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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第一章 理想の生き方
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第六話 一時の安息


 現在俺達は、学院に向かう船の待つサウノーリという港町に向かっていた。

 その街は森のお屋敷から馬車をつかっても大体二日程掛かる距離に位置している。

 故に俺達は何度か最寄りの町にて宿泊することになったのだが。

 宿の規模もあり個室のみで取る事は出来ない時は俺とラウは同室という機会が道中あった。


 まぁ、俺は別に構わなかった。

 ラウも同じらしく、そこまで気にしなかった模様。

 まぁアイツら部屋でも自分が話題を振らない限りほとんど話さないので、同じ部屋にいるのが多少息苦しい。

 返事が来ても、大した会話も広がらないが……。

 生まれの町も昔栄えていた片田舎の外れであったり、趣味は読書と武術の鍛錬……。


 大体自分とやってる事は同じ……。

 この前リンに言われた似ている発言が脳裏に過ぎる。


 しかし、彼も自分から会話する機会はある。

 まぁ、それは世話係のシンに対して多少の事務的会話を交わす時くらい。


 故に、俺達との交流に関して奴は基本的に無関心のようで、というか彼女有りきの人付き合いなのか?

 そんな彼の普段の様子としては暇さえあれば、何処から取り出したかも分からない本に目を向け手帳か何かに気になった事柄を書き留める程度だろう。

 

 そういや、馬車でも本を読み始めて途中顔色が悪くなった事もあったな……。

 

 そんな彼が書き留める程の内容から察するに、物語的なモノではなく学問や戦術、経済学辺りの内容だろうか?


 どれも俺の勝手な推測、しかし学院に向かうのだから勉強に対して真面目な姿勢は評価出来るだろう。


 そんな事がありながらも、屋敷を出てから2日後の昼過ぎ辺りに俺達四人と一匹はサウノーリへと到着したのだった。

 

 

 帝歴403年 7月12日

 

 俺達四人と1匹は馬車から降りると、運転手に荷物の手配を頼み街へと出掛ける。

 船の出港まで時間がある為、俺は姉さんの提案により街の散策をする事になった。


 姉さんは一応ラウ達も誘ったようだが、彼等はその誘い断り別行動になってしまう……。

 俺はその事を特に気にせず二人の動向が僅かに不安な気持ちで溢れていたのだな。


 「シラフ、まずは昼飯にしようよ。

 もうお腹がペコペコ……」


 「私も、まずは腹ごしらえが先だと思う。

 シラフは何か食べたい物ないの?」


 リンと姉さん達は既に空腹らしい、このまま放っておくのもあれなので素直に二人の意見に従ことにした。

 あの二人に構うよりも、近くの二人の機嫌を取ることの方が今は最優先だろう。


 「はいはい。

 分かったから、それじゃあ先にお昼にしよう。

 食べたい物は姉さん達に任せるよ」

 

 「やった!!

 ねえシファ姉、それじゃあ何処のお店に行く?!」

   

 「あそこも良さそうだよ!

