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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第二節 約束の騎士

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第八十五話 勝利は目前に

帝歴403年10月1日


 戦いは激しさを増していく。

 両者の繰り広げる高速の剣の嵐。

 数多に繰り出す絶技により、会場の熱気は更に高まり盛り上がりは激しくなっていくのを肌で感じる。


 しかし、私達の間には彼等の歓声は届かない。

 目の前の存在を超える為に、己の放てる最高の一打一撃を繰り出しているのだから。


 片方は黒き異型の悪魔と化した私自身。

 対するは、悪魔の一撃を余裕の表情で受け止め恍惚とした表情と共に凄まじく鬼気迫った表情で斬りかかる異国の剣士、ルークス。


 そして、この戦いは次の段階へと進んでいく。

 瞬時に察知したのか、ルークスの表情は僅かに険しくなりすぐさま距離を取り、剣を構え直した。


 「っ……ラノワ。

 貴様、まだ何かを隠しているようだな」


 「分かりましたか……」


 「こうして激しい戦いの最中に余計な考え事しているとはどういうつもりだ、貴様?

 楽しく、お前の中にいる悪魔とやらとお話でもしていたのか?」  


 「まぁ、見ればわかりますよ。

 これから私のする事を見ればね」


 僅かに息を吐き剣の切っ先を彼へと向ける。

 その瞬間、こちらの放った魔力の威圧に彼の態勢が崩れる。

 己の体調の変化に驚くも彼は態勢をすぐに直し、気を引き締め武器を構え直した。

 改めてこちらを敵と定め、改めてこちらの姿を見据えた時には先程までの私はない。


 剣を握っていたはずの私の腕は、自身の血管が光を放ちながら浮き出ていた。

 その光は赤く染まり、まるで生き血が溶岩のように煮えたぎったソレであった。

 腕から始まった、その赤き光は次第に私の全身を至っていき全身を針でズタズタに引き裂かれたような激しい苦痛が襲い掛かってきた。


 「あ゙あ゙あ゙………」


 「ラノワ、貴様っ………!

 一体何を、何の真似をしている?!」


 苦痛に身体が馴染んでいき、私の様子に驚きを隠せない彼に対して、私は答える。

 

 「はぁはぁはぁ……。

 私は今、全身に流れる魔力を血管に集中させたんですよ。

 本来、筋組織や骨等のある程度強度の担保された部位に対して身体強化を施すモノ。

 ソレを今、私は悪魔の力を借りて血管へと変更した。

 こんな馬鹿げた魔力の扱い方、これほど激しい魔力の扱いを要する今の形態で使用すればどうなるんでしょうね……」


 すると、私の背からは魔力で後世された黒い羽が生えてくる。

 まるでコウモリのようなソレはまさに悪魔の姿を更に彷彿とさせて………


 その瞬間、私は一歩を踏み込み彼へと斬りかかる。

 初期動作を終え、踏み込み切るその寸前で彼は反応して見せ、私の一撃を歯を食いしばるながらも受け止めたのだ


 「なっ………」


 「ここですよ、ルークス」


 あの一撃から間もなく、彼の目前から姿を消し様々な角度から高速の連撃を私は繰り出しあ。

 攻撃の刹那に、一瞬ながら視線や気配の類いが交錯。

 目の前の剣士は反応、辛うじて攻撃を凌いで見せたのだった。

 しかし、こちらの一撃は先程までの比ではない。

 あまりの威力からか彼の攻撃を受けた剣は、徐々に歪み、亀裂が入り込むと共に間もなくして粉々に破壊されてしまう。


 「クソっ!!」


 こちらの攻撃に、ルークスは地面に叩きつけられるように吹き飛ばされる。

 両親の衝撃で会場が大きく震え、今にも倒壊しそうな勢いに観客達からは恐怖に満ちた悲鳴が漏れ始める。


 倒れ伏す彼の姿を上空から悠然と見下す私。

 まさに悪魔、魔王と呼ばれるに相応しいだろうか。

  

 舞い上がる砂埃の中から未だに諦めず闘志を燃やし立ち上がる彼の姿を私は視界に捉えた。


 「まだ起きるか、ルークス」


 すると、巻き起こる砂埃から天に向かって光が伸びる。それは六つに分かれ光の筋となって消えた。


 「今のは流石に効いたよ、ラノワ。

 まさか、まだ私に力を使わせるとはな……」


 「こちらは最初から割と全力だというのに、人間の身でまだ動けるあなたの方が余程私には化け物に見えますよ。

 ルークス、これだけ受けても尚立ち上がれるとはあなたは本当に人間ですか?」


 「さあな。

 だが、まだ戦いを終わらせるには惜しい」


 視界が晴れていき、彼は右手に剣を掲げる。

 そして彼のを囲むように六本の剣が彼の周りを公転し、その外側にも十本の剣が公転していた。

 

