第六十九話 打ち合わせ、そして
その日の放課後
私とシファは例の喫茶店に向かって歩いていた。
交際を偽るという名目上、彼女とは行動を共にしなければならないが……。
午後の授業を終えた頃すぐに、こちらの腕に引っ付いて来ると何処か楽しそうに私の腕を引っ張ってくる。
学院を出た後も構わずこちらの腕に両腕を回し、例えるなら子猿を抱いてるようなモノ。
流石に動きが制限され、鬱陶しいとすら思える。
「そんなに引っ付くな、暑苦しい」
「でもさ?
離れてたら恋人同士には見えないでしょう?」
「だとしても、ずっお腕に纏わり付く必要はない」
「ちぇー、つまんない」
そう言うと、シファはようやく私から離れて、すぐ横を歩き始めた。
「それで、喫茶店とやらは何処にあるんだ?」
「ラウ、もしかして一度も行った事無いの?」
「基本、放課後に寄るのは図書館か公園程度だ。
必要に応じて食品を買う為に商店街にも出向いている」
「あれ?
それじゃあラウはバイトとかはしないの?
私達は、国からそれぞれの給与で通えているからいいけど、あなたは働かないとお金を稼げないんでしょ?
契約上はあなたの学費とかはこっちで持つけど、生活費は自費なんだし一体どうしてるの?」
「私はシトラの身の回りを世話している。
その報酬として小遣い程度の稼ぎは得ている」
「なるほどね。
それじゃあ、いつもあなたが食べてるお弁当っていつも自分の手作りなの?」
「それ以外に何がある?
食堂で買って食べるより、自分で作った方が遥かに安く済むからな。
これの何がおかしい?」
「え、いや……。
だって、てっきり私いつもシンちゃんが作っているのかとばかり……。
それに、ラウが家事とかするんだね……意外」
「シンには現在、私が色々と仕事を頼んでいる。
彼女の仕事をこれ以上増やすのは、こちらの頼んでいる仕事の効率が悪くなると私は判断した。
故に、私は自分の出来る事をしているだけだ。
勿論シンのあの性格上、猛反対されたが……。
しかしだ、お前の世話で日々疲れているのは目に見えていたから、彼女も渋々了承した。
シファ、せめて自分の部屋くらいは自分で片付けをしたらどうなんだ?
その体たらくでは、お前の立場としてかなり問題だろう?」
「うっ……こんな時に説教を食らうなんて……。
そう言えば思ったんだけど、二人っていつも何を調べてるの?
なんか難しい書類を眺めているのはよく見るけどさ……」
「お前がソレを分かって上で私に聞くのか?」
「……分かってるって、どうして言えるの?」
「シンから聞いている、知り合いだそうだな。
我々を造った彼女とも……。」
「ふーん、そっか……なら話が早い」
「実際のところお前は何が目的だ?」
「あなたの持っているグリモワールについて。
その力を使って帝国の生き残りさんが何をするつもりなのかなって?」
「カオスを殺す事だ。それ以外に目的は無い」
「なるほど、アレがまだ残っていたんだ……。
ずっと昔に倒したはずだと思っていたのに……」
「奴について何かを知っているのか?」
「まあね……。
ずっと昔に私達が命懸けで封印したんだ。
そして、そのずっと後に跡形も残らず消滅させたの」
「しかし……現に残っているらしい。
帝国にはその契約者がいた。
初代皇帝に始まり、記録に残っている限りでは、先代皇帝ハンク・オラシオンそして八英傑ラウ・レクサスが契約者の記述として最後だったが」
「でも、その八英傑のラウ・レクサスって人は20年前のあの日に内戦で死亡とされている。
その死体は恐らく、まだあの魔水晶の中とされているんでしょ?」
「そこまで知って、何が目的だ?」
「単純に言えば…そうだなぁ。
その時が来たら私も協力するって話かな?
