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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第一節 無くしても残る物

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第七十一話 いずれは超える

 幾度となく、目の前の女と刃が交錯する。

 戦闘が開始されてから、既に10分以上が経過。

 

 「…………」


 ただでさえ、目の前の彼女の能力故か視界が白黒のモノと化している。

 加えて、何度か試用の程度で試したグリモワールの最大出力を7分程使用した。

 相手の攻撃を読む為に、眼球付近に魔力を集中させ過ぎた影響で視界が霞んでおり、相手の攻撃が今も見えてるのが私自身不思議に感じていた。


 お互いに距離を取り、体勢を取り直す。

 向こうからは疲れのような息遣いはなく、反対に私は体内の魔力を過剰に使用した影響で激しい熱量に身体が灼けるような感覚を覚える。

 呼吸の乱れは愚か、肺が灼けるような感覚を覚え立っているのが不思議な程。


 まるで、体内が鍋で煮込まれたような……。

 

 流石の私もこれは不味いな……


 「随分無理をしているみたいだね、ラウ。

 将来的に私に勝てる勝算があると意気込んではいたみたいだけど、この程度でその疲労は流石に私を舐め過ぎじゃない?

 それとも、まだ奥の手があるの?」


 「…………」 


 彼女の言う奥の手、あるにはある。

 しかし、発動に至る条件を満たしていない。


 戦闘継続をしながら、条件を満たすのは至難。

 最も、能力自体は私の視界の半分を相手の能力の観測にグリモワールから魔力を回す必要がある。


 視界の半分を、最低一分………。

 僅かそれだけの時間でいい、しかし相手が彼女なら話は別だ。


 両目の視界を全て彼女の動きの反応に費やしている時点で、私の奥の手は封じられたも同然……。


 あるいは、並行して処理する方法を取るか。

 その場合、少しのミスで眼球が魔力の暴発により破裂してしまう可能性が非常に高い。


 しかし例え目玉が抉られようとも、体内のグリモワールが臓器は愚か四肢の再生も可能であり、その採算は取れるだろうが……。

 

 それも見越して、向こうは封じてくる。


 詰みの手前、方法はあるが一歩間違えば敗北。

 このまま継続しても時間稼ぎにはなるが、その内失明、あるいは身体に限界が訪れる。


 体感として、あと3分と言ったところ………。


 それが今の私に残された猶予だ。


 「まだ続けるつもり、ラウ?」


 「打つ手はある」


 既に刃が欠け今にも壊れておかしくない、武器を投げ捨て新たな武器を錬成する。


 再び槍を使うか………?

 それとも剣か、斧か?


 あの女の攻撃を防ぐ手立てとしては心許ない。


 残された時間もない。


 攻撃に徹する、防御はかえって時間を無駄にする可能性が高い。


 守りに徹したところで、現状有効打はない。

 早々に攻めに転じる必要がある。


 多少の守りを捨ててでも、

 この能力の発動条件を満たす為に………。


 私は、攻めに転じる必要がある。


 『これより対象の観測を開始します』


 「………?」

 

 体内から無機質な女性の声が流れてくる。

 そして、右手に青い魔法陣が形成されそこに一つの拳銃が現れた。


 普通の拳銃と異なるのは、引き金は存在せず魔力を送り込む為の機構が備わったただの筒同然の代物である事。


 これ単体では武器としての能力は皆無だ。


 「それが、あなたの奥の手?」

 

 『対象を補足、能力の解析を開始。

 解析完了まで残り60秒。

 解析完了次第能力の発動及び耐性を獲得します』


 「装填、開始……」


 脳内でイメージしたソレを、弾に変換し握られた拳銃に込めていく。


 一回につき、撃てるのは八発。

 能力解析処理との並行を兼ねて、あと一回再装填出来るか否か………。

 しかし再装填した場合、その後のグリモワールの制御は維持できない………。

 

 『解析完了まで残り、50秒………』


 「私はまだ負けられない」


 銃口を彼女に向け、ソレに呼応するようにシファもまた武器を構え直した。


 「奥の手、持ってたんだ。

 手の内を晒さないと思ってたけど、その余裕が無くなった。

 あるいは、その先にまだ何かを隠しているのか……」


 『完了まで残り、40秒………』


 「それでも、今の君に勝ちを譲る気はないよ」


 相手の踏み込みを予測し、最初の一発を彼女に目掛けて放つ。

 当然、その手に握られた剣で迎撃するだろうが迎撃した直後その剣が融解し、弾丸はそのまま彼女目掛け向かう。

 

 「っ?!」

 

 僅かに左耳を掠め、攻撃の直撃をどうにか避けた。

 しかし、当たった左耳の違和感をすぐに察したのか、彼女の目つきが険しくなった。


 こちらの動きを警戒している。


 しかしすぐさま表情は緩み、高笑いをし始めた。

 

 「………ようやく効いたみたいだな」


 「アハハハ………、凄いね!

