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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第一節 無くしても残る物
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第七十八話 奪われたモノは

 真っ暗な空間に、俺は一人そこにいた。

 何処が上で下がよく分からず、宙に浮いているかのような妙な感覚。


 「ここは……一体何処だ?」


 「目が覚めたようだね?」


 声の方向を振り向くと、そこには何かがいる。

 人の形をとっているが相手の顔付きは全く分からない。

 男、女?

 どちらとも取れるような、そんな雰囲気を醸し出す。


 「お前は一体何者だ?」


 「僕は君だよ、シラフ」


 「何を言って……俺がシラフだ。

 お前が俺のはずは無い」


 「現にそうであるのだから、なんとも言えない」


 「それで、もう一人の俺が何の用なんだ?」


 「一度、君とは話しておきたいと思ってね」


 「話だと?」


 「君は自分の記憶が歪な事に気付いてる。

 既に薄々と勘づいているな、そうだろう?」


 「…………」


 「その思考は正しい。

 何故ならそれが真実なのだからね」


 「何が目的だよ……?

 お前の目的は一体何だ?」


 「目覚めは近い……。

 契約者が解放者となる日がね……」


 「契約者、何を言って……?」


 「君の記憶を改ざんした人物は、君を引き取ったシファ・ラーニルその人だよ。

 正確に言えば、もう一人居るはずだが……。

 今の君には、これで事足りる」


 「っ……姉さんがそんな事をするはずがない!!」


 「まあ、いいよ。

 そう信じる事は自由だ」


 「お前……俺ではないだろ……。

 何者だよ、あんたは?」


 俺がそう言うと、辺りの景色が明るくなる。

 そして、目の前の人影がはっきりと見え始めていく。

 真紅の髪、そして異彩を放つ美貌を持った美しい女性であふ……。

 そして、何故だろうか……それは初めて見る人のはずなのに何故か見覚えがある気がしてならない。

 

 「私はヘリオス……君は私の契約者………。

 つまり私は君の身に付けているあの腕輪だよ」


 「腕輪だと……?

 お前が、神器の意思やそういう類いの存在だと?」


 「どうだろうね?

 だが、こうしてこの姿で誰かと会話をするのはいつぶりだろうね。

 誰かと話すのは懐かしいよ、本当に……」


 「だが……神器が……。

 ただの道具が人の姿を取るなんて聞いた事がない!

 姉さんからは、他の十剣からそんな事があるなんて俺は聞いた事がないぞ?」


 「当然だろうね。

 こうして、私のような存在と語らえるのは歴代でもほんの一握りの存在だ。

 それに神器とは本来お前達人間を、まして他種族を元に造られた道具であるのだからな」


 「神器の元が人間だと?

 それに他種族を元にって……何の為にそんな事を?」


 「私がお前を呼んだ理由はそれにある」


 「どういう意味だよ?」


 「私達を創造した存在を滅ぼして欲しい。

 その者の名は、カオス。

 混沌を司る神であり、始祖の神器でもある」


 「カオス……?

 確か、ラウが追っている者と同じ存在なのか?」


 「現在のカオスの契約者の名は、ラウ・レクサス。

 その居場所は元オラシオン帝国の帝都オラシオン。

 水晶に包まれた宮殿の謁見の間にて眠っている」


 「……ラウ・レクサス……。

 でも、そいつは既に死んだはずだろう」


 「いや奴は今も尚生きているだろう。

 身体は朽ちようと、その残滓がかの国には残っている

 あの水晶はカオスが帝都の人間を魔力に変換させて出来た物だ。

 あれだけの魔力があれば、肉体の維持は可能。

 あの膨大な魔力を用いることによって、かの封印が施されているのだからな」


 「だったら帝都そのものを破壊すればいいだろう?」


 「いやそれは不可能だろうな……。

 あれを全て破壊するには、それこそカオスの力が必要になるのだから」


 「なら、俺に一体どうしろと?」


 「グリモワールを探せ。

 それがカオスに対抗出来る唯一の代物だ」


 「グリモワール?」


 「ああ、グリモワールだ。

 そしてソレは君の近くにある。

 いずれ時がくれば再び会う時が来るだろう。

 その時こそ、君達がこの世界の全てを君達に伝えるに相応しい時なのかもしれない」


 そう告げるとヘリオスと名乗った女の周りの光の輝きを増していき、徐々に見えなくなっていく。


 「待て!まだ聞きたい事が!!」


 声は届かない。

 俺の周りが光に包まれ、そして意識はそこで再び途切れた。

 


帝歴403年9月17日


 「っ…………。」  


 目を覚ますと、俺は再び病院にいるようであった。

 何回目だろうか……。

 こうして突然倒れてしまった事は……。

 サリアにいた頃、俺は小さい頃からよく気絶する事があった。

 そういう時は度々、姉さんやリンに助けられてきた。  

 そして学院に来てからは、確か今回で既に3回目だろう……。

 最初はシルビア様との実戦練習の日、その次は八席であるシトラさんとの戦いだ……。

 そして、今回だ……。


 俺が覚えている最後は……クレシアの誕生日祝い事の後帰り道へ向かう前に俺はクレシアに呼び出された。そして、屋敷の庭を歩いて……


 思い出そうとすると、突然何か……。

 悪寒に近い物を感じた。


 《思い出せそうにないか……しかし何故俺は……?


