第七十二話 私を殺せる、その時まで
戦闘を継続出来るのは、残り2分前後。
目の前の彼女の能力、及び耐性を獲得。
身体の負荷を考慮し、各種能力の使用に関して
確定事象、使用可能
圧縮再現、使用可能
事象再現、権限レベル5以下の能力に限定し使用可能
絶対時間、使用可能
相対時間、使用可能
遡行再現、合計40秒まで使用可能
先に彼女が発言した通り、直接相手を傷つけられるような戦闘向きの能力ではない模様。
その上、発動に対しての燃費が非常に悪い。
能力に対しての耐性を獲得したものの、相手の攻撃そのものが能力由来ではないので、耐性の有無は関係なし。
あれ程自身を追い詰めていた、圧倒的な彼女の力は彼女自身に由来すると改めて認識する。
99.9%、私は負けるだろう。
戦闘開始から既に二十分近くが経過し、彼女に傷を与えられたのは僅か2回。
その間、私は幾度となく負傷及び能力の反動で魔力の過度の使用により身体は既に暴発寸前。
ただでさえ燃費の悪い彼女の能力を扱おうものから、今後ある程度の後遺症は覚悟していかなければならない可能性もあり得る。
今までの私なら引くべきところ。
しかし、ここで引く判断は今後同じ状況に陥った際に撤退する選択肢が常に入り込む。
勝てない勝負ならまだしも、勝算のある戦いをわざわざ引くのは、そもそもの遭遇率の低いと思われるカオスに対しては特に避けたい行為。
出会ったその時、どんな状況にあったとしても確実に倒せる場に持っていく必要がある。
つまり、今この状況で彼女に何一つ成果も出せず戦いを諦める選択肢は私には存在しない。
敗北が確定しようとも……。
相討ち覚悟で向かうしかない
「来ないの、ラウ?」
「…………」
残り2分で勝ち筋を……見出す。
私は一歩を踏み出した。
銃口をソイツに向けて、一発。
残りは、六発……。
「………」
戦闘継続の意思を確認したのか、彼女は再び剣を取りこちらの放った弾丸に向かって剣を振るう。
当然、先程の攻撃から学習したのか、剣からはより強固な魔力が込められている。
振るった剣は寸分狂わず、弾丸を捉える。
しかし剣に触れた瞬間、煙のように消えさり少し遅れて後方から弾丸が襲い掛かっていく。
「っ………!」
彼女の動きが加速した、それも急激に………。
神器の能力、こちらの体内に流れる時間を加速させたと予測出来る。
自身に流れる時間に対して干渉し、直撃を避ける為に動いた。
能力を引き出させ、そして彼女はすぐさま二度目の斬撃を放ち後続の弾丸を撃ち落とす。
そして、こちらへと一気に距離を詰めた。
動きは捉えられる………、いや………。
「惜しいね」
彼女は私にそう言った。
私の目の前に突然現れて………
「っ?!」
次の瞬間、私の身体は紙くず同然に吹き飛んでいた。
地面に叩きつけられ、激しい痛みと呼吸が途絶えた………。
意識はある、だが何が起こったのか理解出来ない。
あの瞬間………、迎撃したその瞬間に彼女は目の前からそこには既に居なかったかのように消え、そして私の目の前に現れた。
「………っ、ゲホッ……」
血反吐を吐きながらも、身体を無理やり起こす。
しかし、立ち上がったその瞬間………。
「っ?!」
反射的に、右手で再び短刀を生み出しその攻撃を防いでいた。
首元に突きつけられた刃が………。
あと少し遅れていれば、私は………
「驚いた、それで動けるんだね」
再び銃を構えようと、するもその腕を蹴られ銃は遥か彼方へと消えていく。
「…………」
圧縮再現………、過程の事象を潰したか………
「私にそう何度も同じ手は効かないよ?
