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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第一節 無くしても残る物
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第七十九話 支えるモノ

帝歴403年9月16日

 

 「シファさん、少し……話があります……」


 私は彼女と待ち合わせの為公園に訪れていた。

 病室から出て、すぐに連絡を取りそしてそのまま急いで公園に来ていのである。


 「クレシアさん?

 どうかしたのそんなに息を切らして……」


 「大事な話があるんです……。

 シラフの……ハイド・カルフの事についてです」


 「…………。」


 それから私はシファさんから彼の事情を聞いた。

 彼は神器の適正が高過ぎるが故、その力で両親や従者達を殺めた事。

 両親を失った傷の影響で心を閉ざしてしまった事。

 そして、彼を救う為に記憶封じた事を……。


 「これが……私の知る全てだよ……」 


 「そうですか……」


 「あまり、驚かないんだね」


 「はい。

 多分そうじゃないかと薄々気付いていましたから。

 何かしら、事情があるんじゃないかって………」


 「そっか……。

 でも、まさか本人にこんなに早くに気付かれていたとは私も少し驚いたよ……。

 いずれはバレるだろうなぁとは思ったけどさ。

 今年一杯くらいは、これでも隠し通せるって踏んでたくらいなのに……」


 「私がソレに気付いたのは先日の私の誕生日の贈り物がきっかけなんです。

 彼のくれた物があの子と同じ赤い色の装飾品だったので、もしかしらって思って」


 私はその贈り物をシファさんに見せる。

 すると、何かに納得したのか僅かなため息を吐いた。


 「なるほど……。

 あー、それは私の過失だったね。

 あの子の趣味思考は全て読めてる訳じゃないからさ。

 なるほど、勘が鋭いというか流石恋の力っていうところ?」


 「いや、そのそういうんじゃなくて………。

 あの……それと、もう一つ聞きたい事があるんです。」


 「もう一つ?」


 「はい……。

 その、神器って契約者となると何か変化とかあるんですか?」


 「変化……?」


 「はい……。

 シラフと過ごしていて少し違和感があったんです。

 何か他の人と比較して、少し違和感があって……。

 シルビアさんも、何か彼とは違うけどなんていうか」


 「あー。

 まあ……あるにはあるよ……。

 神器と契約すると契約者から、その代償として何か一つを神器から奪われるからね」


 「奪われる?」


 「うん……。

 例えばシルちゃんは左目の視覚とかだね」


 「視覚って……。

 今のシルビアさんって、片目が見えなくなっているんですか?」 


 「うん、本人は隠しているようだけどね。

 でもさ、シラフが何を奪われたのかは私も細かいところは知らないんだよ」


 「あの……。

 それじゃあ、シラフは昔からあんな感じだったんですか?」


 「うん……?

 でも今程、凄く強いって訳では無かったかな。

 基本的には屋敷の中で本を読んでいたりしていたから。

 運動も今程得意って訳でもなくて、むしろそこまで身体は丈夫って訳でもない。

 今のシラフのあの強さは、本人の努力の賜物。

 いつと無理ばかり、心配ばかりでヒヤヒヤしてるんだけどね。

 あとは、よくルーシャと遊んでいたりとかしてたかな?

 そこは、クレシアさんも知ってるでしょう?」


 「あの……それじゃあ泣いたりとか無かったんですか?

 家族を失った事には変わらないのに……、それが子供ならなおさら寂しくて泣く事があったと思ったんです」


 「ああ……そういう事は無かったかな」


 「無かったんですか、一度も?」


 「うん……そう言う素振りは一切見せなかったかな。

 シラフは何気に小さい頃からプライド高くて気丈に振る舞ってたからさ」


 「あの……本当にそうだったんですか?」


 「クレシアからは、どう見えていたの?」


 「なんというか……寂しそうにしている印象です。

 基本的に自分か誰かと話すって人ではないんです。

 いつも、私からかルーシャから話しを振らないと話してくれないので……。

 だからその、本当は少し違うんじゃないのかなって」


 「なるほど……でもまさかね」


 「何か心辺りがあるんですか?」


 「まだ、推測だけどね……。

 かなり稀な例なんだけど……。

 契約者の中には感情を奪われる事があるらしいんだ。

 だから多分シラフは……契約の代償として感情の一つ、悲しみを奪われたんだと思う」


 「悲しみ……。

 まさか、シラフが異常をきたす理由って……」

 

 

 「っ……」


 「あなたは神器との契約の代償で悲しみを奪われてしまったの。

 だから多分、それがこれまでの異常の原因だって私は確信したんだ」


 「感情が奪われているか……」


 「シファさんから聞いたよ……。

 本当は、十剣になる以前どころかずっと幼い子供の頃から神器と契約をしている事を聞かされた」


 「そうか……」


 「過去に深い悲しみを伴う出来事があった。

 でもその悲しみの感情が欠落している為に精神と肉体に大きな負担が掛かっているって。

 それが、シラフの体調が悪くなる理由かもしれないだろうって……」


 「それに気付いたのはクレシアが初めてだ。

 姉さんは愚か、リンやルーシャ達にも気付いてないし、伝えていないはずだがな」


 「ううん、流石に分かるよ……。

 学院で毎日のように近くで過ごしていれば妙な違和感くらい分かる。

 ルーシャだってきっと気付いてたんだと思う。

 でも、貴方を傷つけない為に敢えて言わなかったのかもしれない……。

 ルーシャ、あなたに変に気遣って、それが仇になって心にもない事言ってしまって喧嘩になってしまうのが嫌で気にしてたから………」


 「そうか……」


 「だから私は思ったの。

 小さい頃から貴方が悲しみが分からないのなら、相手のその感情をちゃんと理解出来ているはずが無いって」


 「理解出来ていないか……」


 「シラフは優しいからさ……。

 自分の周りに悟られ無いようずっと隠し続けていたんだよね」


 「まさか、隠していた事を知られているとはな………」


 「シラフ……」


 「何だ?」


 「私がシラフの奪われた感情を背負うよ」


 「クレシア……?」


 「一人で背負えないのなら、二人で背負えばいい。

 私は構わないよ……シラフの悲しみを受け止めるくらい構わない……。

 だってシラフは騎士だから。

 私の親友に仕える立派騎士で……。

 ルーシャを、親友を、王女を守る凄く強くて立派な格好いい騎士の一人なんだからさ」


 「強い騎士か………」


 「私を守ってくれるよねシラフ……。

 私を悲しませない為に……。

 自分が悲しまずに済む為に」


 「悲しませずに済む為に……。

 出来るのかな……俺なんかにさ……」


 「出来るよ……シラフなら絶対に出来る。

 私、シラフの事を信じてるから!」


 「そうか、そうだな……。

 君の期待に応えられるよう最善を尽くすよ。

 俺の悲しみをクレシアが背負ってくれるなら俺も君の為に、俺が仕えるルーシャの為にもっと頑張るよ。

 そしてクレシアを悲しませない為に、主である君の親友を悲しませない為に俺はもっと前に進んで見せる。

 君の覚悟に、誓って必ず成してみせるよ」


 帝歴403年9月18日 


 第348回闘武祭において、

 オキデンスからの代表選手を以下の者とする。


 三年五期生 シン・レクサス

 三年五期生 シラフ・ラーニル

 四年五期生 ラウ・クローリア

 五年一期生 ラノワ・ブルーム

 

 以上、4名をオキデンス代表選手と決定する。

 

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