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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第一節 無くしても残る物
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第六十八話 疑惑の二人は

帝歴403年9月13日 


 「おはよう、ラウ!

 今日もよろしくね!」


 「そうだな……」


 私の学院での一日は、例日共に一方的にシファから絡まれる事から始まる。

 しかし、今日の彼女はいつもと少し様子が違っていた。


 「またか……その紙袋は?」


 お互いに持っている紙袋。

 その中身もお互いに同じような内容の手紙が入っているのだろう。


 「あはは、ラウもなんだね……。

 どうしてこんなに毎朝も来るのかな……?

 毎日断りに行くの結構面前なのに……」


 「そんな物、いちいち行く必要は無いだろう。

 相手にするだけ無駄だ」


 「でも、せっかく書いて貰ったからさ……。

 無下に捨てるのも失礼だろうし、色々と勿体ないというかね………」


 シファはそう言うと足元に置いている紙袋を膝の上に置くなり中身を多少眺める。

 私が受けたモノよりも遥かに量がある紙の束等を眺めるなり、重苦しい僅かなため息をすると袋を床の上に置いた。


 「今日も断りに回らなきゃなぁ……。

 はぁ…」


 シファはそんな事を言うと、私も同じく手に持っている紙袋を足元に置き席に着いた。

 一応、例の手紙の件について私から彼女には用があったので仕方なく私から彼女に話しかけることにする。


 「昼、お前に話があるから来てくれ」


 「ん、別にいいけど……?

 でも、あなたからお誘いなんて珍しいね。

 むしろそっちから会話をしてくれたのもさ?」


 こちらに対して馴れ馴れしく接する彼女。

 頬を指で突きからかってくる彼女に鬱陶しさを感じる。

 これ以上絡まれても面倒なので、私はその手を振り払いこの話題を切り上げることにした。


 「とにかくだ。

 昼休み、お前に話がある……。

 それだけのことだ……」


 「はーい。

 あとさ、ついでに今度あなたのレポートを見せてもらえない?

 私、この前の授業中に居眠りしちゃって内容聞き逃しちゃったからさ?

 お願いします、この通り………。

 ちゃんと出さないと、私また補修食らうからさ………。

 お願いします、ラウ様……この通りですから」


 そう言って俺に泣きつき抱きついてくる彼女。

 


 「分かった、分かった。

 暑苦しいから離れろ。

 後でまとめて送付する。

 私の連絡先はもっているだろ?」


 「ありがとう、いつもラウには助かるよ」


 そして、午前の授業を終えて昼休みが訪れる。

 彼女と共に食堂に向かい、そして朝の件について彼女から尋ねられた。


 「それで、ラウ?

 私に話って何なのかな?」


 「毎日のように来るあの手紙の対策についてだ」


 「あー、それね!

 ラウの方から何かしらの対策は考えてはいたんだ。

 何か、凄く画期的ないい方法でもあったりするの?」


 「私は現在ひたすら無視し続けてる対策はしている。

 しかし、あれでは減らす事にはならない。

 毎日の紙の処理に困るだけだからな。

 まして、お前のように一人一人に返事を返すなど、あまりの効率が悪い事は目に見えている。

 お前は私以上に、手紙を受け取っているのだからな……」


 「うんうん……。

 それで?」


 「今日の朝、シトラに案を尋ねてみたところ。

 一つの案があった」


 「おーー!!

 あの天才さんの?

 それで、なんて言っていたの、ね、ね?」


 「いっその事、誰かと付き合うという案だ」


 「あーなるほど。

 でも、それじゃあ根本的な解決にはならないよ……。

 私、別に誰かと付き合うつもりはないし………」


 「いや、それで解決にはなる。

 周りからそう見えればいい話だ。

 既に相手が居るという事実が認知されていれば、今のように見ず知らずの相手から言い寄られるような事はほとんど無くなるだろう」

 

 「なるほどね。

 周りから、そう思われる事が大事って事か………。

 なるほどねぇ、確かに既に誰かと付き合っていると思われればこんな手紙を渡そうとする人は居なくなるかもしれない……。

 うーん、それじゃあ、ラウ?

 私と付き合ってくれないかな


 「私もお前に同じ事を提案するところだったが……。

 お前から来るとはかなり意外だな」


 「え?、だってさ、学院内で身近な人って私はラウくらいしかいないからね。

 シラフは血が繋がってないしろ弟だし、それに彼って結構競争相手多いみたいなんだよね?

 だから、その子達からすれば私が相手として居るとなると困らせてしまうだろうからさ。

 ああでも、ラウにはシンちゃんが居るからわざわざ私でなくともいいのか………」


 「確かに、シンなら仕事上、この偽装交際を引き受けてはくれそうだが……。

 こんな痴情までを彼女に頼って今以上に彼女の私生活に干渉しては迷惑だろうからな。

 シン自身にも私生活の自由はある程度必要、私の為に尽くしてくれるのはありがたいが……。

 基本的に生徒主体かつ自立が主たるこの学院で、いつまでも彼女の世話に頼るのはな………。

 それに、コレには同じ問題を抱えている相手の方が、お互いに理に適うはずだ、そうだろう?」


 「ふーん、なるほどね。

 シンちゃんの事を考えてなんだ、あの子からしたらまんざらでも無いとは思うけど……。

 ラウがそうしたいって話ならね………

 それじゃあ、ラウが私と付き合うって話でいいのかな?

 お互い、それで構わないみたいだからね?」


 「だからそう言っている」


 「ふーん、じゃあ契約成立だね。

 それじゃあこれから、付き合っているように見せる為にどうするかお互いに色々と考えよう?

 昼休みじゃ時間が足りないし、放課後にもさ喫茶店にでも寄って色々話し合おう。

 でもラウ、喫茶店に向かう時も待ち合わせじゃなくて一緒に向かう事だからね。

 そうしないと、ちゃんとした恋人同士には見えないからさ?」


 「分かった分かった。

 可能な限りはお前の意見に従おう」


 「それと、この偽装交際についてはシンちゃんに偽装の体って話では言わない事。

 一応、彼女にも私達が付き合っているって思わせないと、この話の信用性を上げられないでしょう?

 だから、ラウからも彼女には私とは付き合ってるって言ってよね?

 私もシラフ達には、あなたと交際してるって事にしておくから」


 「そういうものなのか?」


 「そういうものなの!

 とりあえず味方から騙せないと、周りは信じてくれないでしょ?」


 「なるほどな、一理ある。

 そこまで言うならお前の意に従おう」


 「それとさ、私のことをお前とか貴様って呼ぶのもやめて欲しいの。

 だって、そんな呼び方だと恋人同士には到底見えないしさ。

 あなたが少し面倒でもお互い名前で呼ぶようにした方がいい」


 「名前か……。

 シファ、これでいいのか?」


 「うん、それでいいよ。

 でも、いきなり名前だと少し照れるかな……」


 「自分から言わせて何を言っている」


 「別にいいでしょ、ラウ。

 とにかく!

 放課後は一緒に向かうんだから忘れないでよね」

 

 後半から、彼女のペースに話を持ち込まれたが何よりお互いの問題は解決に向かっている気がした。

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