 ほら!、シラフも早く行こうよ!!」


 二人が子供のようにしゃぎながら俺の前の方を楽しげに何処かへと走り去ってしまう。

 どの店がいいか選んでいるのを俺は仕方ないなと思いながら、彼等の後を歩いていた。


 俺みたいな近しい間柄に見せない子供のような姿の姉の様子に、何処か俺は気分が軽くなった気がした。


● 


 馬車を降りると路地裏の方に案内され、私はシンと二人で会話をしていた。

 わざわざここに連れ込む必要性は薄いだろうと思っていたのだが………。


 「ラウ様、申し訳ありませんが学院での生活において常にあなた様の傍に居ることは難しいと判断出来ます。

 ですので、恐らくあなた様と同室になるだろうと思われるラーニル家の一行様達との協力を推奨します」


 シンの言葉に対して、私はこの2日で得た自分の考えを伝える。


 「私一人で問題ない

 今では日常生活も問題なく送れるだろう。

 わざわざ、アレの助けを乞うは必要ないだろう。

 一般人との生活に慣れる為にも私が自立出来れば、シンにとっても良いことのはずだ」


 「ですが………、学院では不測の事態も考えられます。

 常に私が傍にいられれば何かと対応出来るとは思いますが……。

 それに、一人はその………」


 彼女の考えに一理あるので渋々ラウは応じる。


 「………。

 了解した、多少は視野に入れておく

 シン、それで現在の私の身体には何か異常は無いか?」


 「はい、あなた様の身体情報は私が常に確認しておりますので問題ありません。

 何かありましたらすぐに連絡及び対応致します」


 私は自分の手を動かし調子を確認する。

 自分でも分かる範囲、特に身体を動かしても問題がないことはわかる。


 「そうか……」


 「ラウ様、あの二人をどう判断しますか?」


 「あの二人か。

 やはり例の契約者で間違いない。

 シラフ・ラーニルはヘリオスの契約者。

 そして、シファ・ラーニルはクロノスの契約者で間違いないだろう。

 仮に相手をするとして、弟の方は今の私一人で問題なく対応出来るだろうが、問題はその姉だろうか」


 私の言葉にシンは疑問の様子であった。

 その反応から恐らく彼女の持つ力では、アレの潜在能力を見抜けないのだろうか。


 「どうしてです?」 


 「クロノスの能力は時間を支配する力がある。

 例え傷を与えたとしても、時を戻せば元通りだ。

 流石にアレを倒す事は、今の私では到底至難と言えるだろう。

 しかしソレ以前に、奴の実力の底が知れない。

 幾度か会話の機会を探ろうと彼女が持ち掛けたが、既にあの女はこちらの実力の底を見透かしていたくらいだ。

 私ですら、アレの力は図り知れない。

 あまりにも規格外の力があの女の中に秘められているはずだ。

 しかし、いずれは乗り越えるべき存在。

 勝てなければ私達が存在する意味は無くなってしまうのだろうな……」


 「そうですね。

 我々はその為にマスターによって造られた存在なのですから」



 姉さん達に街を連れ歩かされた後に、ようやく俺は姉さん達を連れてようやくラーク行きの船に乗り込んだ。

 荷物が届いている事を受付で確認し、手続きを軽く済ませると受付から部屋の鍵を受け取る。

 部屋の番号を確認しながら姉さん達に話掛けた。


 「姉さん達はこれからどうする?

 荷物の確認も済ませたし、夕食までは時間がまだあるみたいだよ」


 「それじゃあ私はリンちゃんと船を散策してくるよ。

  結構広いし、探検のしがいがありそうだからね」


 「探検って、そんな子供じゃあるまいし……」


 俺の言葉よそに、二人は勝手に盛り上がっていると話はどんどん勢いに飲まれていき、気付けば……


 「それじゃあ私達は行って来るから、夕食になったら呼びに来てね」


 そう言い残すと、姉さん達は船の探検を始めてしまったのであふ。


 「全く……あの人達は……」


 勝手気ままな二人に置いて行かれた俺は、なんとなぬ船の甲板へと向かった。

 門出を控える船上で、俺は大海を見渡していると聞き覚えのある声が聞こえた。


 「こんな所で会うとは奇遇ですね、シラフ様」


 声の方を振り返ると、ラウの従者であるシンがそこにいた。

 長い藍色の髪を後ろに束ね、何処か落ち着いた印象の彼女にしては珍しい姿だった。

 しかし主であるラウの姿は見えず、常に彼と一緒であるはずの彼女が一人船内を歩き回るのは珍しいと感じた。


 「あなたは、確かシンさんでしたよね?

 一人で一体、どうしたんです?」


 「はい。

 実はラウ様に一人になりたいと仰られたので、こうして宛もなく彷徨っていた所です。

 シラフ様は、シファ様達とご一緒では無いんですか?」


 「姉さん達は、船の探検だと……。

 全く、いい年して子供みたいで……」


 「そうですか……。

 随分と楽しそうな人達ですね、羨ましいです」


 「そうですか。

 あなたは、アイツと居てどうなんです?

