第八十一話 ヤマトの八席
「ルークス様……」
「ルークス様?」
シグレの反応に疑問を感じた。
王女と名乗るだけ身分の高いはずの彼女が目の前の彼に対し目上よ敬意を払っているという事に……。
「シグレ、いい加減に俺に様を付けるのは止せと言っているだろう。
失敬、こちらの挨拶がまだだったな。
俺はルークス・ヤマト。
ヤマト王国の第五王子で、君と同じく闘舞祭の決勝進出者の一人だ。
そこの二人と同じ八席と呼ばれる存在だよ」
「八席?」
「あー、そうか知らないのか?
今年入ったばかりなんだっけ?
俺を含めてお前の周りにいるのは現八席なんだよ。
シグレが確か現在学位序列4位、そしてカイルが序列6位くらいだったよな?」
「そうか、八席って……あの…学院最強の……!」
「何をそこまで驚く?
君も少し前に彼等の一人を倒して見せただろう?
あのものぐさ魔女にはいいお灸になっただろうな。
改めて学位序列3位、ルークス・ヤマトだ。
これからよろしく、シラフ・ラーニル。
俺も八席の一人として君の活躍を期待しているよ」
「ああ、はい……。
こちらこそよろしくお願いします……」
あまりの衝撃に口調が縮こまった。
先程まで話していたあの二人が八席、そして新たに現れたルークスと名乗った男に至っては学位序列3位と言ったのだ。
そして現在、俺の周りには学院最強の八人の内三人が目の前にいる。
いやそれだけじゃない……この会場には既に学院最強と呼ばれる八席の全員が来ているはずなのだ……。
「今更、驚く事でしょうか?
ここにいる者は全員学院でも有数の腕を持つ者達ですよ。
そして、闘武祭の決勝への切符を手に入れた16名全員がこの場にいるんですから。
あなたもその一人なんですし、もっと自分に自信を持ちなさい。
情けない様を見せない方が良いですよ」
「あはは、そうだな………」
シグレの言葉に俺は唖然とし乾いた笑いがこぼれる。
まぁ、確かにその通り。
この場にいる16名が学院最強を決める闘いの参加者なんだからな……。
この場にいる全員が強い事は当たり前なのだ……。
いや、そうじゃなきゃおかしい。
「そうだな……うん。
ちゃんと分かってはいたが、改めて言われてみれば確かにそうなんだよな………。
あまり、実感が無かったよ。
参加は編入で今年入って初参加だからな……」
「まぁ、それは確かに言える事だな。
そこまで緊張させていたとは悪いね、シラフ君。
それで、確か君は神器使いなのだろう?
十剣の一人であるのだから、恐らくは君もそうなのだろうと聞いているが」
「ええ一応は……。
俺の持つ神器はこの腕輪ですよ」
そして、俺は右手にはめている赤みを帯びたそれを三人に見せる。
まぁ、実際その力を扱えるかは別の話になるが。
「なるほど、それが君の神器か……。
いやね、実は俺も君と同じ神器使いなんだよ」
ルークスがそう言うと、左腕にはめている腕輪を見せつけた。
銀色の特殊な光沢を放つソレを見て、俺の持つソレと同じような神器だと認識する。
「神器使いが……俺以外にも……」
「そう珍しいのは分かるが……。
十剣である君達だけが神器使いでは無いよ。
他国にも似たような組織や存在が居るのだからね」
「あなたの神器の能力は?」
「戦いの時に分かるさ。
それに、俺が神器を振るう時はそれ相応の実力が無ければ使わない。
君が、俺が力扱うに足るのか、楽しみにしているよ」
「こちらこそ、その時は是非」
「君の事は以前から知り合いの伝で聞いている。
サリアには、俺と少し下くらいの腕の立つ小さな騎士が居るとね。
レティア・ラグド・サリア、そちらの国の第一王女が以前そう君の事を紹介してくれたよ」
「レティア様とお知り合いで?」
「ああ、まぁな………。
色々あってな、彼女はよくやっているよ。
口を開けば、妹達の自慢話ばかりだが………。
その中で、君の事を聞いて興味を持ったんだ。
一体、どれ程の実力者なのかとね」
「…………」
「あのシトラに、まぐれとはいえ勝ったんだ。
相性最悪のあの状況でよく勝てたと言ったところだが、勝ちは勝ちだ。
お前の勝利に変わりはない。
ただ、この先の戦いではそんなまぐれは無い。
信じられるモノは、己の実力のみ。
特に、剣の類いで下手な誤魔化は効かないだろうな。
俺や、シグレを含めて剣の実力のみで八席の座に居る者も少なからず存在するんだ。
君の実力が、そこにたどり着けるのか。
あるいは、直接交えることで分かるのか………」
「確かに……。
あんなまぐれが次も起こるとは思えませんね」
「楽しみにしているよ。
シラフ・ラーニル、お前と俺が剣を交えられるその時をな」




