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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第一節 無くしても残る物

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第五十七話 力の差

 「流石、八席を名乗るだけはあるってところかな」


 男はこちら二人の猛攻を軽々とさばき、回避ばかりを繰り返し不敵な笑みを浮かべていた。

 右手に構えた細身の剣がこちらの剣戟を軽く防いでおり、実力のそこが見えない。 


 ……実力の差があまりに大き過ぎる。


 私の思考にそんな事が過ぎる、当然。

 相手は強い、単純にそれだけの事。

 

 こちら二人が男から距離を取り態勢を整え、私は息を整えると、共に戦っていたローゼンが額の汗を拭い声を掛けてきた。


 「ラノワ、お前は一度下がれ!

 下手な連携はかえって邪魔だ。

 奴は俺一人で相手をする」


 「……分かった」


 私はローゼンの命令に従い後ろに下がると、二人から更に少し距離をとる。

 私よりも実力の上である彼の言葉を信じ、この場を託すことに決めた。


 「こちらは本気でいかせてもらおう。

 お前も本気でこいよ」


 「じゃあ、こちらは神器を使わせてもらうよ。

 君の力は神器が無いと少々やりずらいからな」


 男が剣をしまうと、右腕にある腕輪を掲げた。

 光を放ち、そして炎の渦が巻き起こり炎を帯びた一振りの剣が出現し、離れたこちらにまで燃え移りそうな程の熱量を放っていた。


 「炎の神器使いか……。

 なら俺も力を使わせてもらうか?」


 そう言うと彼の手元にも真紅の剣が出現した。

 男の炎の剣とは違い剣には規則的模様が浮かび上がった金属の特性を色濃く感じさせる無機質なソレだ。

 目の前に現れた真紅のソレを手に取り、その剣先を男の方へと向け言葉を続ける。


 「お前、俺の事をどれだけ知っている?」


 「まぁ、それなりに知っているつもりだよ。

 俺が直接刃を交えた記憶は無いが、かなりの実力者であるとは仲間から聞く機会があった。

 だから俺も君相手には神器を使用した。

 君がよく知る彼女と同じような力をね?」


 「なるほど……、全く……。

 お前、アイツを知るとは、厄介な奴に変わり無いな」


 「お前達の存在は色々複雑だからな。

 八席の序列一位、学院最強と名高いお前が所詮はハリボテの冠ときた。

 お前はそもそも学院最強に大した意味を感じてはいないんだろう、だから興味はない?

 君が学院最強だとしても、君は君達の中では常に二番手、三番手争いをずっとしてきたんだからね?」


 男の言葉の意味がわからない。

 しかし、彼の方は癇に障ったのか苛立ちを露わに剣を強く握り締め魔力の高まりを感じさせていた。


 「やっぱりお前、腹が立つな」


 「黙らせたいなら、さっさと来い」


 ローゼンが突然、男へと一気に斬り込んだ……。

 しかし男はその一撃を簡単に受け止める。


 「っ!?」

 

 「悪くないよ、でも軽い」


 「お前……その力……、まさか?」


 そして高速の剣技に移り変わる。

 炎天下の大地の上で、金属音が響いていた。

 高速で動き回る両者の姿に、土煙が舞き起こる。

 視界だよりに動けず己の感覚のみで敵の動きを感じる以外に方法は無いだろう。


 一際大きな金属音が起こると、砂煙が晴れ両者の姿が現れる。

 両者共に両手で剣を持ち力比べをしているかのようにみえる。


 「流石神器使い……、

 アレと契約者として選ばれるだけはあるな」


 「それはこちらの台詞だよ、あいつと同じような存在の割には……。

 随分と感覚的に動いているよ」


 「なるほど……奴は俺と違って論理的か……」


 「そうだなっ!」


 男が力押しでローゼンから剣を離れさせると、一度態勢を整える。

 剣を持ち直し、構えを変える。

 右手だけで持っていた構えとは一変し剣を両手で持ち中段の構えを取る。

 

 その構えを見た瞬間、ローゼンはようやく何かを察したのか表情が僅かに険しくなる。


 「やはりそうだ。

 その構え……ヤマトの……。

 何故、サリアの人間であるはずのお前がヤマトの剣技を使える?

 誰からか教わったのか?」


 「どうだろうな、別に今の俺がヤマトの剣技を使えたところで何もおかしい事は無いだろう?

 なんせお前は、あの祭典で得た情報を糧として世界中の武術や魔術を使えるんだからな」


 「…………。

 なら、これならどうだ?」


 ローゼンの姿が突然男の目の前から消える。

 そしてそのすぐ後に男の後ろに現れ不意打ちをする。


 「っ!」


 男は構えた剣を右手に持ち直し、後ろに剣を回す。

 ローゼンが死角から繰り出した一撃を紙一重でその右手に持った剣でいなしてみせた。 

 

 そこから間もなく、高速の剣戟が織りなされるも決定打となる一撃はいつまで経っても当たらない。

 ローゼンの表情に徐々に焦りが現れるも、男は依然として平静そのもの。


 ようやく一撃が当たるかに思えたが、すぐさま攻撃を返され彼の剣が男の剣に阻まれ大きく吹き飛ばされる。


 「危ない、危ない……。

 危うく一撃をもらうところだった」


 「……隙だと思ったが、誘導されていたとしか思えない。

 お前の実力ならあの一瞬でわざわざ防ぐ前に切り込めたはずだ」


 「………」  


 「お前の狙いは一体何だ?