そろそろ諦めたら?」
突きつけられた刃、思考が鈍くなりグリモワールの制御が追いつかなくなる。
だが、まだ負けてはいない………。
歯車の刻むような音が耳を通り抜ける。
その瞬間、光景が映り変わり……私の身体は夜空を見上げていた。
そう、彼女に吹き飛ばされたその瞬間に私は居た
「遡行再現……」
銃口を天に向け、その先に2つの魔法陣を直列で生成させる。
「まだ弾はある……」
再び弾丸を放つ、魔法陣を通過すると弾は複数個へと増殖、そしてその次の魔法陣を通過すると淡い赤の煌めきを放ち始めた………。
「増殖………、加速………」
天高く弾丸は空に向かって飛翔する。
そして、一定の位置にて止まると弾丸は空中で固定され弾丸は弾丸同士を結ぶように光は結ばれていく。
鞭打つように当たった身体を、無理やり動かし彼女の姿を再び捉えた。
「ラウ!」
凄まじい速度でこちらに追撃を仕掛ける彼女、その瞬間天高く放たれた弾丸達の準備は整う。
彼等の囲った空間は灰色に染まり、その空間内部の彼女の動きは大きく鈍っていく、長くは抑えられない。
それでも、好機を掴んだ
「十分過ぎる」
再び銃口を向け、私は構えた。
間もなくして、再び弾丸は放たれる。
3発の弾を撃ち、彼女の方へと向かう。
しかしすぐさま、向こうは拘束から放たれ弾丸達を斬り伏せていく。
残り………。
再び銃を構える、しかしその銃の先端から中央に向かって斜めに切断される。
「これで、私の勝ちだねラウ?」
「…………」
「返答する気もないの?」
私は………。
彼女の背後から後頭部に対して銃口を突きつけた。
「………」
「私の勝ちだな、シファ・ラーニル」
そして、彼女の目の前にいた弾丸の魔力で生み出した幻は消え去った。
「なるほど……、
通りで手応えがないとは思ったよ。
でも、残念。
さっさと撃てば良かったのに」
「どういう意味だ?」
「だってさ、私の能力を使ってるんだよね?
だからさ、あなたもう負けてるの」
その言葉を聞いた瞬間、背後を斬られた感触と共に膝を崩した……。
「っ………」
何が起こった?
何処から攻撃が飛んできた?
シファは目の前に居る、武器も彼女の手元………。
なのに………一体何処から?
「流石だよ、ラウ………。
私にコレを使わせたのは、あなたで3人目。
誇っていいと思うよ、私の知る中でもあなた指折りに入るくらいは強いからさ」
そう言って彼女は自身の服に付いた砂埃を払い、こちらの頬に触れて語りかけてくる。
「何をしたんだ、一体………?」
「仕込んだんだ、結果を想定してね。
戦闘開始と共に、今日の戦闘結果を予測していたの。
思っていた座標と1メートルは後ろ、時間も2分くらいズレたけど、しっかり予測通りみたいだね。
君が能力を模倣した時、もしかしたら少し変わるかもとは思ったけどね」
「始めから、こうなると分かって………?」
「そうだよ、始めから仕組んだの。
あなたがナイフで私の足を斬り込んだのと同じ。
確定事象。
望んだ結果を、望んだ時間と場所、対象に押し付ける技をね」
「……………」
「あなたにはまだまだ強くなって欲しいからさ。
私の為に、シラフの為にね………。
勿論それはあなたの為にもなるから」
「初めから、掌の上だったか」
「あなたはこれからそういう相手と戦うの。
私、言ったよね?
世界を観測して、己の思うように変えられるって。
でもね、上位の存在であるカオスには意味がない。
だから正直、私にとっては無駄な力……。
この程度の力じゃ、カオスには勝てないの。
この程度の私に勝てないなら、話にならない」
「…………」
「だからさ、強くなってね。
カオスを倒せるくらいに……、
あなたが私を殺せるくらいに……」




