第七十話 手合わせ
シファの誘いを受け、私と彼女は街から程離れた場所にある広い荒野に訪れていた。
「闘技場は使わないのか?
学院の生徒であれば、使用に関しては何ら問題ないだろうに」
「私達の戦いには、ちょっと狭いからね。
この方が、周りの被害を気にしなくてもいいし」
「………」
「ラノワ君との試合は一応見てたんだよね?」
「一応はな、シファの実力はある程度分かった」
「その、ご感想は?」
「今の私では勝てない」
「へぇ、将来的な勝算の目処はあるんだ」
「………、どうだろうな」
「まぁいいや。
とりあえずラウの実力を私に示してよ?」
相手の目的が不明。
その出方を伺うも実力は未知数、いや出さずとも今の私では勝てない。
先の戦いで見せたモノが、彼女の本気ではないのは明白だ………。
それでも、観客が失神及び体調不良を起こす程の魔力を放つとなると………。
正攻法での対処は不可能。
「グリモワール起動………。
対象の観測を開始、対象シファ・ラーニル。
権限レベル7を申請、その申請を許可………
これより戦闘を開始する……」
体内のグリモワールに魔力を込め、戦いへ移行する。
私の様子を伺い、対応するように目の前の女は左手を胸元へとかざすと、その手首に嵌められた銀色の腕輪が輝きを放ち始める。
「神器解放、クロノス………」
彼女の告げたその言葉と同時に、周りの世界が白と黒の世界に染まった。
そして、彼女のその手には異質な質感を放つ黒い剣。
私の錬成する武器よりも光の反射もなく、空間がそこだけ切り抜かれたようなモノ。
理解はしていたが、やはり彼女は………。
「…………?!」
「やっぱり驚くよね、この力………。
コレが私の神器の能力、主に時間に関するモノなんだけと定義が曖昧でね………。
実際のところ、戦闘向きの力って訳じゃないし」
「戦闘向きではないだと?」
「私自身が戦闘として使えるように力の扱い方を工夫してるってだけ。
普通の人間じゃ、力を扱うにも魔力の消費は多いから相応に魔術師としての高い適性を求められる。
でも、扱う魔力量が膨大過ぎてちゃんと身体を鍛えてないと内側から魔力が暴発して、破裂なんてこともあり得るからね」
「…………」
「相手の能力を再現出来る。
でも、私より弱い存在の力をわざわざ模倣して、再現する意味はない。
過去に戻せる力もある、でも失った仲間の命は戻らない。
自分の無力さを強く実感した。
世界を観測して、己の思うように変えられる。
でも、上位の存在であるカオスには意味を成さない。
だから正直、私にとっては無駄な力」
「…………」
「あなたの持つグリモワールを巡って、ずっと昔本当に酷い戦争をやっていたの。
その力を持つ、神に等しき力を振るう輩を相手に私達は散々殺し合いを行った。
そして今、その力はあなたの元にある」
「何が言いたい?」
「その力が、君が扱うに足るのか……、
私はそれが知りたいんだ。
まぁ勿論、最近運動不足だから久々に身体を動かしたいなぁっていうのもあるんだけど」
「…………」
「それじゃあ頑張ってね、ラウ?
私を殺す気で来ないと、あなたが先に死ぬから」
その瞬間、目の前の女の姿が消えた。
反射的に自身の身体が勝手に反応し、右手で短剣が生まれて間もなくそれで背後から斬りかかる存在の攻撃を受け止めた。
「っ!」
攻撃を受け止めた腕が軋む。
魔術で身体が強化されているにも関わらず、腕の骨が折れなかったのが奇跡とさえ感じた。
すぐさま身体を跳ね除け、体勢を整えると手に持った武器を槍に持ち替えた。
「割と器用に動くんだね。
反応も悪くないよ、でも逃げ回るだけじゃ勝てない」
「権限レベルをを変更……」
全身に巡る魔力の流れが激しくなり思考は加速する。
レベル7で対応不可、レベル8へ移行……?