 道中、ずっと無愛想でしたし。

 正直申し訳ないんですけど、いつも一緒で楽しいとか、そういうものを感じてたりするんですか?」


 俺の思い切った質問に対し彼女は、僅かに間を空けて答えた。


 「あの人に仕える事が今の私の存在価値です。

 仮に、もし私がラウ様に不必要と判断されてしまえば今の私に生きる価値は何もありませんので……」


 そう彼女が言葉を告げると、ようやくこの船は動きだしたのだった。

 思わぬ彼女の返答に、俺は言葉に悩んだ。

 幾らか船が進み落ち着いた辺りで、俺は彼女に改めたて問いかけた。


 「あなたにとって、あのラウって人はそれ程に大切な存在なのか?」


 「大切……。

 その認識で正しいと思います。

 私は生前の前の主にラウ様に仕えるよう託されたんです。

 それからずっと私はあの方を支えています」


 そう言うと彼女はどこか寂しそうに、過去を懐かしむように海を眺め始めた。

 彼女の言葉の意味が気になるが、これ以上の詮索は控えた方がいいと何となく感じた。

 どうにか、会話の流れを変えようと必死に俺の頭は言葉を選んでいると。


 「気を遣っているのですか、シラフ様は?」


 俺の考えを読まれていたのか、早々に彼女にバレていた模様である。


 「まあ……。

 話したくない事の一つや二つくらいあるだろう?」


 すると彼女は意外な返答を返した。


 「私は別に構いませんよ。

 少し前まではずっと一人でいましたから、誰かと話す事は楽しいと感じています。」 


 「話す事が楽しい、か……」


 まぁ、それは何となく分かる気がした。

 姉さん達がいなかったら、例え生きていたとしても今の俺はこうして笑っていられないだろうと……。


 「確かに、誰かと話せる事は楽しいのかもしれないですね」


 「はい。

 誰かに必要とされていれば、自分が存在している事に僅かながらでも価値を感じる事が出来ますからね」


 「それじゃあ改めて聞くんだが………。

 誰かに託されたって言ってましたよね、ラウの傍に居るようにって……。

 その託した人は今どうしているんです?

 やはり、もう既に……」


 「ええ、お考えしたその通りです。

 私に使命を託した彼女は、今から5年程前に亡くなりました。

 そして、その当時残されたのは私一人で。亡くなった彼女の最後の命令に従い、私は以後ラウ様の傍に居続け今に至るまで支えております。

 彼女は私の最も尊敬している人です。

 私にとって、掛け替えのない存在で、ラウ様を支え続ける事が彼女の為になるのなら私はなんだってしたいんです」


 彼女はたった一人でラウの為に傍にいる。

 彼女に託した、その人の想いを引き継いで。

 その人は彼女の親なのだろうか。

 違ったとしてもこれ以上、聞く事は控えた方がいいと感じた。


 「あまりいい話ではありませんでしたね。

 気分を害したのであれば謝罪いたします。」


 「いや、話してくれてありがとう。

 あなたがラウの傍にいる理由が少しでも分かった気がするよ」


 「分かって貰えれば何よりです。

 ラウ様はいつも無愛想な方ですが、少しだけ他の人より不器用で根は本当に優しい方なんです。

 ですので、以後仲良くしてもらえれば私としても非常に助かります」


 彼女と話していると何となくだが、この人はアノラさんに似ていると思った。

 そう感じたからこそ俺は少しでも目の前の彼女の力になりたいと感じつつある。


 「仲良くなるかは分からないけどさ、善処はするよ」


 その言葉を聞くと、彼女は優しく微笑み


 「今後ともラウ様共々よろしくお願いします」


 その微笑みは、心からの感情なのだと俺は感じた。

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