 俺は体を起こし、体の調子を確認する。

 体には異常は無い、しかし長い事寝ていたのか空腹感が凄まじい。


 まずは、何か食べ物を食べるか……。


 俺は辺りを見渡した。

 この病室はどうやら個室。

 俺以外の人間の姿はなかった。

 そして、すぐ横にあるテーブルには見舞い品として幾つかの果物が置いてある。

 俺はその中から一つを取り口にする。

 それを食べ終える頃には、部屋の扉が開きそこには姉さんとクレシアの姿がそこにあった。


 「シラフ……目が覚めていたの?」


 「姉さん……それに、クレシアも……。

 わざわざ見舞いに来てくれたのか?」


 「うん、今来た所。

 まだ寝ているかなと思ってたけど、目が覚めて本当に良かった」


 「ああ、ほんの今さっき意識が戻った所だよ」


 「そう、なら良かった。

 あと、病み上がりで悪いけど明日にまた試合があるみたいだけど、出場する?

 正直、病み上がりは控えた方が良いと思うけど?」


 姉さんは俺に、そう提案するも俺は首を振った。


 「いいや、出るよ。

 出場する準備を………」


 「まぁ、そうなるよね……。

 一応、この次に勝てればシラフは予選通過。

 決勝進出は決まるってところだし」


 「決勝……。

 つまり、俺はオキデンス上位4人の中に入れたってことなのか………」


 「でも、もう少し体は休めた方がいいんじゃないかな?」


 「問題無い……。

 今のところ体には何処にも異常は無いと思う。

 姉さん、この後時間は空いているか?」


 「うん……空いているけど?」


 「稽古の相手をして欲しい。

 体が少し鈍っているから調整したいんだ」


 「分かった。

 退院の手続きが終わったら行こう」


 「シファさん、でも……。」


 「こういう時はさ、多少無理してでも身体を動かしてあげた方がこの子の為になるの。

 それじゃあ退院の手続きしてくるからクレシアと大人しくそこで待っててね」


 「分かった」


 姉さんが去って行くと、俺とクレシアとで二人が残される。


 「シラフ……体調はもういいの?」


 「ああ、少し腹が減っている以外はなんとも無い」 


 「そっか……なら良かった」


 「そう言えば……今日はいつだ?」


 「えっと……。

 9月17日で三日くらい意識が無かったんだよ」


 「三日もか……。

 はぁ、それでクレシア?

 何で俺は倒れたんだ?

 確か、覚えている限り神器の力は使ってないし。

 大きな炎もあった訳でも無かったのに……。

 一体何があったんだ……」


 「それは……えっと、その……」


 「そうだ……。

 ルーシャやシルビア様はあの後無事に帰宅出来たんだよな?」


 「うん……ちゃんと帰れたよ。

 でもシラフが倒れたって聞いて私が来れない時とかに何度か見舞いに来てくれてたからさ。

 ルーシャなんか、血相変えて凄い心配してたんだ。

 シルビア様が、焦ってるルーシャをなだめてて、なんというか本当に大変だったんだから」


 「そうか……本当に心配させたな」


 「シラフ……私はね……。

 これ以上、貴方に無理をして戦って欲しくない」


 「………」


 「いくら十剣だからって……。

 騎士だからって、あなたが無理し過ぎて……。

 もし死んでしまったらルーシャやシルビアさん、シファさん、リンちゃんもすごく悲しむからさ……」


 「分かっているよ……そんな事はな」


 「いや、やっぱり分かっていないよ……。

 シラフは……」


 「いや、そんな事は…………」


 俺が否定の言葉を挟もうとすると、クレシアは頑なに首を振る。

 そして言葉を続けた。


 「前もさ、ルーシャに対して同じような事を言ったよね……。

 あの時は多分分かっていると、私だって思ってた。

 貴方はルーシャの言葉をちゃんと聞いてくれるし、ずっと信頼もされているから、私だってあの時の言葉は真実だって疑わなかった。

 でもね、それは違うって分かったんだ。

 シラフは……自分がどれだけ傷ついても構わない人なんだって気づいたから」


 「どういう意味だよ…………?」


 「だって、あなたには悲しみの感情が無い。

 貴方はその神器に悲しみの感情を代償を奪われてしまったんだから……」


 「っ!!」

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