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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第一節 無くしても残る物
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第六十一話 もっと強くなりたい

 なるほど、これが契約者の力ですか。

 確かに一騎当千と呼ばれるだけの力ですね。


 私は自分に向けて放たれる弾丸を最低限の動きで対処し、敵の猛攻をしのいでいた。

 攻撃の機会を窺いながら、致命傷を回避することに努める。

 

 これだけなら容易な作業そのもの。


 しかし、目の前の彼女の能力は、あまり私と相性は良いとは言えない。

 相手の成長速度はこちらの学習能力を遥かに上回っているのだから。

 故に彼女相手に長期戦は絶対に不利……。

 こちらが早期に決着を付ける事が最善と判断できる。

 

 そうしなければ、ラウ様の脅威となる可能性が高い。


 私の思考がそこに至った直後、自らの右後方から襲い掛かる弾丸を持っていた短剣で弾いた。


 「数で圧倒出来るとは思わない事ですよ。

 私の魔力が届く範囲は全て私の領域ですからね」


 私の言葉に応じてのか、弾丸の雨が突然止んだ。

 先程まで四方八方と振り注いでいた鉄の嵐が止むと、突然空間が途切れたかのように彼女が姿を表した。


 「分かっていますよ。

 私も、あなたがこの程度とは思ってはいませんので」


 私は攻撃に移る、先程までの攻撃で彼女の攻撃パターンは粗方検討は付いているからだ。

 彼女の攻撃は全て読める、致命傷を回避するくらいであとは背後から一撃を浴びせれば私の勝ちだ。


 彼女の視界に入らぬよう、一気に加速。

 私の皮膚に現れている規則的模様が残像として一瞬この空間に残滓として描かれて行く。


 彼女の後ろに忽然と無音で現れると彼女の視線が僅かにこちらの姿を捕らえた。

 しかし遅い。

 私がためらう間もなく短剣は彼女の背を捉えた。

 ほんの一瞬の出来事、故に彼女は自分が刺された事に気付く事なく、膝から突然崩れ落ちていく。


 刺された背中から血は何故か流れていない、代わりに魔力の光が揺らめくように彼女の刺された場所から上に流れていたのだ。


 「全身に存在する魔力の流れ。

 私はその一部を一時的に止めました。

 致命傷にはなる事はありませんが、こうなればしばらく戦闘の続行は不可能でしょう」


 「なるほど。

 なら、私には効きませんね……」


 彼女がそう告げると突然刺された短剣が砕け散った。

 先程まで溢れていた魔力の光が収まる。 


 「なっ………」


 「私の力に気付いておきながら、何故こんな無駄な事をするのです?」


 シルビアがそう言うと、持っていた長銃を構え後ろでこちらを眺めていた私に銃口を向けた。

 

 私は誤算をしていた。

 私の思った以上に彼女は強い。

 戦いを続ける内に成長をしている、それも急速にだ。

 私の想像を遥かに超える成長速度で、確実に私に勝てるつもりでいる。


 私を倒せる実力に手が触れかけているのだ。

 

 「武装を変更。

 やはりあなた相手に近距離では無理あり過ぎました。

 貴女は強いです、本当に……」


 私は手に持った短剣を投げ捨て両手を空にかざす、黒い魔法陣が頭上に浮かび白い発光を放つと黒い何かが現れる。


 私が手にしたのは二丁の黒の拳銃。

 両腕を交差させ臨戦態勢をとった。

 目の前の彼女は今ここで倒さなければいけない、いずれラウ様の脅威となるのなら。


 「決着を付けましょうか、サリアの姫君」



 二人の戦いは激しさを増す。

 これまで送られていた試合とは別次元とも言える戦いぶりに観客達は更に盛り上がりを見せていく。

 そして、二人の戦いを端末から俺達は遠くながらも応援していた。

 

 「シルビア……もうあんなに強くなっているの?」


 「俺も驚いている、彼女との練習はあの一回しか無かったからな。

 ものの一ヶ月程度であれだけ戦えるのはすごいよ」 


 「ルーシャの妹さん、すごい強いんだね。

 今までは、小柄で可愛らしい印象だったからさ」


 「ねぇ、シラフ?

 神器って簡単に強くなれるような物なの?」


 「いや、それは神器によるよ。

 神器には、大きく分けて三種類の系統がある」


 「三種類?」


 「そう、記憶型と能力型、そして観測型だ。

 記憶型は神器の使用者の記憶を溜め込んで次の契約者に受け継いでいく物。

 能力型は単純に力のみの物で大半がこれにあたる。

 俺の神器、炎刻の腕輪はそうだな。

 そしてクレシアの神器、天臨の耳飾りは観測型。

 敵の攻撃を学習し対応する、記憶型に似ているがこれは一代のみで有効で、記憶型は継承を繰り返す程契約者となればすぐに強くなるんだよ。

 観測型は成長速度が著しく高いが実戦経験が繰り返さないといけないって事が弱点といえるな」


 「シラフから見ると、彼女の実力はどうなの?」


 「強いよ、恐ろしくな。

 戦闘の経験を得て、一試合こなす毎に強くなっていく。観測型にとって闘武祭は肥えた土壌のそれだからな」 


 「じゃあ、この勝負はシルビアの勝ちだよね?」


 ルーシャの言葉に対し俺は首を振った。  


 「いや、まだ分からないよ。

 対戦相手の実力は相当な物なのは間違いない」


 「彼女の事を知っているの?」


 「まあ一応。

 気が動転していたとはいえ、俺は彼女に不意を突かれた事があるんだよ。

 あれが実際の戦闘だったら俺は殺されていたに違いないだろうな。

 多分俺よりも実戦経験は遥かに上だと思う。

 それに、多分彼女はシルビア様の弱点にも気付いているかもしれないからさ」


 「弱点?

