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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第一章 理想の生き方
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第八話 最善の選択


 今から約20年前のこと。

 400年近くに渡って世界の全てを支配していた大国が滅んだ。

 その名は、オラシオン帝国。

 世界最強の軍事国家と呼ばれた程で、絶対的な力の下で世界を治めていた。


 しかし、帝歴383年8月10日午後0時34分。

 長らく世界の中心とも呼ばれた帝国の首都である帝都オラシオンは、内戦の最中に突如として謎の水晶等に包まれた廃都と化してしまったのである。

 

 災害に巻き込まれた帝都に住む帝国及び各国の要人、及び当時の皇帝が行方不明となり後に死亡したとして処理されてしまう。

 

 原因不明の災害により大国が崩壊してしまった影響は凄まじく、帝国の統治下にあったそれぞれの国達に大きな打撃を与えた。

 世界の経済に大きな影響を与えた今回の事態は、多くの国で失業者を引き起こし溢れる事態に陥ってしまう。

 その規模があまりにも大きく、世界中で失業者の手当が追いつかない状況が続いてる

 その禍根は20年が過ぎた今も残っている程に。

 ソレは次第に国の治安にも大きな影響を及ぼしていく。

 世界のあちこちで帝国から何を逃れた難民や失業者による盗みや詐欺、強盗殺人等の犯罪の横行や多発が世界的な社会問題と化し、帝国崩壊から20年が過ぎようとも今に至るまで大きな社会問題と化していた。



 帝歴403年 7月12日 


 身を隠しながら、俺は廊下の角に留まり辺りを警戒している。

 船の構造を完全に把握している訳では無いので俺は慎重に動かざるをえなかった。


 「……。」


 息を潜め、誰も来ない事を確認すると素早く動きだし再び身を隠す。

 最も近い観賞植物の方へと向かい、そして自分の身を隠す。

 植物の葉が肌に触れると少し痒いと感じる。

 こんな物に隠れて意味があるのかと自分でも疑問を抱くが無いよりはましだろう……と。

 そう思いながら、俺は警戒を緩めず慎重に行動し続けた。


 一人で行動する。

 いつもは姉さん達がいた事によってあまり無かった事だ。

 突然の出来事に加え、乗客達の命が俺に掛かっているとも言えるのである。

 それが重圧以外の何であろうか……。



 この時の状況を思い返せば最悪に等しかった。

 ここ近年多発する賊達への対応として国は一定以上の大きさを持つ船には必ず乗客等の護衛の為に国から傭兵を雇っていた。

 しかし今回、その傭兵達の全てが海賊であったのだ。

 本来なら絶対にあり得ないこの状況を仕向けたのは、サリアの一部上流階級の人間であった。


 彼等が賊に命じたのは、自分及びシファ・ラーニルの殺害である。

 その為に武器の調達や資金の援助。

 更には乗組員等の買収を秘密裏に行っていた。


 しかし、順調に進むと思われた彼等の計画は徐々に想定と全く違う方向へと向かおうとしていた……。


 自分が協力者を探しているその頃。

 三階通路にてラウが自分の倒した海賊の手下をこの時には見つけていたのであった。



 「なるほど、私以外に誰か居たようだな

 すると残りは8人」 


 私が賊が気絶している事を確認すると、

 そのまま下を目指し進んで行き、階段を降りて行く。

 階段を降りながら思考を巡らした。


 「残りは、あの女の弟か……?」


 私はシンの現在地を確認する。


 彼女から送られた最新の位置情報は、船のエントラスの座標を指している。

 そこに彼女がいる事で間違い無いだろう。

 そこから動けずにいる理由として、乗客が人質が多く敵の数に対して不利になっている可能性が高いと推測出来る。


 「なるほど、確かに面倒事だな……。

 まあいい……、この程度の面倒事だろうが早めに片づけるとしよう」


 私がそう呟いている内に、二階へと到着する。

 奥の角へ進む人影を視界に捉えた。


 「やはり、弟の方だったか」


 私の推測が確信へ至り、例の弟の元へと近付く事にした。



 「おい、お前」


 俺は突然後ろから声を掛けられて驚き、

 思わずバランスを崩し尻餅を付いた。

 振り向いて見れば、そこにいつもの無愛想な表情で立っているラウがいた。


 「何をふざけている?」


 ラウの態度に少しいらつきながらも答える。


 「ふざけてはいない

 少し驚いただけだ……」


 俺はそのままゆっくりと立ち上がると目の前の奴に向けて話し掛ける。


 「お前は、あの放送の指示に従わなかったようだな」


 「それは、お前もなんだろう?

 一応聞くが敵の戦力は掴んでいるのか?

 俺の予想だと手下の動きからして数はそんなに多くは無いと思う。

 敵は多くて20人居るかどうかだ。

 ただ敵は旧式の帝国製の銃を持ってる事から、後ろに何らかの組織が援助している可能性が高いだろうな」


 「なるほど、あれはやはりお前か」


 「上でのびてる奴の事か?」


 「そうだ」


 相変わらず、ラウの口数は少ない。

 そんな事を思っていると


 「敵の数は総勢十五人。

 エントラスに現在その内の十人が人質の監視をしている。

 敵の長と思われる奴もそこにいるだろう。

 機械室に二人、そして通路の巡回に三人だ。」


 ラウの淡々とした説明に俺は驚く。何故把握しているのか疑問を抱くが。


 「驚いた。

 お前は既に戦力を把握していたのか?」


 「まあ、そうだ。

 機械室の二人と巡回二人は私が片づけた。

 そして、もう一人の巡回もお前が片づけたからあとはエントラスに向かうだけだろう」 


 「了解した、つまり動いてる奴らは全員片付いたって事だろ。

 それで、これからどうやって人質を助けるつもりなんだよ?

 何か策でもあるのかよ?」


 「お前はこれ以上何もするな、かえって邪魔だ」


 そう言い放つと、俺を置いて通り過ぎて行く。

 奴の言葉に俺は唖然とする。

 おかしい、二人で動いた方が明らかに成功率が高いはずだ。

 多少アイツが気に食わないにしても、個人的感情はこの際無視してでも人質を助ける為に協力する事が普通だと感じる……。

 

 「待てよ」


 俺は奴の肩を掴み、俺は彼に話掛けた。


 「どうして協力しない?

 一人でも多くの人を助ける為にも、その方が最善のはずだ」 


 「…………。」


 「何故、この状況で協力しようとしない。

 俺を頼るのが、誰かを頼るのがそんなに嫌か?」


 「それが最善の選択だと、私は判断した」


 「何……?」 


 「いいからさっさと離せ。

 人質を死なせたくなければな……」


 俺は渋々手を離す。

 人質を死なせれば元も子も無いからだ。

 ラウの言葉はつくづく勘に障るが今は耐えるしか無い。


 「付いて来るなら好きにしろ」


 ラウが歩き始めると、俺はその後を追った。

 今はとにかく前に進まなければいけない……。

 確かエントラスと二階は吹き抜けの階段でつながっている。

 今いる廊下を抜ければ、エントラスから自分達の姿が見えるだろう。 


 少しでも早く、事態の解決を急がなければ……。


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