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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第一節 無くしても残る物

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第六十四話 思考を巡らせ

 帝歴403年9月13日 


 学院で開かれる戦いの祭典、闘舞祭。

 今日の相手は、ラノワを倒したというシファの弟。

 同居人の話曰く、直接的な血の繋がりはない存在らしいが……。


 あれが例の契約者の実力か……。

 ラノワからの報告では、確か炎の力を使うと言っていたが……。

 しかし、何故今も頑なにそれを使わない……?

 

 私は思考を巡らせながらも、対戦相手への攻撃の手を緩める事はしなかった。

 しかし、彼との戦いを繰り広げていく内に彼の戦い方への数々の疑問が浮かび上がり始める。


 彼は十剣、つまり神器使いのはずだ……。

 なのに何故、その力を使わない?


 昨日のサリアの姫様は自身の神器を使って戦いを繰り広げていた。

 あれの力はどれも相当高い代物、それをわかっていて敢えて使わないのか?

 彼の動きからは神器を使おうとするそぶりは依然として見られず、正直私にはそんな便利な代物の力をわざわざ出し惜しむ理由が分からずにいた……。


 私相手には使うまでも無いのか?

 あるいは、何か使えない理由が何かあるのか?


 その思考に思いたった次の瞬間、突然彼の速度が上がる。

 以前の速度とは比べものにならない。

 なんなら、倍以上は速くなっているだろうか……。


 身体能力を引き上げたか……。

 あれが全力では無いのはわかっていたがいざ速くなると流石に面倒である。

 そして、やはり神器は使わない……。

 後の彼、未来の彼自身だと名乗ったソイツが我々と敵対する道を選んだ理由……。

 

 そもそも気になるのは、何故名前が今とは違っていたのだろう?

 彼が彼女の養子だとしても名前を変えるとは相応の理由があっての事だとは思う。

 

 ハイド、その名前に何か特別な意味が?


 

 思考巡らせると唐突に、全身を包む障壁の1枚が切り裂かれる感覚と共に金属が何かにぶつかり合う音と衝撃が激しく響いた。


 「戦いの最中に考えごととは………。

 随分余裕がありますね、八席というのは」 


 放たれた一撃は、私の生み出した幾枚の障壁によって阻まれたが1枚は貫通にその奥の障壁にさえも僅かなヒビが入っている。 


 「っ……、面白い。

 身体能力は愚か、武器の強度までも大きく跳ね上がっているとは………。

 その剣が素晴らしいのか。

 君の魔術の腕がいいのか………。

 どちらにしろ、流石だよシラフ君」


 「それでも、あなたに剣は届いていませんがね……。」


 「ああ、それと……。

 私の考えごとは、君の神器についてだよ。

 何故それを使わないんだい?

 まさか私程度の相手には使う価値が無いとでもいうのかな?」


 「さあ、どうでしょうかね!」


 「なら使わせざる負えない状況に追い込むとするよ」


 私から彼の目前から魔術を用いて、転移魔法を使用。

 座標位置は彼の上空、彼を見下ろし次の攻撃の一手に踏み切る。

 私が右手を掲げると、巨大な魔方陣が出現。

 青い光を放ち、会場の空気が冷え込み始めた。

 

 氷の魔術、これを君はどうするかな?


 「さあ、君の力を見せてくれ!!」


 魔方陣から現れたのは巨大な水の塊そして、それはたちまち凍りつき巨大な氷山と化す。

 私が右手を振りかざすと、巨大な氷を留めていた力が解かれ重力に引かれるがままに、地に堕ちていく。


 そして巨大な衝撃が会場に響き渡った……。



 「シラフ!!」


 私の隣で彼の応援をしていたルーシャが、目の前の様子を見兼ねて大きな声を上げていた。

 先程目の前に発生した巨大な氷の塊。

 遠目で見たとしてもその大きさは小さな山程はあるだろう、それだけの巨大な物体が人体に向かって放たれた。


 狂ってる……相手は人間なのに。

 下手をすれば殺してしまうかもしれないのに……


 戦いに関して素人の私も、目の前の光景にらそんな感想を抱いた。

 今まで繰り広げていた、高速の戦いには確かに驚きつつも、流石にアレは……、


 アレは確かに並の人間のする事では無い……。

 あんなものを受けたらいかに彼が強くとも、普通の人間が無事で済む訳が無いのだ……。


 会場に巨大な衝撃がはしり、観客側からも幾つか悲鳴が上がる程。

 氷から放たれる冷気が私の横を過ぎ去っていく、あるいは体が反応しているのだろう彼の身に何が起こってしまったのかを……。


 お願いシラフ……無事でいて……


 魔力の気配を感じていた……。


 目の前に落ちている氷から、突然小さな亀裂が生じる。


 魔力が高まりを感じる……。

 だが、脳裏に過ぎるこの違和感は何だ?


 私は自分の背筋に悪寒のような物がはしる感覚を感じていた。

 何らかの警笛を知らせるそれに私は思考を巡らせる。


 何を怯えているんだ私は?

 魔力が高まったのなら反撃に備え防壁を張ればいい事だろう……。

 それで足りなければ防壁を重ねて張れば済む話だ……


 亀裂が広がり、塊の三分の一に達する。


 何故だ……?

 何処からこの違和感はやって来る……


 氷の亀裂が半分に達すると、私の脳裏に何かの視線が過ぎった。


 「っ!」


 慌てて周りを見渡すが、そこには騒然としている観客達……。

 ここからその個人の顔までは認識出来ない。

 仮に観客から襲われると考えても、教員や魔道協会の者達が張っている防壁を易々突破出来る者はいないだろう。


 何なんだ、この違和感は……?

 氷の亀裂が広がる度に強くなっていく……っ


 そこで思考が行き着いたのか、巨大な氷に視線が戻る。


 まさか……彼がこの違和感の正体か……。


 そこで氷の亀裂が7割に達しようとしていた……。

 氷の塊が震え始めた……。

 氷の耐久力は既に限界が近い……。

 あとほんの数秒後にはあの塊は崩壊するだろう。


 何だ……周りがゆっくりと見える……


 そして、周りを改めて見れば地上は白い煙に覆われている事に気付く……。 


 「氷の冷気……。

 だがここまでの規模の物になるのか……。

 いや違う……あれは……。

 アレは、氷の冷気じゃ…………」


 そして、その巨大な氷の塊は破砕音を巻き上げると莫大な衝撃が会場に再び巻き起こった。

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