 一体何が弱点なの?」


 「それは……」



 この戦いは私の僅かな優勢だろうか。

 お互いが激しい攻防を繰り広げる中で僅かではあるが私の攻撃が優勢へとむかっている。

 対戦相手である彼女は少しずつであるがこちらの攻撃によって押されていた。


 相手の行動が読める。

 彼女の行動にはある程度の規則性がある。

 熟練者程、その行動に癖が出て来る傾向が高いのか。


 私の攻撃が一方的で続く中、彼女の攻撃を躱すか牽制攻撃で間合いをとる行動を繰り返しているのみであり上手く攻勢に移れずにいる。

 こちらの優勢に変わりない、しかし何処かの予感が拭えない。

 明らかに順調過ぎる、誘い込まれてるかのような感覚だ。


 何か目的がある?

 でも何かが分からない以上、このまま長期戦に持ち込むのは不利の可能性が極めて高くなる、なら。


 私は攻撃のテンポを僅かに上げていく。

 突然の攻撃の間隔が縮みシンの表情が僅かに険しくなった。

 

 意識をこの攻撃に向けさせる。

 攻撃の雨を彼女が防いでいる隙を見計らい、一気に背後へと転移魔法を発動させる。


 「私の勝ちです」


 私の放った弾丸は、明らかに彼女の死角であった。

 防御や回避は不可能、当たれば致命傷に他ならない確実な一撃だ。


 しかし、彼女の浮かべていた表情は焦りでは無い事に今更気付く。

 あの焦りにも見えた表情は勝利を確信した僅かな笑みだったのだと


 「なんで……」


 放たれた必勝の弾丸は寸分違わず彼女の死角から襲い掛かっていく。

 しかし弾の当たる直前、彼女の目の前から弾丸は消えたのだ。

 私はその瞬間に何かの光を一瞬垣間見た。

 青い光を放つ、手のひらにも満たない転移魔法のゲートの姿を……。

 そして爆発音が闘技場に響き渡ると。

 大きな砂埃が舞い上がり、視覚が大量の砂埃で完全に覆われた。



 ようやく視界が晴れると、勝敗は既に決していた。

 拳銃を構えた彼女は倒れている私を見下し対し銃口を頭に向けていたのだった。

 私が敵を目の前にしながらも立ち上がる事が出来ない事に加えて、私の魔力は完全に枯渇していた。


 突然魔力が大量に奪われた事によって、身体がその衝撃に耐えられず硬直。

 全身が思うように動かず、指先すらまともに動かない。


 「どうして、あの攻撃が読めたんですか……」


 「あなたの弱点は学習能力の高さですよ。

 実戦経験の少なさが仇になりましたね

 相手の動きをすぐに覚えて対応出来てしまう、ならば最初から自分の戦い方を偽ればいいだけです。

 誤った情報を学習させた上で、私はあなたが必勝の一手を放つ時を伺っていました」


 「そういうことですか。

 どおりで、上手く行き過ぎたと思ったんですが。

 私、まだまだ甘いですね」


 「いえ、あなたは確かに強い。

 あのまま続いていればいずれはこちらが負けていましたよ。

 あと数年、いや半年程実戦経験を積んでいたなら私は負けていました。

 あなたの実力は賞賛に値します」


 残った僅かな力でシルビアは仰向けに転がる。

 腕を目に当て、溢れ出す感情を押さえていた。


 「負けるのはやっぱり悔しいですね……。

 私の負けです」


 私の声にに試合終了の鐘が会場全体に鳴り響いた。


 「勝者、シン・レクサス選手!!

 両者の奮闘に会場の皆さん拍手を!!!」 


 会場全体から盛大な拍手が送られる。

 満身創痍で動けない私にシンは手を伸ばし肩を貸してくれあ


 「今は休んでいて下さい。

 私が医務室まで運びますから」 


 「ありがとう御座います」


 「一つ聞きたい事があります」


 「何ですか?」


 「あなた何故、一国の姫で有りながら戦うのですか?

 ただ単に神器に選ばれたのが理由では無いはずですよね?」


 「………。

 失いたく無い人がいるんです。

 その人は私にとっても国にとっても無くてはならない人で、でもその人は何処か危なっかしくていつも私達を心配させてしまう。

 だから戦う力があるのならその人を助ける為に、守る為に使いたいんです」


 「守る為に戦う力ですか」


 「あなたは何の為に戦うんですか?」


 「あなたと似たような理由かもしれません。

 失いたくない人が私にも居りますから」


 私達が会場から去るまで盛大な拍手と歓声が鳴り止む事は無かった。

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