第六十七話 重なる誤解
「クレシア、アレどう思う?」
「うん……仲が良さそうだとは見えたけど……。
彼女が二度もシラフの腕をつかんでいたし……」
「シラフさん、あの人とどんな関係なんでしょうか?
まさか恋人同士だったり……」
「いや、まさか……。
だって、シラフからそんな人がいるなんて聞いた事無いしさ。
クレシアも聞いて無いよね?」
「うん。
でも、二人は以前から顔見知りみたいだよ……。
それにあの人凄い美人だし、わざわざ彼を気にかけるくらいだからその気もあるんじゃ……」
「確かにそれは言えてるかも……。
私も羨ましいよ、あんな綺麗な長髪で寝癖とか一切無いんだよ。
一体、毎日どんな手入れをすればあそこまで綺麗に保てるんだろ……」
「姉様はそこを気にしているんですか……」
シラフ達が彼女に連れられ別れた後、私はルーシャ達と共に昼食を取っていた。
すると向こうの席でシラフと例の女性が共に昼食を取っているのを偶然目撃し三人で昼食を摂りながら二人観察をしている次第であった。
「彼女の事、ルーシャは分かる?」
「うん……隣の組でかなりの有名人だよ。
名前はシン・レクサス。
一学年上のラウって人に仕えているらしいくて。
成績は編入してから一ヶ月程にも関わらず凄く優秀でもう三年の首席候補に挙がってるって噂があるよ」
「そんな人とシラフが……。
それよりどうしてそんなに彼女に詳しいの?
隣の組なのに?」
「生徒会の男子共が彼女の事を話題にしていたの……。
なんか隠し撮り写真とか出回ってて男子共の裏で取り引きとかしてるらしい。」
「あぁ……そんな事あるんだね……」
「まあ、結構あるもの。
私の姉様とかも結構人気高いから普通に写真とか出回っているし……」
「ああ……でも確かこの前自分の写真を取り引きしていた男子達を取り締まったんだよね……」
「でもそれが別の影響をもたらして、姉様を女神として崇める人達が続出して困ってるらしいの」
「まあ、あの人のカリスマ性は男女関わらず教師からも尊敬されてるらしいからね」
「まあ、私の姉様の事は置いて……問題はシラフよ。
もしかしたら彼女は彼を狙っているのかもしれないから……」
「なるほど……。
確かにその可能性はありますね、姉様」
「うーん、とりあえず今日は放課後もシラフを観察してみよう?
何か分かるかもしれないしさ……」
「でも、今日は……、ほら、
私のお屋敷で昨日の祝杯を挙げるんじゃ……」
「今はそんな事はどうでもいいの……。
クレシアはシラフを取られても良い訳?」
「それは……それで嫌だけどさ……その……」
「だったら行こうよ!!
とにかく今日の放課後だからね」
ルーシャの言葉に押され、彼を付けていく事が決まった。
ルーシャの横に座っているシルビアは何度も頷いており彼女の意に賛成し意気込んでいる様子。
全く、なんでこんなことになったんだろう。
●
「ええと、何で俺はあなたと一緒に下校をしなければならないんです?」
「二人の監視をするためです。
嫌なら我慢して下さい」
我慢してでも居るようだ……。
俺に拒否権はないらしい
「別に嫌という訳では無いんだが……その……」
現在は放課後、生徒達は帰宅やバイト、クラブ活動に向かう時間だ。
そんな中、俺達に周りの視線が集まっていた。
理由は簡単。
現在俺と共に行動をしている彼女は、主であるラウと俺の姉ことシファとの恋愛疑惑を調べる為に俺の後ろにこれでもかとしがみ付き密着している。
例の二人が来るまでこうして、出迎えで監視をしているのだから。
端から見れば、逆にこっちがそういう疑惑を受けそうな気がしてくる……。
「そんなに引っ付かないで欲しいんですけど……。
その、歩きにくいですし。
そもそも、あなたはそんな人でしたっけ?
サリアで会った時はこう、厳格で冷たい印象があったんですが?」
「えっと、色々あるんですよ……。
あんな人としばらく暮らしていれば素も出ますから……」
「あんな人って………」
そう言えば、シンさんって姉さん達と同じ部屋だったはずだ。
姉さんの堕落した私生活を見ていれば、そういう素も出したくなるだろう。
姉さん、料理は愚か家事や洗濯……最悪着替えまでも一人ではままならない人だ。
なるほど、これまでのどこか冷たい態度は厳格に見せる為の演技なのなら納得もいく。
それに、あの主の前では多分その方が接しやすいのだろう。
その上、仕えているという関係上そのほうが性に合っていたのかもしれないが……。
「それで、これからどうするつもりです?
俺はこの後、姫様達が友人の誕生日と昨日のお祝いをする約束があるんですが……」
「でしたら、約束の時間まで私の身を隠す盾になっていて下さい。
時間が掛かるようでしたら喫茶店で飲み物の一杯くらい奢りますから……」
「いや……そうじゃ無くてですね……。
俺にも予定があって………」
何だろう、今まで抱いていた冷静でしっかり者の彼女の印象が徐々に瓦解し崩れていく……。
この人、何か色々苦労しているような……。
というか、ちょっと残念な部分がどこか面白くも思ってくる。
「とにかく二人が来るまでこちらに……。
二人に見つかったら大変ですから……」
彼女にされるがままに引っ張られ、俺は既に逆らう事を諦めていた。
●
校門前でうろうろしているシラフ達を私達は遠目から観察していた。
さっきから二人で身体を密着させて、誰かを待っているのだろうか………。
少し揉めているようにも見えるが、やはりとても親しげな雰囲気をどこか感じさせる。
「ねえ、あの人凄い積極的なんだけど……」
「確かに……あんなにくっついているなんて……」
「シラフさんは少し困ってる様子ですし、他の生徒達も二人を凄い見ていますよ……」
「まあ、あれだけ公共の面前でくっついていたらね………。
ほんと、鼻の下も伸ばしてだらしない………。
私相手には一緒に暮らしてても、そんな感じ全然してくれなかったのに………」
「あはは………。
でも、二人の話している様子からは、少し楽しそうな雰囲気を感じるよね?」
「うん……。
シラフって……ああいう積極的な人が好みなのかな?
シファ様とかも、結構シラフへのスキンシップは激しい方だし………。
でも私、あの人があんな大胆な行動をするって噂は聞いた事無いんだよね……」
「私も、あの試合の後少し会話は交わしましたが物腰が落ち着いて真面目な人って感じでした……。
それこそ公共の面前で、身体を密着させるような事をするようにはとても………」
「うーん多分、仕事とプライベートで性格が一気に変わる人なんじゃない?
堅苦しいのは元々苦手で、一応誰かに仕えてる従者って役柄もあるみたいだからさ?」
クレシアの言葉に私とシルビアは頷く。
「なるほど……その可能性は高いかもね……。
それじゃあどうして今もシラフと一緒にいるの?」
「何か用でもあるのか……?
あるいは一緒に帰る約束をしたのかな……」
「それじゃあ二人が一緒に帰る理由は?」
「それは……」
「「二人が付き合っているから……?」」
「まさかね……」
「それは無いですよ……絶対に。
そんな、シラフさんに限って……」
「でも……あんなに仲が良いなんて……。
もしかしたら……」
「「「まさか………。」」」
私達三人の思考が重なると、その場に気まずい空気が流れていく。
シラフ、本当にあの人と付き合っているの?
そんなの私、聞いてないのに………。
本当に付き合ってるなら私に隠す理由は何?
どうして、私には黙っていたの?




