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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第一節 無くしても残る物
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第七十六話 真実の行方を

帝歴403年9月14日


 「それじゃあ、クレシアの誕生日と昨日のシラフの勝利を祝って乾杯!!」


 ルーシャが高らかに宣言し勢いよくコップを掲げる。

 ソレに合わせて周りの友人達も彼女の声に合わせて乾杯の声が飛び交った。

 俺は現在、友人であるクレシアの屋敷にて彼女の誕生日と昨日の俺の試合の祝勝会が開かれていた。

 賑やかで楽しそうな彼女達の姿に俺も僅かながら心が踊っており彼女達からの勝利の祝福に対して嬉しくも思っていた。


 「クレシア。

 その……、ルーシャ達の一件から忘れてたの多分知られていたと思うけどさ……。

 一応、その………誕生日の贈り物だよ。

 気に入って貰えるかは分からないけどさ……」


 俺は目の前の彼女に対し先程店で購入した小さな包みを彼女に手渡した。

 ソレを目の前の彼女は、その華奢な指先で手に取りうれしそうな笑顔を向ける。


 とりあえず、喜んではくれているみたいだ。

 中身をどう思うかが、僅かに不安である。


 「うん、ありがとうシラフ。

 今、開けていい?」


 「どうぞ、気に入って貰えればいいけどさ……」


 包みを開けて出てきたのは、赤い真紅の花飾りが付いた髪留めだ。

 俺が彼女に似合うと思い、購入した物であるが……。

 気に入って貰えるだろうかと彼女の様子を伺う。


 「…………。」


 贈り物の中身にクレシアはきょとんとしており、何かに驚いている様子だった。


 「気に入らなかったのか?」


 反応に不安を覚えた俺は、思わず尋ねる。

 しかし、すぐに彼女は首を振り俺の不安を否定した。


 「ううん……そうじゃない。

 凄く嬉しいよ……、本当に!

 でもどうして?

 この赤い髪留めを選んだのかなって……。

 一緒にいたあの人がこれを選んだくれたの?」

 

 あの人とはシンを指しているのだろう。

 俺はソレを否定し、説明する。


 「いや、俺が選んだんだよ。

 シンさんも贈り物選びに付き添ってくれたんだけどさ……最終的に選んだのは俺だ。

 何となくだけどさ……?

 俺は君に赤色が一番似合うかなって……」


 「そう……なんだ……。

 ありがとう、この贈り物大切にするから……」


 「そうか、気に入って貰えて何よりだよ……」


 一通りの会話に区切りがつき、贈り物には満足してくれた事もあって俺は安堵の息を漏らし近くの椅子に腰掛ける。

 正直、微妙な顔をされて愛想笑いでも返されたらどうしようかと不安に思った。

 

 そしてそんな俺に対してルーシャは俺の方に駆け寄って話し掛けて来た。


 「それで、シラフ?

 今日一緒にいた人とはどういう関係なの?」

 

 今度はルーシャの方からシンに対しての説明が求められる。

 流石に、自身の主であるルーシャ相手には俺の口からちゃんと説明するべきだろう。

 

 「ああ、シルビア様には既に少しだけ話したんだけどさ……。

 あの人は俺が学院に向かう途中に出会った人でラウ・クローリアっていう人物の従者なんだよ。

 俺が彼女と一緒に行動していたのは、彼女の主と俺の姉さんが付き合っているという疑惑の捜査に半ば無理やり付き合わされたからなんだ。

 だから、別に俺は彼女に対して何かしらの他意がある訳でもない」


 「へぇ、それで?

 シファ様はその主さんと付き合っているってところは結局どうなったの?」


 「それが全く分からなかったんだ。

 結局のところ、今日の俺達は姉さん達を見ていないからさ……」


 「あはは、じゃあ無駄骨だったんだ。

 それじゃあ、今から電話で聞いてみたら?

