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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第二節 約束の騎士
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第九十二話 覚悟と代償

帝歴403年10月2日


 午前の授業を終え、俺達は食堂に向かうといつもの顔触れで昼食を共にしていた。

 ルーシャとクレシアが向かいに座り、俺の隣ではシルビアが居る。

 そして俺の肩やテーブルの前だったりと場所を転々と変えるリン、そして俺自身を合わせての5人での集まりである。

 俺はというと、さっさと昼食を食べ終えてしまい、次の試合に向けて過去の試合記録を端末から眺めていた。

 が、決勝トーナメントの記録を見ると大半が両者の動きを映像で処理しきれず写っていない場合が結構な頻度で見られてくる。

 しかし、何となくだがこの時のお互いの手の内は自分の脳内で仮説を立てて補完していく、その繰り返しで試合の内容を把握し相手の癖とかを探っていく。


 「シラフは勉強熱心だね……。

 何回も去年の決勝の試合を見直してさ……」


 俺の右肩に腰掛けていた彼女は、何かを見つけるとパタパタと飛び立ち横に座るシルビアの昼食のおかずをつまみ食いした、再び俺の右肩の定位置へと戻っていく。


 俺の端末には現在、昨年の決勝トーナメントの試合の映像が映されている。

 試合内容としては、昨年卒業したというアルム・カルストという人物と、先日ラノワと激戦を繰り広げたルークスとの戦いである


 「俺の試合は4日後でそこそこ余裕がある。

 が、対策は取れるだけとっておきたいんだよ」


 「まあ、仕方ないか。

 あんな試合を昨日見たばかりだからさ」


 「確かにそうかもね……。

 だってシラフお姉さんの彼氏さんとの試合でしょ?」


 昨日の試合の光景が俺の頭に過ぎる。

 実際のところ、アイツの実力は認めたくないがかなりのモノだと認めざるを得ない。

 特別身体を鍛えている訳でもないようだが、魔術の練度がかなり高く、使うほとんどが無詠唱。

 魔術頼みかと思えば、肉弾戦に秀でた獣人に対して自らも殴り合いで対応出来るくらいには戦う術と実力を兼ね備えていたのだ。

 

 例の海賊の騒動で一度アイツの実力を垣間見ては居る身として、やはり一筋縄では勝てる相手ではない。

 姉さんもアイツの実力を認めているくらいだ、今の俺で勝てるか正直怪しいか無理なところではある。

 

 だが……、

 

 「あいつの実力は認めるよ。

 だが妙なんだよな……」


 「妙?何か気になる事でもあるんですか?」


 シルビアの言葉に、俺は頷く。


 「確かに、アイツは強いよ。

 でも、それでクラウスさんに勝てたって話は正直信じられないんだ。

 あいつはかつて、クラウスさんと1対1で試合をして彼を打ち負かしたからこそこの学院に急遽編入する事になったって話だからな……。

 神器使い、まして次期十剣の顔とも言われる彼を打ち破るなんて事を、あの程度の実力でやり遂げたなんて信じられない。

 クラウスさんの神器の能力に関しては一応知っているだろ?

 同郷のルーシャとシルビアとリンはさ?」


 「確かに……。

 クラウスさんに勝てるとは思えませんね」


 シルビアはそんな事を言うと、言葉を続けた。


 「クラウスさんの神器は影落の指輪と呼ばれる物でその能力は幽冥という物ですからね」


 「有名?目立つとかそういう物だったかな?」


 ルーシャがそんな言葉を返すとシルビアは首を振?。


 「違います、姉様。

 幽冥とは薄暗く辺りがよく見えない事。

 そしてあの世という意味でもあります」


 「なるほど……って、幽霊になる力とか使うの?」


 クレシアがそんな事を言うと、シルビアは微妙な表情を浮かべた


 「近いですが、少し違いますね。

 主に視界や感覚を奪っていく能力です。

 その戦い方故に死神等とあの人の扱う神器に選ばれた者は皆そう呼ばれているんです。

 だから、幽霊という表現も間違いではないのかもしれませんね」


 「なるほど、そうなんだ。

 それでどうして、妙に感じたの?

