身体を切り刻むのだ。


 正直驚いている、彼の実力は私に匹敵する程。

 その命を奪うに近いところまで来ている。


 多少手足が飛ぼうが関係ない。

 斬撃の嵐と化した世界で、幾度も剣は交わり続ける。

 

 剣は砕けようとも、次に振るう時には砕ける以前の姿を取り戻し再び攻撃が衝突する。


 当初、無限に続くかに思えた剣戟の極致。

 しかし、限界は存在した。


 「っガハッ………」


 静止した世界が再び動き出した。

 剣戟の嵐がお互いの身体を切り裂くと白と黒に染まった世界に色が戻っていく。

 私は目の前で膝を崩した彼に向かって剣を突き付けるが、血濡れた手は震えすぐに離してしまう。


 彼の命は、もう長くはないのだ。


 目の前の彼の姿に私の身体は震えていた。

 そのあまりに無惨な有り様に、今こうして生きていられるのが不思議なくらいで………。


 「どうして……。

 どうしてなの……シラフ……?」


 「…………」


 「もう時間が残ってないじゃない!!

 どうして、どうしてそんなになるまで神器の力を使い続けたの!!

 バカ………シラフのバカ!!

 何で分かってくれないの、分かってないの!!!

 そんな身体になるまで、どうして一人で背負い続けたのよ!!!

 こんな酷い結末の為に、私はあなたを育てたんじゃない!!!

 ただ、ただ私は貴方に生きて欲しかったのに!!」

  

 涙ながらに私は彼に向かって叫んだ。

 しばらく間を空けてから彼は無気力気味に口を開く。


 「俺は、俺達は、この世界に遡る代償として自分達が本来残されているはずの寿命を捧げました」


 「っ…………」


 「ただ、俺はソレに加えてこれまでの度重なる神器の負荷の影響が酷く、残された寿命のほとんどを使わざるを得ませんでしたがね」


 「っ……そんな……」


 「戦力外はこれが理由ですよ。

 俺自身に残された時間では俺は仲間の為に何も出来ない、何かをしたくても残された時間で出来る事は何も無かったんですよ。

 だから俺は残った時間で俺は果たすべき役目を自身で絞り出した……。

 シラフ・ラーニルを、過去の俺自身を殺す事。

 それが今の俺の果たすべき事です」


 「そんなの、そんなモノに何の意味があるのよ!!」


 「仲間達にも当然言われましたよ……。

 でもそれが必要だと判断しました。

 俺では、ハイド・カルフでは世界を救えない。

 本当に必要だったのは、俺では無かったんです。

 もっと早くに知るべきだった……。

 だから、だから俺はシラフ・ラーニルを殺さなければならないんです。

 俺ではないアイツが俺達に、この先の世界には必要でその為に俺は……」


 「そんなの……そんなのおかしいよ……。

 なんであなたが要らないなんて言うのの!!

 私には……ルーシャ達にはあなたが必要なのにどうしてそんな事を言うのよ!!」


 「………。」


 「おかしいよ……絶対に間違ってる!

 なんであなたが、シラフが自分は必要ないなんて思っているの!!

 あなたはルーシャに仕える騎士でしょう?

 彼女は貴方を必要としてくれたから、貴方は彼女の為に騎士なろうと努力した、必要だってそうありたいからあなたは必死に強くなろうとしたんでしょ!!

 間違ってるよ、シラフのやろうとしてる事は絶対に間違ってる!!」


 「………」


 「その首に掛けている赤い宝石の首飾りだって……。

 あなたがそれが何なのか分からない訳無いでしょう!!

 あの子が、ずっと……ずっと……」    


 「…………。」


 彼は何も答えない。

 いや、正確に言うならあの首飾りに反応を示さなかったのだ。

 私が封じた、彼の過去……。

 今も尚、私は封印を解いてないのか?

 いや、でも記憶を封じたのなら何らかの拒絶反応が出てくるはずである。

 しかし、これまでの反応とは全く異なるようだ。

 本当に何も分かっていないようなのか、彼は困惑と共に僅かに首をかしげていたのだ。


 「シラフ…………?」


 「分かりません。

 コレは、何故か俺の元にあった物ですから……。

 ただ、何となく、手放せずに今もあるだけですよ……」 


 「それって、どういう………」


 そう言いかけた瞬間、背後から何かが身体を貫いた。

 胴体を貫く冷たいナニカの感触……。


 体勢を崩し、存在を認識する。


 長い金髪の彼女………。

 そうだ、アレは確か………


 「シルちゃん……どうして……。」

 そこにいたのはシルビア。

 彼とは違う未来から来たと言っていた、異質な成長を遂げていた彼女。

 

 「ここであの人を殺される訳にはいきません。

 彼の身柄は私が預かります」


 「私はまだ……、こんなの絶対に………」


 動こうとするも、上手く身体が動かない。

 貫かれた刃、ただの武器という訳でもない。

 何らかの魔術的な要素が働いているモノと見て間違いない。


 私自身への影響はそこまで問題ではない。

 が、足止めとしては十分な効力を発揮している。


 でも、こんなところで………。


 無理やりこちらも魔術で解こうとするも、魔力の流れが阻害され上手く魔術が発動しない。

 物量で押そうにも、これでは彼等を逃してしまう。

 

 「シファ・ラーニル。

 いずれ、また会う事になるでしょう。

 今は引きましょう、ハイドさん」


 シルビアそう言うと彼に肩を貸し、そのまま何処かへと連れ去っていこうもする。

 転移の魔術と思われる魔法陣が彼等の目の前に存在し、彼等はそこへと向かっていく。

 

 「待ってよ……!!

 待ってよ二人共……!

 私は……私はただ……!!!」

 

 彼女が魔法陣へと踏み込む間際、彼が一瞬だけ私の方を振り向く。

 

 「さよなら、姉さん……」


 そう言い残して、私の目の前から二人は消え去った。

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