 わざわざ俺達だけをこの場に招き、戦わせた理由は……?

 この戦いに何の意味がある?」


 「大した理由は無いよ。

 強いて言えば今の実力の把握といったところだ。

 それと、私が丁度体が少しなまっていた頃合いだったからね。

 軽い運動程度にはなるだろう?」


 「ふざけた事を言う。

 お前の考えと行動が読めない。

 お前程の実力者が何故、どんな方法を使ったが知らないが何故に過去の自分を殺そうとした?

 先程言っていたよな、下手をすればお前自身も死ぬと……。

 自分が受けるリスクとその見返りがどうも釣り合わない。

 まず普通の人間はそんな事をしよう思わない。

 だってさ、お前は結果的に世界を救った大層な英雄様なんだろう?

 数多の犠牲は出たが世界の窮地を救えたんだ、それで満足だ?

 ソレがお前の得た成果であり、掴んだ栄光だ。

 なのに何故、その結果を、課程を否定する?

 お前達が必至に戦って得た世界を何故、何故捨てでまでこの世界に降りたった?

 答えろよ、サリアの英雄?」


 剣先を彼に向けて、男にその言葉を告げた。

 私も同じ事を思った、その言葉を聞き男はどこか諦めたような乾いた笑いを浮かべた。

 

 気色の悪さ、いや何もかも捨てたような抜け殻のような瞳で俺達を見つめた。


 「俺は、全てを分かった上でここにいるんだ。

 まあいいさ、丁度いい機会だから特別にアレをお前達には見せてやるよ。

 俺達が全てを掛けて倒そうとしている敵が、お前達がこれから先挑むであろう敵がどんな存在なのか…………。

 その参考程度にはなるだろうな」


 男は剣を両手で持つと空へと掲げる。

 込められた魔力の密度が上がり、炎の色が青みを帯びていく。

 青みを帯び始めた炎は男を包み込み、そして包み込んだ炎が弾けた。


 現れたのは燃え盛る炎の剣を携えた存在。

 先程とは別人とも言える異型のソレだった。

 茶髪の髪は青みを帯びた炎が混ざり、真紅の火の粉が舞っている。

 着ていた衣服の形も、黒い鱗状の鎧のそれと化しており以前の姿とは全くの異質である。

 背には蒼炎と真紅の炎が混ざり合う異型の双翼が生えていた。


 「ざっとこんな物かな」


 変わり果てた存在に、私と彼は震えていた。

 先のシファとの戦いで感じた恐怖に匹敵する絶望的な魔力の圧力。

 世界を滅ぼし兼ねない天災相手に羽虫が挑んだようなものを、私はあの男から感じていた

 

 「何だよ、何だよ………その姿は?

 お前も、ラノワと同じ悪魔憑きなのか?」


 ローゼンが男にそんな事を言うと、男は首を振る。


 「いや、違う。

 俺は悪魔憑きでも、まして精霊使いでもない。

 この姿は神器使いの中でも限られた者しかたどり着けない境地の力」


 「……。」


 「その名を、深層解放。

 神器に選ばれた者の中でも限られた一握りの者しか使えないらしいが………。

 この力は、姉さん……いやシファ・ラーニルも使えるはずだ。

 君のよく知る彼女はまだ扱えないはずだが。

 彼女に勝てない君が、この姿の俺に勝てる可能性は一割、一厘としてもありえないだろう」


 「っ………」


 「俺は、いや……。

 俺達は、この力を持ってしても勝てなかった。

 自分の無力さに絶望し自分の弱さ故に多くの者が死んでいったよ」


 「化け物じみたお前がそれ程言うか……」


 ローゼンの言葉を聞くと、男は剣を腕輪に戻す。

 腕輪に戻ると同時に異型と化した姿が戻っていく。


 「いずれ、決着を付ける為に再び現れるかもな。

 とにかくだ、明日は何も起こらない。

 せいぜい闘武祭に向けて鍛錬を積むことだ。

 君達の活躍を陰ながら応援しているよ」


 男が去ろうとする、


 「待て、最後に一つ聞きたい事がある。」


 後ろで戦いを見ていた私は男を呼び止めた。


 「何が聞きたいんだ?」 


 「何故、自分を手に掛ける必要がある?

 その理由は何だ?」


 「世界を破滅に追いやった元凶は、この頃の俺自身だったんだよ。

 そして、過去の私が世界を変えるに足る存在なのかこの目で、この手で確かめる必要がある。

 その為に、私はこの地へ来る事を選んだんだ」


 そして男は後ろを振り向くと、男のいる地面に魔法陣が現れた。

 魔法陣の光に包まれ男はこの場から去って行く。

 私達はその背中を追えなかった。

 

 彼とのあまりの実力差に打ちひしがれ、先程の威圧感からの解放の余韻に、ゆっくりとお互いに膝を折り倒れ込む。


 「………情けねぇな、俺……」


 「私もだよ、ローゼン……」

 

 炎天下の大地の下で私達は熱く乾いた空を見上げ続けた。

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