 久しぶりに傷を付けられたよ、何十年振りだろう?

 その銃、いや弾の方が特殊なのかな………。

 ようやく面白くなってきたね」


 傷を付けられたにも関わらず、相手は余裕。

 だが、ようやく有効打は見つけた。


 最も、次が当たるかは別だが………

 

 『完了まで、残り30秒………』


 30秒を切った瞬間、私の目前に彼女は存在した。

 鋭い眼光で、これまでに無いほどの脅威と威圧感を感じた。


 思考を言語に変換するまでもなく、鋭い一撃が右腕を貫通すると、握られていたはすの拳銃が宙を舞った。


 「っ!!」


 追って追撃が来る、残された左腕で即時にナイフを錬成し彼女に目掛けて振るう。

 一撃を受けた直後、当然距離はほとんどあるはずもなく確実に彼女の右腕を斬り刻んだ。

 

 しかし、斬りつけたナイフが彼女の血に触れて間もなく、光を放ち融解していく。


 そう、彼女の血で魔術が分解されていたのだ………。


 「な……?」


 握ったナイフを捨て、すぐさま近くに落ちていく拳銃を回収し距離を取り直す。

 右腕の再生は後回し、次の手を………


 先程のアレが気になるが………。

 とにかく、今は時間を稼ぐしかない。


 「2回も傷を受けた。

 悪くないよ、その力。

 面白そうだから待ってあげるよ、ラウ」


 『完了まで、残り20秒………』


 「まだ、強くなるんだよね?

 君の奥の手って奴でさ」 


 「…………」

  

 「全力で来るといいよ。

 私があなたの力を見てあげるから。

 ノエルが託したその力を、可能性を私に見せてよ」


 『完了まで残り、10、9、8………』


 彼女のその言葉に、安堵した私があった。

 同時に、目の前の存在から放たれる魔力に今まで抱いた事のない何かを感じた。


 恐怖、心の底から………私は彼女を恐れ始めていた。


 「まぁいいさ、それでも………」


 『5』


 「私は………」


 『4』


 「私に……」


 『3』


 「出来る事を………」


 『2』


 「尽くすまで……」


 『1』


 瞬間、身体に魔力が再び巡り始める。

 

 『能力の解析を完了しました。

 解析対象、クロノス。

 及び、能力の耐性を獲得。

 対象の能力が使用可能になりました』


 「ふーん、なるほど………そういうことか」


 「グリモワール・クロノス解放……」


 拳銃を彼女に再び向け、相手の姿をその眼で捉える。


 「ラウ、私の能力を真似したんだ。

 それが君の切り札だったりするの?

 確かに、格上の能力を模倣すれば今の君からしたら遥かに優れた力だろうけど………。

 付け焼き刃の力で、私に届くと本気で思ってた?」


 「手は尽くした、あとは勝利するのみ」


 「随分、舐められたものだね。

 まぐれの一撃が通ったから、君の実力を期待したんだけどさ…………。

 まさかその程度で私に勝てるって思われたんじゃさぁ………」


 その瞬間、少し前に投げたナイフが彼女の右足を斬りつけその衝撃でシファは体勢を崩した。


 「っ、?!」


 「奥の手だと言っただろう。

 今の一撃は先程の攻撃に対して本来私が当てようとしたモノ。

 それが今になって当たった。

 当たったという事象を今、お前に押し付けたんだ」


 「…………」


 「今の私は、シファの持つ神器であるクロノスと同等の力を持っている。


 戦う以前にお前は言っていたな、相手の能力を再現出来ると………。

 己より弱い存在の力をわざわざ模倣して、再現する意味はなかったと……。


 シファ、始めに言っておくがお前に傷を与えた最初の弾丸は、お前より遥かに弱いサリアの第三王女のモノと同じ特性を持った代物だよ。


 そして、私の扱う錬成魔術もお前が弱い存在と認識している人間によって作られた魔術だ。

 私の扱う魔術に自分のモノはない。

 全ては数多の先人達が、知恵を掻き集めて形にした人間の知識の結晶そのもの。

 お前が、自分より弱いと認識していた再現する意味もないと語った人間の知識の力だ」


 「……………」


 「確かに今の私はお前より弱い。

 しかし、お前に届きうる刃は既に人間が生み出しつつある事には紛れもない事実だろう。

 例え、シファがお前がどれだけ途方もない強大な化け物のような存在であろうと、必ず人間はお前を殺すだけの知識を、力を身につける。

  

 お前が弱いと言った人間が、再現する意味もないと言った人間が、そう遠くない内にその刃を届かせる。

 

 先程の一撃が、ソレを物語るように」


 「…………」


 「私はいずれ、お前を超える。

 そうしなければ、カオスは倒せない」


 「超えられるといいね、私を」


 「必ず超える、私の使命を果たす為に」


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