第六十五話 戦いの結末
唐突に戻った感覚に、体は反射的に奮い起こされた。
その時、全身はしる激痛に思わず声が漏れ全身に突き刺さす苦痛に悶え、その場をのたうち回る。
「あガァァっ……」
「シラフ、落ち着いて!!」
「シラフ!!」
声の方向を見ると、ルーシャとクレシアそしてリンがいた。
「何でお前達が……そうだ試合はっ!?」
俺は無理やり傷ついた体を動かすと、ルーシャがそれを止める。
非力な力で抑えながらも俺に必死に訴えかける。
「だから落ち着いて、ここは医務室!!
試合はもう終わったの……」
「っ……」
その言葉を聞いた瞬間。
全身から力が抜け……ゆっくりとその場で身体が静止。
よく思えば寝かされていたのは医療用ベッド。
今の状況を見れば試合は既に終わっていた事は明白。
そう、既に戦いは終わっていたのだ。
「………。
試合はどうなった……」
念の為、俺は2人に結果を問う。
言われずとも、自分が負けた事くらい理解出来たが。
しかし、返った返事は予想外のものだった。
「結果的にはシラフの勝利だよ……。
でも対戦相手だったシトラって人はひどい怪我を負ってしまって今大きな病院に運ばれて集中治療を受けてる……」
「え、俺が勝った?
それに相手がひどい怪我って……」
記憶を思い返す、無数の光の魔術をしのぎ戦った。
突然その攻撃が緩んで彼女に反撃をした。
突然止んだ攻撃に対し俺は彼女を問い詰めたが、そこで会話をいくばくか交わした後彼女が上空に上がる。
飛翔した彼女が右手をかざすと巨大な氷の塊が出現して……その後は……。
俺の記憶はそこで途絶えている。
あれは確実に負けていたはずだ……いや、むしろあの時で俺は負けていたはずなのだ……。
「一体試合何があったんだよ……。
その、教えてくれ……」
「うん……。
そしてルーシャはゆっくりと当時の様子を振り返りながら当時の様子について話始めた。
●
唐突に響いた衝撃に観客達は身を伏せる。
爆発のような物が巻き起こったはずだが囲っている障壁のおかげで爆風の衝撃は訪れない。
しかし、攻撃によって発生した揺れや音は会場内に響き渡り、観客達は恐怖に近い物を感じていたはずだ。
その直後再び衝撃が発生する。
障壁に何かが衝突した音だろううか奇怪な音が響き渡った。
「何なの……今の音……?」
しかし現状を把握する手段が無い。
目の前は氷によって発生した冷気により白い煙に覆われたようになっていたからだ……。
しかし冷気の様子がおかしい。
その冷気は地上から少し浮いた状態で発生したのだ……。
まるで地上に何かがあるかのように……。
「医療班を呼んで下さい姉様!!」
隣に座っていたシルビアが立ち上がり、こともあろうか神器を構えていたのだ。
狙いは先程まで戦いが繰り広げられていた場であり、何を血迷ったのか私は静止を呼び掛ける。
「何をやってるのシルビア!
武器を降ろして!!」
「あのままじゃ、あの人が死んでしまいます!!」
シルビアがその引き金を引くと、その直後巨大な衝撃が発生し、会場を覆っていた障壁が破壊された。
障壁は消滅すると、敷かれていた石床から大量の水が溢れて流れた。
しかし水の様子は何処かおかしい、白い煙を大量に発生させながら流れ出ていたのだ……。
「姉様、医療班を頼みます!」
シルビアはそう言い残すと、白い煙に覆われた会場へ飛び去った。
私はシルビアの言われた通り医療班を呼びに向かわせる。
私と医療班が駆けつけた頃には徐々に白い煙は僅かながらに晴れていく。
そこには立ち尽くしていたシラフと、シルビアに呼びかけられている意識不明で倒れている女性がいた。
●
「病院に搬送された後医療班の人に、女性に何があったのかあの聞いたんだ。
女性は突然何かの外的衝撃に逢い上空から転落、その後地上に大量に溜まっていた高温の水に落ちてしまい全身に重度の火傷を負ってしまったって……」
「重度の火傷って……」
「医療班の人から命に別状は無いそうだよ。
学院の医療技術や設備は世界の何処よりも進んでいるからこの程度の怪我で死ぬことはまず無いって。
闘武祭では怪我人が出るのは分かっているから迅速に対応するようにしているそうだし……。
一週間もすれば完全に回復出来るそうよ」
「そうか……」
「シラフはあの後突然倒れて、他の医療班の人がここに運んでくれたんだ。
シラフの場合は全身に軽い打撲だそうだからせめて今日くらいは絶対に安静だって」
「…………」
「試合の結果についてはルール上で最後まで立っていた選手の勝ちだそうだから、今回の試合はシラフの勝利って事で処理されたんだよ」
「そうかなのか……」
「勝ったのに喜ばないんだね……」
「今はそんな気分にはなれそうに無いな……」
「それじゃあ明日にクレシアのお屋敷に行こう?
そうだ、明日はクレシアの誕生日だしさ。
その、今日のお祝いも兼ねてどうかな?
クレシアもいいよね?」
「うん私はそれでいいよ。シラフはどうなのかな?
その、無理して来なくてもいいよ」
「……分かった。
俺も喜んで参加させて貰うよ。
だから、今は一人にさせて欲しい……。
少し、一人で考えていたいんだ」
「分かった。クレシア、リン行こう」
「無理はしないでよ、シラフ」
リンが去り際にそう言い残すと、三人は俺を残して去っていく。
あの時……俺は氷の下敷きになっていた。
意識がもうろうとしていた。
もうろうとしていたが、俺はまだ負けたく無くて……
俺が記憶を必死に思い返すと何かの光景が頭に浮かび上がった。
意識が途切れる最後、俺は誰かの声を聞いたんだ……
●
体が動かない……
俺はこんなところで終わるのか……
負けたく無い……
俺は強くなると決めたんだ……
大切な人達を守ると決めたんだ……
なのにこんなところで……
意識が薄れる、体が重く言うことを効かない。
目が閉じ、何かの光景が脳裏に浮かぶ。
炎に包まれた光景……。
忘れもしないあの日の出来事……。
そして暗闇の中、声が聞こえる。
あなただけは守るよ、
例え私が死んでもあなただけは……。
誰だ……俺に呼び掛けるのは……?
例えもう会えなくてもいい
傍にいれなくても私はずっと見守っているから
……俺を呼ぶあなたは……一体?
私を助けたあなたを私は絶対に忘れないから
ずっと傍にいれなくて御免ね、■■■……。
俺はあの時、一体誰の声を聞いたのか……。
この時の言葉の意味を、今の俺は知る由もない