 クラウスさんって人と八席のカイルさんは全く違う戦い方に感じるけど……」


 「だからだよ、クラウスさんの扱う特殊な能力故に初見で勝つなんてまず姉さんくらいの実力差が無いとほとんど無理なんだ。

 いくら魔力の差が莫大であろうと、最初の立ち会いでクラウスさんの神器の能力を知っているか事前に危険を察知して対応出来なければ視界や聴覚とかの五感を根こそぎ奪われればまず抵抗するのも不可能に陥る。

 そうなったら、まず勝ちはありえないさ。

 同然、奴の判断速度は確かに早かったよ。

 状況を事前に予測し判断していたようにも見えるくらいにはな……。

 が、見たところクラウスさんの攻撃を抜けられるほどの物では無かったんだ」


 「それの何が、どういう事なの?」


 ルーシャが俺にそう尋ねた。

 そして俺は端末をテーブルに置き天井を見えながら呟く。


 「ラウって奴はまだ何か隠しているんだよ。

 それも、神器に匹敵するほどの驚異的な何かをな」

 


 帝歴403年10月4日

 

 「ここで待っていれば来るかな……。」


 オキデンスに存在する西の荒野と呼ばれる場所。

 見渡す限りの灼熱の荒れ地、近くに集落はないどころか動植物の影すら僅か程しかないくらいである。

 こんな場所に来るのは物好きくらいだとは事前に聞いてはいたが確かにその通り。

 さっさと用事を済ませて、ラウから冷たい飲み物でも用意して貰おう。


 軽く身体を伸ばし、空を見上げる。

 雲一つない快晴、ひと暴れするには丁度良い。


 軽く深呼吸をし気を引き締めると、私は全身に魔力を込め精神を研ぎ澄ます。

 すると、私の魔力を察知したのか誰かの気配を私の後ろの方から感じた。


 「………、こうすれば来ると思ったよ。

 やっぱり分かるんだね、私の事」


 「ええ、勿論です。

 にしても、こんな所にわざわざ自分を呼び出すという事は何かの決心が付いたところですか?」  


 振り返った先には一人の男が居る。

 黒いローブを纏い首に掛けた赤い石の首飾り。

 何処か見慣れた茶髪の癖毛、私の知る彼の面影はそこには残っており、今尚変わらない何かを感じた。


 その過程があまりに酷いものであったとしても。


 「私は……あなたを止めなきゃいけない。

 シラフをあなたに殺される訳にはいかないからね。

 でもね、私はあなたも失いたくはない。

 例え、お互いに生きた時間が違うとしてもあなたが私の家族であった事に変わりは無いから……」


 「優し過ぎますね、本当に………」


 「私はただ……」


 「でも、その割には戦う気しかありませんよね?」


 そう言って男は右腕を天にかざした。


 「シラフ………」


 「神器、解放………」


 声に呼応し、かざした右腕が煌めいた。

 そこに存在する赤みを帯びた例の腕輪から凄まじい量の炎が溢れ出てきたのでえる。

 その莫大な熱量故に辺りの大地が融解していく。

 熱量に押され、目を開けるのも困難な程に。


 「こちらの進む道を阻むのなら……。

 あなたは俺達の敵です」


 溢れる炎が男を包み込む。

 全てを焦がすであろう灼熱が男を包み込んんだのだ。

 

 「そうだとしても……私は……」

 

 腰に帯びた剣に手を掛けるか、私は僅かに悩んだ。

 しかし、悩む間もなくして男を包んでいた炎の塊が弾け飛ぶと、燃え盛る異型の羽を生やした存在が現れた。

 離れた私にまで届く程、その凄まじい熱量を放ちつつも、男の身体は燃えていない模様である。

 茶髪の髪は炎のように染まり燃え盛り、炎の衣を纏いながらその右手に握られた剣の切っ先を私へと向けた。


 「やっぱり、力を使えるようになったんだね?

 シラフ、その力どんな物か分かっているの?」


 「勿論、覚悟の上です」


 「そう……だったら私も容赦はしないよ」


 剣を構え、呼吸を整える。

 私の僅かな意識の乱れを隙と認識したのか、彼はすぐに踏み込んできた。

 当然、その程度なら防ぐのも難しくはない。


 間もなくして、激しい攻防戦が幕を開けた。

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