 計十六本の光を放ち、彼の回りを公転し続ける剣達に私は警戒心を抱く。

 先程まで彼が扱っていた剣とは別格の存在。


 故に、油断はならない。

 

 この男、卓越した技術以上の何かをまだ隠している。

 

 「ラノワ、貴殿の実力は実に見事だ……。

 その力に免じて俺もお前に全力で応えるとするよ」


 「ここからが本番………。

 というのは、あながち冗談では無さそうですね」


 突如として、凄まじい衝撃が会場全体に響き渡る。

 先程までとは比べ物にならない。

 圧倒的な速さと威力でお互いの剣がぶつかり合う。


 「速い……」


 「さあ全力で来い、ラノワ・ブルーム!」


 激しい攻防戦の末に、こちらが間合いを取り態勢を整える。

 彼の振るう剣以上に、その周りの剣達への対処に身体が追いつかない。

 身体を強化こそしているが、あんな魔力の爆弾に等しいソレ等の攻撃はそう何度も受け入れられない。

 

 しかし、こちらが間合いを取るとルークスは右手の剣を天にかざし始めた。 

 すると、彼の周りで公転していた剣達が白い光を放ち、輝きを増していく。


 そして更には彼の頭上に新たな剣が現れていき。

 その数はゆうに百を超えて公転していた剣達と同じく激しい光を放ち始めたのだ。


 「なっ………?!!」


 シトラの扱う魔術と同規模か、それ以上の大魔術。

 コレが神器、神如き力を行使する絶大な力なのか?


 そして、彼の周りで公転していた剣達は突然静止。

 公転を辞めた剣達の切っ先は、その全てが私へと向けられた。


 「さあ、コレには耐えられるかな!!

 魔王様よぉ!!」


 「厄介な事を………」


 思わず苦笑いをしてしまう。

 こんな剣の数、正面からまともに斬り伏せたところでどうにかなる問題ではない。


 だが、超えなければ勝ち筋は見えない。


 面白い、面白くなってきた。


 苦境に立たされながらも、私はいつしかこの戦いを楽しんでいた。

 目の前の男に勝ちたい、その一心が私を動かす。


 とうに限界は超えている。


 出来る事が知れてるなら、私のやるべきことは………。


 「その剣。

 全て斬り伏せよう、ルークス!!」


 こちらに向けられた剣に構わず、私は彼に向かって捨て身同然に攻撃を仕掛ける。


 「面白い!!」


 ルークスは剣を振りかざし、数百はあろう剣達を私に向けて放ち始めた。

 数の暴力に任せたせいで幸いにも一撃一撃の威力はかなり落ちている。

 しかし、やはり数が面倒。

  

 捨て身覚悟で突撃するもすぐに引き返す。

 こちらへ迫る剣達の軌道を読みながら確実に一つ一つを対処していく。

 

 凄まじい速さで襲いかかる百以上にも渡る剣達。

 私は握り締める一振り漆黒の剣に打ち払っていくが数もさながら重い一撃に僅かながら追い詰められる。

 1本、また1本剣は凄まじい速度で放たれるも、私は正確にそれ等を斬り伏せた。

 全てを打ち払い安堵の息もなく、最後に打ち払った剣のすぐ後ろをもう1本の剣がこちらの死角から現れた。


 あの攻撃、全てが囮だったのだ


 反射的に、向かって来るその刃を打ち払いに剣を振るうが、間に合わない。

 間もなくして凄まじい爆発と衝撃に、私の身体は巻き込まれてしまったのだった。



 巻き上がる砂埃で視界が覆われる中、カタナを握る手に汗が滲む。

 依然として倒れる気配のない悪魔の存在に、俺は僅かな焦りと恐怖を感じ始めていたのだ。


 あれだけの攻撃を受けても耐え続ける

 無傷では無い……、当然限界も近いはずである。


 武器を構え直し、呼吸を整える。

 爆発の煙が切れた刹那、黒い影が砂煙から俺に向かって放たれた。

 こちらも刃で応襲する。

 当然、放たれた影の正体は黒き悪魔、ラノワである。

 その左手には深い傷を負っていた、恐らくこの戦いではもう使い物にはならない。


 「まだ動くか、諦めの悪い奴だよ……」


 「それはお互いだろう、ルークス?

 私もこの戦いで私は負ける訳には行かないのでね!」


 悪魔から放たれる、高速の剣技に私は僅かながらに押されていく。

 向こうは片腕、手負いのはずだ。

 なのに、鬼気迫る勢いは衰えるどころか激しさを増していくばかりである。

 速さもさながら一撃の威力も重い。

 正直、手負いとは思えない程に………。


 「くそっ!!」


 悪魔の攻撃の手は更に増していく。

 一撃が加わるたびに更にその速度が僅かに増していくのだ。


 これ以上は、流石に身が保たない。


 認めよう、お前は強い。

 だが、俺に勝てるかは別の話だ。

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