 シラフから聞けば答えてくれるでしょうし?」


 「いや、流石にそれはだな……。

 俺はあまり聞きたくないから、気になるならルーシャ達の方から聞いて見ればいいだろう?」


 俺が思わずそんな返しをすると、ルーシャの表情が少し困惑していた。


 「それは……、そうだけど……。

 でもなんか聞きづらいかな……。

 シファ様がシラフ以外の男性に馴れ馴れしいところなんて……。

 いや、でもなんかちょっとだけ有り得るかもしれない……」


 「まあ、そこは否定出来ないんだけどさ……。

 それに、姉さんが誰と付き合おうが俺にはあまり関係ない事だからな」


 「そう言う物なの?

 だって大切な家族の一人なのに?」


 「いや、俺はあくまで姉さんの養子なんだ。

 だから姉さんの細やかな私情にはあまり挟めない。

 家族であるとしても、姉さん本人が幸せならソレを最優先に祝福してあげたいってくらいだ。

 大切な家族だからこそ、俺は姉さんが幸せならそれでいいんだよ」



 向こうでシラフ達の会話が盛り上がっているみたいだが、彼等の会話が上手く頭に入ってこない。

 理由はわかっている、彼が誕生日の贈り物として渡したのは赤い真紅の花模様が入った髪留めだからだ。


 私にとって、身の回りで赤い物はあの首飾り以外身に付けている物は他に無い。

 私自身は特別赤が好きな訳では無いのである。

 しかし私にとって赤い小物はとても特別な意味を持っているのだ。


 私が幼い頃に、大切な友人であったハイドから貰った首飾りを思わせる物だから。


 それが赤い装飾品であればなおさらだ……。

 ルーシャ達は知ってるだろうけど、シラフには私があの首飾りを常に身に付けている事は教えていない。

 

 一応、あの首飾りは肌見放さず御守り同然に常に身に付けているが、普段は見えないように服の下に隠している徹底振り。

 コレを知っているのは、両親含めてシルビアさん、そして親友であるルーシャとシラフといつも一緒のリンさんくらいである。


 彼女達がわざわざその事を彼に話すとは思えない。

 今日の誕生日の贈り物の参考にしようと考えたとしても、彼が贈り物の事を忘れてた時点で到底あり得ないのだ。


 何故シラフは私にこれを選んだのだろうか?


 普通に考えればそれは偶然だと考えるのが当たり前。

 でも何故だろう、ただの偶然ではない。

 私自身の直感がそう告げていた。


 しかし、万が一そうであったとしてもあり得ない。

 ハイドは10年も前に亡くなっているのだ。


 でもシラフは幼い頃にシファさんに引き取られて養子に迎えられていた……。


 いや……まさか、あり得ない。

 彼は既に死んでいると、そうお父様が私に言っていたのだ。


 嘘のはずがない。


 いや……しかし、シファさんとお父様は旧知の仲だったとしてもだ………。

 シラフが屋敷に泊まりに来た時より前に一度屋敷に訪れていて、その時に確かお父様は間違えて私のお菓子を出してしまったくらいだ。

  

 シファさんがお父様と昔交友関係があった程度で、その挨拶として訪れただけ。

 社交辞令の一つや二つ、私の両親なら幾らでもある事例に過ぎない。


 所詮は子供の妄想、あり得ない。

 

 絶対にあり得ないんだ、


 でも、あの時に事前に打ち合わせていたとしたら? 


 そんな思考に陥り、私の視線はシラフへと向いた……。


 まさか、本当にあなたがハイドなの?

 それじゃあどうして、名前を変えてまでここに……。


 それに……どうして私が分からないの?

 あなたが私にくれた物を今も持っているのに……

 どうして?


 どうして、私がわからないの?


 あなたがハイドなら、私を忘れる訳がない。


 そうだよね?


 だって、ハイドは私にこの首飾りをくれたのだから。


 もう一度、必ず会う為に………、

 

 私はずっとコレを持ち続けたんだから。


 何を言えばいいのか分からず、言葉が出ない。


 もし、彼がハイドで無ければしょうがない。


 当然だ、彼がハイドであるはずがない。


 でも、もし彼がハイドであるなら?


