第八十話 前夜祭
帝歴403年9月29日
この日、学院国家ラークの首都ラークにて、闘武祭決勝進出者に向けて、決勝トーナメントの前夜祭が開かれる事になった。
会場に集められたのは、決勝進出者16名と各四支部に存在する生徒会代表等が集められた模様。
その他にも来賓として、学院の高官と思われる人物達は愚か、諸外国からの要人が何人も集められている。
ここに招かれた者は、ドレスコードが徹底されある程度の身だしなみが求められており祖国での堅苦しい社交場をふと思い出してしまう。
「はぁ。
こういう社交場をわざわざ開くっていうのは、何処の国も同じって訳か……」
「ほんと、よくやるよね………。
子供の同士の祭典に、大人が上から無粋な堅苦しい枠に当て嵌める真似をするなんてね」
「で、何で姉さんまで来ているんだよ?
それにリンまで……」
「何よ、私が来て悪い?」
「だって、今日のコレって招待された関係者以外立ち入り禁止だろ?」
「それは大丈夫、大丈夫。
私はこの前夜祭に来賓として呼ばれたの、
ほら、これが証拠?」
そう言うと、姉さんは俺に招待状の通知が来た端末の画面を見せ付けた。
「なるほど、来賓として呼ばれたんですね……」
「まあ、そうこと。
あと、ほらあそこに例の二人とラノワがいるよ?
ラノワさん!、ラウ!、シンちゃん!!」
姉さんが手を振り声を出した方向には、会話を交わしている三人の姿があった。
一人は青髪の青年。
その腰にはかなりの業物の剣を下げており、熟練の剣士としての気迫と誠実さどころか、遠巻きの女性達を魅了していたりと、色男様々だろう。
彼こそ、学院最強と言われる八席の一人。
ラノワ・ブルームその人である。
そして彼と何かを話している黒髪の男は、現在俺の敵対関係にある、ラウ・レクサス。
そして奴の後ろには、彼に仕えている従者であるシンの姿も当然のようにある訳で………。
「奴も、上位4人に入っていたのか……」
「まあね……実力は私が保障するよ。
腕はいいみたいだからね」
「えっと、姉さん……?
奴とどんな関係なんだよ。」
「えっと……あー、言ってなかったかな?
一応私、彼とは付き合ってるんだよ?
ほら、シラフがシトラと戦ったあの日にね」
「あはは、そうですか……。
それで……?
奴と少しは手合わせとかしたんですか、姉さんは?」
「うーん、少し軽くやりあったけど……。
素質も勿論あるし、実力もある事は確かだね。
今のシラフで、勝てるかどうか……」
「…………」
そんな話をしていると、あの三人の方からこちらに近づいて来きた。
「あの日以来ですね。
この会場に招待されたんですね、シファさんは」
「ええ、招待状を貰ったからね。
ラノワも無事に予選を通れたの?」
「はい、あの日の試合を糧にして。
以降は今まで以上の鍛錬に取り組み、実力と経験を重ね己を高めた結果ですよ」
「為になってくれて何よりかな。
じゃあ今度また、手合わせとかどう?」
「あー、いや流石にそれは、遠慮させて頂きます。
私の中のアイツはあなたに剣を向ける訳にはいかないとか、怯えながら常々申していますので………」
「それは、残念……。
ちょっと脅し過ぎたかな……」
二人がそんな会話を交わしている頃……。
珍しくラウの方から俺に会話を投げかけてきた。
「まさかお前も参加していたとはな……。
予選まで通って何かの嫌がらせのつもりか?」
「お前の事は関係無い。
我々には我々の目的がある、この大会に参加したのには目的がある。」
「目的だと?」
「己の実力を試したいのもあるが……
この大会の優勝賞品、学院に対して色々と要求出来る権利が得られる事に多少の興味があってな。
まあ可能な事には限度もあるだろうが……」
「要求か……それでお前は何を要求するつもりだ?」
「その時になれば分かる。」
「そうかい……俺は先に失礼するよ。
正直お前達とは長居したく無いからな……」
俺はそう言い放って、二人から離れた。
しかし、離れたとはいえ話し相手に宛がない訳で。
気づけば、俺はただ一人で立ち尽くしていた。
さて……離れたのはいいがどうするか……。
と、俺が辺りをキョロキョロと見渡していると……。
「貴方がシラフ・ラーニルさんですね?」
声を掛けられ振り向くと、そこには異国の衣服に身を包んだ長い黒髪の女性が目に入った。
服装からして、東の方の国だろうか?
「たしかに自分がそうですが、あなたは?」
「申し遅れました。
ヤマト国第三王女のシグレ・ヤマトと申します。
あなたの実力は、端末を通した中継で色々と見させて頂きました、
流石、かの十剣と呼ばれるだけの実力です。
いずれ相手が出来ることを楽しみにしております」
「お褒め預かり光栄です……。
しかし、その口振り………。
まさか、王女であるあなたも闘武祭に出場を?」
「ええ、勿論です。
我が精神と肉体を磨く三道の一つとしてカタナを握り僅か八年程ですがね。
あ、カタナというのはそちらの扱う剣のヤマトでの名称です」
「八年……、いやかなり凄いと思いますよ。
自分もこの剣を握ってから今年で八年ですから。」
「そうでしたか………。
では、同じ年数近く鍛錬を積んだ仲間なのですね
いずれかの祭典で当たる時、正々堂々とお互い全力を尽くしてましょう」
「勿論です。
こちらこそ、その時は……」
シグレ王女とそんな話していると、俺はまた声を掛けられる。
それは室内にも限らず、帽子を被った男でありなんというか不思議な雰囲気を感じさせた。
「シグレ王女が、身内以外の御方と話しているのは珍しいですね?
こちらの彼は一体?」
「あなたは……カイル。
何故あなたが……」
「それは僕も勝ち進んだからですよ。
それで、こちらの彼は?」
「シラフ・ラーニルです。
以後お見知り置きを……」
「なるほど……あなたが……。
確かに只者では無いですね……。
魔力の質も他とは違うみたいですし」
「あの、カイルさん。
何故室内でも帽子を被って?」
「ああ、すみません。
これは僕の昔からの癖でして。
幼い時からこうして過ごしてものでね」
そう言うと、被っていた帽子を取りその理由が明らかになる。
彼の頭の上には獣のような耳が生えており、よく見れば目の感じも獣らしい様がそこにはあったのだ。
「僕の先祖は獣人が居るみたいでしてね。
人間と交わった事があるようで中途半端に獣の因子を受け継いでいるんですよ。
今は廃れてはきましたが、一部地域では昔と変わらず差別の対象になっていました。
が、それはもう昔の話……。
今ではあなた方と変わらず暮らしているんですよ。
しかしですね、幼少の頃はよくいじめられたものですよ。
そういう時に、今は亡き父が人に馴染めず困っていた僕にくれたこの帽子を被る癖だけが今もこうして残っている訳です」
「そうでしたか……。
それは、悪い事を……」
「いえいえ、気にしていませんよ。
それに、さんはいりません。
気軽に僕のことはカイルとお呼び下さい」
「そうでしたら、カイル。
これから、よろしくお願いします」
「勿論です、こちらこそよろしくお願いします。
シラフさん」
そして俺は目の前の彼と堅い握手を交わした。
すると、横から新たな来客が訪れる。
「ほう、珍しい組み合わせだな?
俺も混ぜて貰って構わないか」
会話に割り込んで来たのは、黒髪の男。
シグレと似たような感じの異国の衣装を纏っており、恐らく同郷の人物なのだろうが……。
この人は………一体?