いや、無理だ。
「権限レベルを10へ移行する……」
目の前存在を視覚で捉える。
こちらが前に踏み込もうとした瞬間、僅かに目の前の女の表情は恍惚とした笑みを浮かべていた。
●
戦いの主導権は私にある。
己の用意した空間で、相手の動きはこちらの手に取るように分かる。
それでも……
「やっぱり、君は見込みがあるよラウ」
こちらの刃は、目の前の男の振りかざす槍の穂先を掠め軌道が反らされる。
こちらが力負けしている訳でもなく、単純に彼の持つ武器の特性と、その技量が良いだけのこと。
武器を槍に変えたのは、いや正確に言うなら槍の柄の部分が普通の物よりも柔軟な代物にしたというが主。
このことが私の攻撃を受け止められた最大の要因。
「魔力を受け流すなんて荒業、誰から教わったの?」
「………」
武器の柔軟性を利用し、こちらの武器に込められた魔力を衝突の瞬間にその一部を受け入れると、己の武器を伝ってこちらの武器に込めた魔力を分散させたのだ。
私自身にそこまでの筋力は無く、魔術による身体強化による影響が高い事を理解した上で行ったのだろうが、流石というか、なんというか………。
軟性の武器で受け流したのは私の魔力の特性を見抜いたからこそだろう……。
彼がグリモワールを使うのだから、私も一応は想定してたが実際受け止められると少しだけ悔しい。
持ち手が僅かに軟性としたから、武器全体の取り回しは槍の方が合理的と判断した。
それでも、槍の扱いはかなりのものだし握って初めてという訳ではなさそうである。
基本的な型は問題ないが、少しだけ堅苦しくこうした実戦での扱いは初めてなのかもしれない。
「ねぇ、ラウって本当は今幾つなの?
武器を握って間もないよね、全体的に………。
前に君の主と出会った時からして、そもそも十年も経ってないと思うんだけど?」
「………、目覚めて4年と2ヶ月程だ。
人間の尺度でいうなら歳月の通り4歳という事でいいだろう」
「4歳かぁ、まだまだ子供だね」
「………」
煽られたと思ったのか、攻撃の手が僅かに早まる。
しかし、その手が何処か荒く……以外と短期というかそういう一面もあるのだと感じた。
とは言っても、一挙一動はお互い数手先を読まれた上で1秒間に最低でも3手の攻防戦が行われている。
その中で、先程の一撃が荒いというか少し雑に感じたという程度のモノ。
感情に出た割には、理性で押し殺すのが上手い。
それは、年齢の割にはというモノなのだけど………。
そんな目の前の彼の動きは、その全身から放たれる幾何学模様の魔力の光が漏れ出てたソレが残像のように彼の動きが視界に入り込む。
目で捉えるには少々眩しいが、全く耐えられない訳ではないといったところ………。
あの魔力の光が増す事に、身体の一挙一動に対して魔力が込められているのは明白。
身体能力が引き上がり、溜めた魔力を放つ事で一気に加速しているみたいだがそのタイミングが彼の放つ光によって分かってしまう。
初見こそ難しいが慣れれば相手の攻撃がいつ来るかが非常にわかりやすいのだ。
眩しい時に守りの体勢に入れば、8割くらいは難なく対応出来る。
残りは自身の経験値と駆け引きで確率の埋め合わせ、それでも足りないなら神器の力で少しばかりイカサマも放り込むが………。
向こうは私のイカサマを認識できない、あるいはその対処の処理にかなり時間を要しているのか……。
「勝てないと分かったらすぐに引くと思ったけど、以外と諦めが悪いんだね、ラウ?」
「………」
眉一つ表情は動かない。
でも、その強い眼差しはまだ諦めていない証拠。
久々に面白い子に出会えた気がする。
「もっとあなたの力を、私に示してよ。
君を生み出した、ノエルが託したその力を………」