 私は、どうすればいいの……。



 祝勝会は盛り上がり、気づけば夜を迎えていた。

 日も落ちた頃合いなので、祝勝会はお開きとなり俺達は帰る準備をしていた。

 そしてクレシアは屋敷の玄関先に立ち、俺達の見送りをしていた。


 「夜も遅いしこんな時間まで掛かっちゃったね。

 明日、放課後でも色々聞かないとね?

 シラフ、あなたにはまだまだ色々と聞きたい事があるからね?

 帰ったら他にも色々と取り調べがあるんだから、覚悟しなさいよ?」


 「はいはい程々に頼むよ」


 「あはは、シラフも色々と大変だね。

 それじゃあルーシャ、また明日学校でね。

 シラフにシルビアさんも、今日は私の誕生日を祝ってくれてありがとうございます。

 シラフも、次の試合頑張ってね」


 「いえ、本日のクレシアさんのおもてなしに私達もとても楽しめました。

 17歳の誕生日もおめでとうございます」


 「勿論だよ、次も必ず勝つ。

 今度はちゃんとした戦いで勝つさ」


 「それじゃあ、そろそろ行きましょう。

 クレシア、また明日ね!」


 そしてクレシアは俺達三人の背中を手を振りながら見送りする。

 しかし、何を思ったのか当然彼女の呼び止める声が聞こえてきた。


 「……待って……!」


 突然の呼びかけに、俺達三人の足がピタリと止まった。


 「クレシア、どうしたの急に?

 もしかして、何か忘れ物でもしてたかな?」


 クレシアの声に、ルーシャが思わず聞き返す…… 

 勿論、俺も同じことを思った。


 何か忘れたと思い思考巡らせると………


 「ごめん、突然呼び止めて……。

 ええと、あの、そのね……。

 シラフをその……あの……。

 少しだけ借りてもいいかな 

 ほんの少しだけ時間を貰えないかな、なんて?」


 彼女のその言葉に、俺達3人は顔を見合わせる


 「俺は別に構わないが、王女二人だけをこんな夜道に歩かせる訳にはいかない。

 要件が何かあるなら、端末からの通話か明日改めて言って貰いたいんところなんだが……」


 俺は、隣の王族姉妹の方に視線を向ける。

 幾ら治安が良いとはいえ、彼女達二人だけを帰らせる訳にはいかないか……。

 すると、何かを察した様子なのかルーシャが口を開いた。


 「分かった。

 そういう事なら、シラフを借りてもいいよ。

 シルビアも一応、神器使いだしさ。

 ほら、いざとなったらシラフの代わりになるくらいにはもうずっと強いからね……。

 それに……」

 

 そう言って俺の方を軽く見やる


 「それにが、何だよルーシャ?」

  

 何かの含みがある言い方をする彼女、すると彼女はソレをはぐらかして話を無理矢理進めていく。


 「別に〜、何でもないよ。

 とりあえずシラフは後から来ても大丈夫。

 とにかく!

 シラフはクレシアとの用事を済ませたら戻って来て。

 いい、コレは命令だからね。

 今日の主役はクレシアなんだから、今日1日は彼女の命令に絶対服従だから」


 「はいはい、了解しました。

 シルビア様、本当に任せても大丈夫なんですか?」


 「はい、私は大丈夫です。

 クレシアさんの事をしっかりお願いします」

  

 「…………分かりました。

 ではお任せします」


 「それじゃあ、私達は先に行ってるから。

 遅くなり過ぎないようにね、シラフ。

 じゃあ行きましょうか、シルビア」


 「はい……、姉様」


 二人が先に帰っていくのを見送り、姿が見えなくなると俺は口を開きクレシアに尋ねた。


 「それで、俺に何か用があるんだろう?

 一体何の話なんだ?」


 「うん……。

 それじゃあ、あの、えっとその……。

 シラフ……、じゃあその少しだけ庭の方に向かいましょうか………」


 「分かった。

 クレシアが話しやすいところで構わないよ」


 クレシアは僅かに頷くと、俺を自身の屋敷の庭へ案内しゆっくりと歩き始めた。

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