私、結構強いから頼りになると思うよ」
「何が目的だ?」
「ただの私怨だよ。
私、カオスとは決着を付けないといけないの」
「私怨とは、随分な物言いだな」
「あれには、色々と縁があったの。
複雑な縁がね……、ほんと困っちゃうよね」
「……そうか」
「私、カオスが存在している限りはこの剣を捨てられないんだ」
「それだけの力が有りながらか?」
「私が望んで欲しかった訳では無いよ。
でも、強くなければ生きていけなかったってだけだからね。
今の子達程、毎日こうして学院で過ごすみたいな青春なんて考えられなかったし………。
毎日毎日、生きるか死ぬか、そんな境界線を日々跨いでたようなモノだからね」
何処か、昔を懐かしむようにシファはそう語った。
「…………」
「そろそろ見えて来た。
ほら、分かるかな……あの建物」
「ああ……」
「それじゃあ……作成会議の為に入ろうか、ラウ。」
「……分かった」
それから店内に入り、お互いに注文し終えると例の作戦会議を執り行う。
ほとんど、シファからの一方的な意見だったが。
私はその辺りに関してはかな。疎いので、彼女の意向に適当に合わせ話し合いをさっさと終えたいと思っていたが……。
「大体まとまったね。
とりあえず、今年の内は続けるって事でいいかな?」
「ああ。
私にはそういうのは分からないからお前に任せ……。
いや、シファに任せる」
「そっか、私もこれ以上は特に無いからとりあえず現状はこんな感じだね……。
この本にある通りの事をすればいいのかな?」
「何をするつもりでいる?」
「えっとね……」
シファが持ち出した本の題名は「女の子必読、この本一つで彼の心を鷲掴み!」なる物を広げ内容を見せた。
そこには、
・帰り道は手をつなぐ。
・昼食は常に一緒に摂るようにする。
・月に最低1回くらいはデートをする。
等と書かれており、私にはなんとも胡散臭く思えてくる。
コレが本当に参考になるのか?
「とりあえず、この三つはやろうと思ってるよ。
いいよね?」
「本当にそれが恋人同士のする事なのか?」
「うーん……多分そうだと思うよ……。
確証はないけど、私の読んだ事のある恋愛小説だとこんな感じの事をしていたから。
多分、大丈夫大丈夫!」
「そうか、分かった。
可能な限り引き受けよう」
「そっか……。
ねえ、もう少しお菓子頼んでいいかな?」
「好きにしろ」
「はーい。
マスター、注文お願いします!」
シファが私の指した菓子と自分の菓子を注文する。
そして、注文した物がテーブルの上に置かれる。
それから、こちらがゆっくりと茶を嗜んでいる間にシファは既に注文した菓子を食べ終えていた。
そして、私の皿に残っている菓子を見つめていた。
「………、食べたいのか?」
シファは私の質問に対し、無言で頷く。
じっと、こちらの皿に乗っている焼き菓子の残りを見つめその視線は何処か真剣さが強かった。
「好きにすればいい」
私はシファにそう言い、手元の皿をシファの方に寄せた。
そして私から受け取った菓子を食べているシファは、
「優しいんだね……意外に……」
「気が向いただけだ。」
「そっか……。
でも、ありがとね」
私の言葉に対しシファはそんな返事を返しすと、先ほど貰った菓子を再び口にしていた。
店を出ると、シファは体を伸ばしながらこちらに話し掛ける。
「ふぅ……。
今日はなんだかんだで楽しかったよ。
また明日も良かった行こうよ、ラウ」
「そうだな」
「ねえ、一つ質問いいかな?」
「何だ?」
「今日一日さ、私と一緒に過ごしている間……。
ずっと何処か寂しそうにしていたのはどうしてなの?」
「寂しい、だと?
そう見えたのか?」
「何となくね……。
気のせいだと思うけどさ……。
一応付き合う事になったんだから困っていたら相談くらいはしてよね」
「それなら、少しは私が頼れるように私生活の改善に勤める事だ。
それが出来なければ話にならない」
「あはは……、そうかもね」
そしてシファは、私の隣をゆっくりと歩く。
ふと、立ち止まり私の方へと向き直った。
「ラウ?」
「何だ?」
「時間、まだある?」
「………、要件は何だ?」
「これから私と手合わせしない?
あなたの実力、見てみたいの」




